神速の大魔導師 〜使える魔法が一種類でも最強へと成り上がれます〜

Ss侍

文字の大きさ
10 / 43

第10話 試験の前日

しおりを挟む
 時が経つのは早いもので、試験本番がもう明日にまで迫っていた。

 昨日は特訓を重ねることで【遅延発動】という能力を習得することができた。魔法を放ってからそれが実際に発動するまでの時間をズラすことができるというものだ。

 魔法陣が見えなくなる【不可視の魔】と魔法を口に出さなくて良くなる【脳内詠唱】を所持している僕にとって強力な能力となるだろう。


「だれ?」


 庭の草木がガサガサと音を立てた。この辺にペットの魔物は少ないから、おそらく人だ。
 実際、声をかけると木の後ろからアテスが出てきた。


「なんだ、アテスか」
「や、やぁ。その、六日ぶり!」
「僕達が六日も顔を合わせなかったなんて、ほぼ初めてじゃない?」
「そうだよね。……すこし、話できる?」
「なに、改まって。全然いいけど」


 僕とアテスは昔からよくしていたように、この庭にあるベンチブランコに揃って腰をかけた。
 アテスはあの日と同じように、明らかに浮かない顔をしている。
 

「それで、話って?」
「これはギアルにだから言えることなんだけど……実はボク、魔導剣聖になったこと、恐くて仕方ないんだ。だって……」
「いや、なんとなくわかってたけど」
「え、そう?」
「何年来の付き合いだと思ってるの」
「そ、そうだよね。うん。ギアルにはわかっちゃうか……」
「愚痴なら聞くから、不安に思ってること全部吐き出しなよ」
「ありがとう」


 アテスは話し始めた。
 自分自身は『剣士』でも『剣豪』でも、『魔法使い』でも『大魔導師』でも、あるいらその他の職人系の職業でも、どの才能か判明した時点でそれを全うするつもりだったと。

 しかし、時代によっては『勇者』と同じ扱いをされる『魔導剣聖』は許容の範囲外。国から直接スカウトされ、先生方や周りの目も恐くて仕方がないらしい。

 そして最上級職の『賢者』や『剣聖』、それ以上である『魔導剣聖』となり国からスカウトされた人物は、国のために活躍するよう、ハードな特訓生活を強いられるようになる。
 こうして、将来有望な人材は国から逃げられないように縛られる。

 僕だって、まともな『大魔導師』だったら国一番の冒険者ギルドに入ることになっていたし、その上である『賢者』だったら今のアテスと同じ境遇に立っていたことだろう。


「期待が、みんなの期待がボクを押し潰そうとしてくるんだ。ボクに期待しすぎてるんだ」
「アテスが『魔導剣聖』なのは備わっていた才能の賜物だと思うけどね。アテスは十分すごいんだよ」
「ありがとう。……ねぇ」
「うん?」
「実はボク、この六日間ずっと学び舎にいて、先生方から直接指導を受けていたんだ。伝説になれる存在として、城へ行っても恥を書かないようにって」
「あー、通りで見なかったわけだ」
「そう、そういうこと。今日は試験前日だからお休みをもらったの。……ボク、学ぶこと自体は嫌いじゃない。ずっと前からギアルに散々、その大切さを教えられてきたし。でもやっぱり……」
「許容の範囲外?」
「うん……」


 この六日間、ずっと先生方から期待されて、期待され続けて過ごしてきたんだろう。
 僕に「出世してこの学び舎を有名にしてくれ」と直接言い続けてきた校長に率いられてる人達だし、そのプレッシャーは想像を超えるほどだと思った方が良さそうだ。
 普段は元気で明るいアテスをここまで弱らせるなんて……。


「……聞きたいことがあるんだ、ギアルに」
「なんでもどうぞ」
「ありがとう。……なんでそんなに元気そうなの? ボク、実はギアルはボクとは別の形で凹んでるんじゃないかなって思ってたんだ。ホントは今日はお互いに慰め合うつもりでここた来たんだよ。だって魔法使い系で魔法が一種、しかもそれが補助魔法だなんて、そんなの……」
「何もできない?」
「うん、ボクだったら挫折してる。でも違うみたい。なんか、すっごく楽しそう。ここまで楽しそうにしてるギアル、ボク初めてみたよ」


 アテスからもそう見えるのか。でも初めては流石に言い過ぎだ。いままで僕があんまり楽しそうじゃなかったみたいな……いや、思い返してみればそれもその通りなのかも。
 理由を答えてあげたほうが、スッキリするよね。


「うん、夢ができたから」
「夢? どんな夢?」
「この世界で最強になるって夢」
「……この状況でそれを目指すの?」
「無理だと思う? 諦めたら終わりだよ」
「……!」


 アテスはひどく驚いているようだ。目の挙動が忙しなくなっており、僕の顔や身体を信じられないとでも言いたげに眺めている。
 しばらくして、アテスは何かを思い出したような表情を浮かべると、再び言葉を紡ぎ出した。


「……お母さんから聞いたんだ。マーねぇがギアルのこと『大天才だ!』って言ってるのが聞こえた気がするって。もしかして……?」
「あー、やっぱり聞こえてたんだ。恥ずかしい」
「ホ、ホントなんだ。ってことはギアル、速度魔法だけで戦えるような準備ができてるんだね?」
「うん、できてるよ」
「そっか……そうなんだ……」


