【完結】世界のどこかにいた一組のつがい

彩森ゆいか

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第2話

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 俺とミカゲが出会ったのは十年前に遡る。
 気高く美しいオメガだった。
 凛と尖り、冷徹な空気を纏わせていた。
 彼はその時、十八歳になったばかりで、俺は二十歳になったばかりだった。
 安易に誰にも近寄らせない見えない針を全身に張り巡らせたようなヤツで、どうしてそうなったのかと言えば、それは彼がオメガだったからに他ならない。
 俺は友人たちと賭けをした。
 あいつを骨抜きにしたヤツに一万円。
 優しく声をかけて近寄った。初めのうちは警戒していたミカゲは、こちらが想像していたよりも簡単に心を開くようになった。
 二年つきあった。
 ミカゲが二十歳になり、俺が二十二歳になった。
 すでに身体の関係にもなっていた。
 ミカゲは俺とつがいになるつもりでいたのだろう。
 潮時だなと思った。
 友人たちから一万円をせしめて、俺はミカゲを奴らの餌食にした。
 防音の効いた部屋に連れて行き、六~七人ほどいるアルファの元に置き去りにした。
 アルファがオメガを性の玩具にするのは、さほど珍しいことじゃない。
 アルファがオメガをどうしようと、罪に問われるようなこともない。
 アルファはすべてにおいて許され、オメガは下等な生き物として扱われる。
 それが今の世の中だ。
 オメガとして生まれたのだから、いずれはそうなっていただろう。時間の問題だ。
 いくら気高く崇高な者として振る舞ってみたところで、俺たちアルファから見たら彼はオメガでしかない。
 そんな冷めた気持ちで日々を生きていたら、偶然ミカゲと再開した。
 半年後だった。
 まるで違う人間のような目で、ミカゲが俺を見た。
 あんなに俺を信頼していたのに。あんなに俺を愛しそうにしていたのに。あんなに。
「生きてたのか。あんなことがあったら絶望して死ぬかと思ってた」
 嗤う俺を、憎悪と氷の刃のような眼差しで真っ向からにらんでくる。
 ぞくぞくした。
 ずっと欲しかったものが手に入ったような悦びだ。

 大学を卒業した俺は、大手の商社に就職した。官僚になる道もあったが興味なかった。
 ミカゲはあれからどんどん転落していったようで、次に再会した場所は風俗店だった。
 たくさんのアルファに穢された身体に、俺は金を払った。
 ミカゲは俺への憎しみは隠さず、真面目に仕事をまっとうした。
 以前と違うところがあるとすれば、こういう仕事をすることで染みついてしまった色香。
 男を誘うのがうまくなった。
 うなじに噛みつきたい衝動を抑えながら、俺はミカゲの奥を穿つ。風俗嬢になったミカゲの首には、首輪がついていた。客のアルファが衝動でうっかり噛んだりしないようにするためだ。
 アルファがオメガのうなじに噛みつきたいのは本能による衝動だ。
 俺がミカゲのうなじに噛みつきたいのも本能によるものだ。
 噛みついたら永遠の伴侶になる。
 つがいになる。
 ミカゲとつがいに。
 永久に俺のものになる。
 甘美な誘惑だった。
 同時に、ミカゲにとっては絶望的なことだろう。
 絶望に打ちひしがれるミカゲは相当美しいに違いない。
 羽根をもがれた天使のように。
 俺を憎みながら快楽に震えるミカゲは美しかった。オメガの宿命に逆らえない身体が愛しかった。風俗嬢になったミカゲは、以前は飲んでいた発情抑制剤は使わなくなったらしい。
 開放され、発情を隠さなくなったミカゲは美しかった。
 穢されているのにますます気高くなった。
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