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第4話
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子供が生まれてから、いろんなことが変わった。
ミカゲはよき母として振る舞い、俺との確執なんて何もなかったような顔をした。
子供がアルファなのかベータなのかオメガなのかは、思春期まで育たないと判明しない。
どの性別だったとしても、分け隔てなく育てるのだろう。そんな気がした。
首輪と手錠は子供が生まれたのと同時に処分した。子供に何かを悟られないよう、体裁を整えている自分に苦笑した。
もしかしたら、よき父になれるのかもしれない。
このまま老衰で死ぬまで一生、俺はミカゲと共に生きるのだろう。
ミカゲに対して、昔ほどの危険な衝動は起こらなくなった。年を取ったのか。大人になったのか。
子供に笑顔を向けるミカゲを眺めるのが楽しくなった。
――もし俺を苦しみに突き落としたかったら、ふたつ方法がある。アルファから一方的につがいを解消すること。アルファがオメガを置き去りにして先に死ぬこと。
生きるのがつらそうなミカゲを眺めるのは好きだったが、それを実行する気にはならなかった。
人として成長したのだろうか。
目が覚めた。
病院のベッドだった。
俺は医療機器に繋がれていた。
視線をあげると、もう中年になってしまった息子がいた。その隣に娘。その隣に次男。みんなもういい年の大人だ。ミカゲから生まれた子はどれもアルファで、みんな立派な仕事に就き、自立して裕福な暮らしをしている。
ミカゲはどこだと視線で探し、もういないのだということを思い出した。
ミカゲが育てた子たちは、みんないい子に育った。俺の遺伝子を受け継いでいるとは思えないほど、いい子に育った。
「母さんが、入院してた時に言ってた言葉を、父さんには内緒にって言われてた言葉を」
長男が口を開いた。どこか切羽詰まった、早く言わないと間に合わなくなってしまうと言いたげな顔で。
「おまえたちが生まれる前、父さんと母さんはいろいろあって、愛し合ったり、憎しみ合ったり、本当にいろいろあったけど、こうして子供たちが生まれて、振り返ってみると、いい人生だったなあって。父さんとつがいになってよかったって」
俺は目を見開いた。
ミカゲがそんなことを言うなんて夢にも思っていなかったから。
「幸せだったって」
それがミカゲの本心なのか、子供たちにそう思っていてほしかっただけなのか、もう確かめる術はない。
それでも。
俺の涙腺は容易く緩み、透明な雫がこぼれ落ちた。
少し起きていただけでも疲れたのか、それとも純粋な睡魔なのか、意識が遠のき始めた。
「父さん!」
「お父さん!」
子供たちの呼ぶ声が聞こえる。まるで子守唄のようだ。
俺はまぶたを閉ざした。意識が沈み、子供たちの声が遠くなる……。
ミカゲはよき母として振る舞い、俺との確執なんて何もなかったような顔をした。
子供がアルファなのかベータなのかオメガなのかは、思春期まで育たないと判明しない。
どの性別だったとしても、分け隔てなく育てるのだろう。そんな気がした。
首輪と手錠は子供が生まれたのと同時に処分した。子供に何かを悟られないよう、体裁を整えている自分に苦笑した。
もしかしたら、よき父になれるのかもしれない。
このまま老衰で死ぬまで一生、俺はミカゲと共に生きるのだろう。
ミカゲに対して、昔ほどの危険な衝動は起こらなくなった。年を取ったのか。大人になったのか。
子供に笑顔を向けるミカゲを眺めるのが楽しくなった。
――もし俺を苦しみに突き落としたかったら、ふたつ方法がある。アルファから一方的につがいを解消すること。アルファがオメガを置き去りにして先に死ぬこと。
生きるのがつらそうなミカゲを眺めるのは好きだったが、それを実行する気にはならなかった。
人として成長したのだろうか。
目が覚めた。
病院のベッドだった。
俺は医療機器に繋がれていた。
視線をあげると、もう中年になってしまった息子がいた。その隣に娘。その隣に次男。みんなもういい年の大人だ。ミカゲから生まれた子はどれもアルファで、みんな立派な仕事に就き、自立して裕福な暮らしをしている。
ミカゲはどこだと視線で探し、もういないのだということを思い出した。
ミカゲが育てた子たちは、みんないい子に育った。俺の遺伝子を受け継いでいるとは思えないほど、いい子に育った。
「母さんが、入院してた時に言ってた言葉を、父さんには内緒にって言われてた言葉を」
長男が口を開いた。どこか切羽詰まった、早く言わないと間に合わなくなってしまうと言いたげな顔で。
「おまえたちが生まれる前、父さんと母さんはいろいろあって、愛し合ったり、憎しみ合ったり、本当にいろいろあったけど、こうして子供たちが生まれて、振り返ってみると、いい人生だったなあって。父さんとつがいになってよかったって」
俺は目を見開いた。
ミカゲがそんなことを言うなんて夢にも思っていなかったから。
「幸せだったって」
それがミカゲの本心なのか、子供たちにそう思っていてほしかっただけなのか、もう確かめる術はない。
それでも。
俺の涙腺は容易く緩み、透明な雫がこぼれ落ちた。
少し起きていただけでも疲れたのか、それとも純粋な睡魔なのか、意識が遠のき始めた。
「父さん!」
「お父さん!」
子供たちの呼ぶ声が聞こえる。まるで子守唄のようだ。
俺はまぶたを閉ざした。意識が沈み、子供たちの声が遠くなる……。
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