 アテスは、今度は体をワナワナと震わせ始めた。震えたまま深呼吸を一つすると、僕の顔だけをジッと見つめ始めた。そのクリクリと大きく見開いた眼には僕の顔が映っている。


「最強に、ほんとになるつもりなんだね?」
「もちろん」
「……そっか、本当だったらボクより辛い状況でもおかしくないギアルがそう言うんだったら……わかった。ボクも腹を括るよ」
「お、括っちゃうんだね」
「うん。ボクも最強を目指すことにする! 君と、どっちが先に最強になれるか競争する!」


 唐突な宣言。宣戦布告とも言えるのだろうか。とにかく僕は驚くことしかできない。さっきまでネガティブだったのに、もう立ち直っちゃうだなんて。


「『魔導剣聖』が最強を目指したらすぐ到達するんじゃない?」
「ふふ、ごめんね。でも君と競争してるって頭の中で思い続けたら、それを支えに頑張れる気がするんだ」


 そう言ってアテスは微笑んだ。アテスの笑い顔は久しぶりに見た気がする。やっぱり、この明るい笑顔こそが僕の知ってる親友の姿だ。


「なるほど、わかった。心の支えにならいくらでもなってあげる。……でも、負けるつもりはない」
「もちろん、競争だからね! でもどうしてだろう、今更ふつふつと……ギアルがボクにとって本当に好敵手になるような気がしてならなくなったよ」
「ああ、きっと、そうなるさ」


 アテスはブランコから勢いよくジャンプして降りると、つい数十分前とは違い、スキップしながら隣の自宅へ僕に手を振りながら戻っていった。
 親友で、幼なじみで、『魔導剣聖』がライバルか。
 ああ、本当に僕は運がいい。こんな素敵なライバルを得ることができるだなんて。







==========
(あとがき)
※次の投稿は明日の6時となります。今後は毎日1~2話ずつ投稿するつもりです。2話投稿する場合は、その日の1話目に記載します。


『魔導剣聖』について

 魔導剣聖は上級魔導師+剣聖の力を有しています。

 以前、説明した倍率の設定で言うと、
 魔導剣聖=剣の扱い×1.80 + 魔法の扱い×1.20
 となり、このように剣では剣聖に弱冠劣り、魔法では上級魔導師や上級魔法使いに若干劣りますが、両方使えるので非常に強力な存在です。

 また、この職業も実は4段階目のものであり、前段階として『魔法剣士』→『上級魔法剣士』→『大魔剣士』と続きます。
 魔剣士の倍率は剣の扱い×0.90 + 魔法の扱い×0.90です。


(非常に励みになりますので、もし良ければ感想やお気に入り登録などの方、よろしくお願いします!)
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

結婚して3年経っても子供ができないという理由で離縁されたエマは、前世の記憶を思い出して幸せになる。周りが勝手に復讐してくれました。

山田 バルス
恋愛
 結婚三年目の春、エマは伯爵家の夫アンドレオから突然、側室を迎える話を告げられる。子をなせなかったことを理由に、彼女は僅かな補償のみで離縁された。妻として過ごした三年間は「無価値だった」と突きつけられ、エマは貴族社会から静かに切り捨てられる。  また実家の父母の墓参りに行くと、当主になっていた兄に離縁金を奪われてしまう。  大ピンチのエマには、秘密があった。なんと彼女は幼少期に前世の記憶を思い出していたのだ。  かつて観光地で石を磨き、アクセサリーを作り、人に喜ばれる仕事をしていた人生。何も持たない今だからこそ、もう一度「自分の手で生きる」ことを選び、あの人が住む商業国家スペイラ帝国へ向かう決意をする。  国境への道中、盗賊に襲われるが、護衛兵ロドリゲスの活躍で難を逃れる。彼の誠実な態度に、エマは「守られる価値のある存在」として扱われたことに胸を打たれた。  スペイラ帝国では身分に縛られず働ける。エマは前世の技術を活かし、石を磨いてアクセサリーを作る小さな露店を始める。石に意味を込めた腕輪やペンダントは人々の心を掴み、体験教室も開かれるようになる。伯爵夫人だった頃よりも、今の方がずっと「生きている」と実感していた。  ある朝、ロドリゲスが市場を訪れ、エマの作ったタイガーアイの腕輪を購入する。ところがその夜、彼は驚いた様子で戻り、腕輪が力を一・五倍に高める魔道具だと判明したと告げる。エマ自身は無意識だったが、彼女の作るアクセサリーには確かな力が宿っていた。  後日二人は食事に出かけ、エマは自分が貴族の妻として離縁された過去を打ち明ける。ロドリゲスは強く憤り、「最悪な貴族だ」と彼女と一緒になって怒ってくれた。その気持ちが、エマにとって何よりの救いだった。彼は次に防御力を高める腕輪を依頼し、冒険者ギルドで正式な鑑定を受けるよう勧める。  翌日、冒険者ギルドで鑑定を行った結果、エマの腕輪は高い防御効果を持つことが判明。さらに彼女自身を鑑定すると、なんと「付与特化型聖女」であることが明らかになる。聖女が付与した魔道具は現実の力として強く発現するのだ。  価値がないと切り捨てられた人生は、ここでは確かな力となった。スペイラ帝国で、聖女エマの新しい人生が、静かに、そして輝かしく始まる。

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...