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第3話
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まだ無垢だった頃のミカゲと出会ってから、十年経った。
俺は会社から独立し、自分で事業を立ち上げて、順調に軌道に乗せることにも成功し、収入も増えた。
高級マンションでペットを一人飼っても支障がないほどに。
高層マンションの最上階を購入した。賃貸よりも買ったほうが安いと聞いたからだ。
ワンフロアすべてが俺の部屋。
そしてミカゲの部屋。
俺はミカゲを首輪で部屋に繋ぎとめた。首輪を外せないように手錠もかけた。
自由にしたら逃げられると思ったからだ。
うなじを噛んで永遠の伴侶にしたが、それだけでは安心できなかった。
風俗店からミカゲを買い取り、全身を綺麗にして部屋に置いた。
ミカゲはしばらくどんよりとうなだれていたが、ある時期から何かを吹っ切ったようだった。
最上階の窓から見える壮大な景色を、心を奪われたように見つめるようになった。
昼はビル群の隙間から富士山が見え、夜は眩しいほどの夜景が目の前に広がる。
成功者だけが見ることのできる景色を、ミカゲは眩しそうに眺めていた。
俺はそんなミカゲの顎を持ち上げ、濃厚に口づけた。
永遠の伴侶。永遠のつがい。
ミカゲは何かを諦めたように、俺の舌を受け入れた。
毎夜のように俺に抱かれるミカゲは美しかった。本心を口にすることはないので、何を思っているのかはわからない。
ただ、俺をつがいと認めたのであろうことだけ、その身体から伝わってきた。
ミカゲの腹に子が宿ったのもその時期だった。
病院の医師に告げられた通り、子を宿したミカゲを大事にした。
手錠を外し、首輪を外しても、ミカゲは逃げなかった。
ある日、ぽつりとミカゲが言った。
「あの頃を思い出した。出会った時の頃。まだ何も知らなかった頃を」
今の俺の中に、あの二年間の俺を見つけたようで、少しだけ微笑んだ。
「好きだったんだ。本当に。つがいになりたいと思ってた。そう思ってた相手とつがいになれたのに、あの頃の俺が思ってたのと、今の状況はまるで違う」
本当に好きだったんだ。ミカゲの目から涙の粒が何度か落ちた。
まともな男ならここで罪悪感を抱くのだろう。
俺は泣くミカゲを美しいと思うだけだった。
「逃げることを想定して首輪で繋いだり、手錠をはめたりしたんだろうけど、俺はもう逃げられない。オメガはつがいになったアルファからは逃げられないんだ。永遠に」
どこか寂しそうな眼差しで、ミカゲが俺を見た。
「オメガに生まれた者の宿命」
ミカゲの眼差しが床へと移った。
「もし俺を苦しみに突き落としたかったら、ふたつ方法がある。アルファから一方的につがいを解消すること。アルファがオメガを置き去りにして先に死ぬこと」
どういうつもりでミカゲがそんなことを言ったのかはわからない。
「オメガの喜びはつがいのアルファに愛されることなんだ。それが嫌いだった相手でも、憎んでた相手でも。つがいになれば、何もかもが変わる。オメガはアルファに愛されるための生き物になるんだ」
でも、とミカゲは続けた。
「おまえがやったことを許したわけじゃないから」
俺たちはまるで、複雑に絡み合った知恵の輪のようだと思った。
どんなに頑張っても努力してもほどくことができない。
ミカゲが何かを諦めたのは、それなのかもしれない。
俺は会社から独立し、自分で事業を立ち上げて、順調に軌道に乗せることにも成功し、収入も増えた。
高級マンションでペットを一人飼っても支障がないほどに。
高層マンションの最上階を購入した。賃貸よりも買ったほうが安いと聞いたからだ。
ワンフロアすべてが俺の部屋。
そしてミカゲの部屋。
俺はミカゲを首輪で部屋に繋ぎとめた。首輪を外せないように手錠もかけた。
自由にしたら逃げられると思ったからだ。
うなじを噛んで永遠の伴侶にしたが、それだけでは安心できなかった。
風俗店からミカゲを買い取り、全身を綺麗にして部屋に置いた。
ミカゲはしばらくどんよりとうなだれていたが、ある時期から何かを吹っ切ったようだった。
最上階の窓から見える壮大な景色を、心を奪われたように見つめるようになった。
昼はビル群の隙間から富士山が見え、夜は眩しいほどの夜景が目の前に広がる。
成功者だけが見ることのできる景色を、ミカゲは眩しそうに眺めていた。
俺はそんなミカゲの顎を持ち上げ、濃厚に口づけた。
永遠の伴侶。永遠のつがい。
ミカゲは何かを諦めたように、俺の舌を受け入れた。
毎夜のように俺に抱かれるミカゲは美しかった。本心を口にすることはないので、何を思っているのかはわからない。
ただ、俺をつがいと認めたのであろうことだけ、その身体から伝わってきた。
ミカゲの腹に子が宿ったのもその時期だった。
病院の医師に告げられた通り、子を宿したミカゲを大事にした。
手錠を外し、首輪を外しても、ミカゲは逃げなかった。
ある日、ぽつりとミカゲが言った。
「あの頃を思い出した。出会った時の頃。まだ何も知らなかった頃を」
今の俺の中に、あの二年間の俺を見つけたようで、少しだけ微笑んだ。
「好きだったんだ。本当に。つがいになりたいと思ってた。そう思ってた相手とつがいになれたのに、あの頃の俺が思ってたのと、今の状況はまるで違う」
本当に好きだったんだ。ミカゲの目から涙の粒が何度か落ちた。
まともな男ならここで罪悪感を抱くのだろう。
俺は泣くミカゲを美しいと思うだけだった。
「逃げることを想定して首輪で繋いだり、手錠をはめたりしたんだろうけど、俺はもう逃げられない。オメガはつがいになったアルファからは逃げられないんだ。永遠に」
どこか寂しそうな眼差しで、ミカゲが俺を見た。
「オメガに生まれた者の宿命」
ミカゲの眼差しが床へと移った。
「もし俺を苦しみに突き落としたかったら、ふたつ方法がある。アルファから一方的につがいを解消すること。アルファがオメガを置き去りにして先に死ぬこと」
どういうつもりでミカゲがそんなことを言ったのかはわからない。
「オメガの喜びはつがいのアルファに愛されることなんだ。それが嫌いだった相手でも、憎んでた相手でも。つがいになれば、何もかもが変わる。オメガはアルファに愛されるための生き物になるんだ」
でも、とミカゲは続けた。
「おまえがやったことを許したわけじゃないから」
俺たちはまるで、複雑に絡み合った知恵の輪のようだと思った。
どんなに頑張っても努力してもほどくことができない。
ミカゲが何かを諦めたのは、それなのかもしれない。
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