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317話 任命式と就任式でございますか……?
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「どしたの、二人とも」
王様に呼び出しを受けたので、私達はいまお城にいる。そして今、王様が私とガーベラさんの顔を覗き込み首を傾げた。きっと顔が赤いのが気になるのでしょう。どれだけ時間が経っても頬の照りが治らない。
「ケルくん、知ってる?」
【アイリスからガーベラの、ガーベラからアイリスの残り香がしますゾ。たぶん、抱き合って寝てたかそれ以上のことしてたんじゃないですかゾ?】
「そっかー。でも恋人なら普通のことじゃない?」
【二人ともウブなんだゾ】
どうして王様はケルくんに訊いたのかしら。やっぱり、鼻が効くし推理力もあるからかな。そう、ケルくんの言う通り私とガーベラさんは起きたら身体を密着させていたの。
私が寝る前にお互いのベッドを近づけすぎたせいか、寝ている間に寝返りでガーベラさんの上に乗っかって、身体を絡みつかせていて……。
絡みつくぐらいはいいの、いつも寝ている時、気がついたらロモンちゃんかリンネちゃんの首や腰に手を回したりしてるから。その癖が出てしまったんだろうなって納得がいく。それでも恥ずかしいけどね。ただ、なんで上に乗っかっていたのか……。私、普段は寝相いい方なのだけれど。起きたらキスができそうなくらい顔が近くて心臓が飛び出るかと思った。
「すっごくラブラブだね~~!」
「すごくだね~~!」
話を聞いていたロモンちゃんとリンネちゃんが私達のことを囃し立てる。まあ、でもこれでもまだマシな方よ。お父さんとおじいさんが今の話を聞いてなかっただけでも。もし聞かれていたらガーベラさんが酷い目にあっていたかもしれない。
……でも、なんで私達だけなのかしら。騎士団長の地位についてる人達が揃って全員いない。
「あの……ところで、王様。なぜ私達だけが収集されたのですか?」
「Sランク任命式と勇者就任式の説明をしようと思ってね」
「Sランク任命式と、勇者就任式……ですか?」
「あれ、知らないの?」
「すいません、俺も……」
「ガーベラくんも? ってことは……」
「ぼく達は知ってます! 大丈夫です!」
「大丈夫です!」
「まあ、リンネちゃんとロモンちゃんが知らないはずないよね。でもそっか、アイリスちゃんとガーベラくんは知らないのかぁ。じゃあ説明するよ」
王様は丁寧にSランク任命式と勇者就任式について教えてくれた。普通、大臣やコハークさんといった方々がこういうのを説明するものだと思うのだけど。細かいことは気にしないことにしましょう。
まず、Sランク任命式について。これは文字通り新しくSランクになった冒険者を讃える式。年に最大で2回行われ、期間中にこの街と周辺でSランクまで上り詰めた人がお城の前でお祝いを受ける。どの国でもやってることみたいで、だいたい城下町や港町のような大きな街で行われるらしい。
私とガーベラさんが聞いたことなかったのも当然で、Sランクの冒険者が最後に出現したのは二年も前。一人もいなかったときは任命式が行われない。つまりガーベラさんと私が活動し始めた期間中は一人も現れなかったということになる。いままでギルドのみんなも話題にしていたような覚えがないし、王様もSランク任命式は実質お金持ちの人たちに優秀な人材を紹介するのが目的のようなものだと言っていたのでそう、大したものじゃないのかもしれない。
そしてもう一方の勇者就任式が、とても重要らしい。これも名前の通り勇者、つまりガーベラさんを公に認めてもらうための式。この式を行うということは、世間に魔王種が現れたと正式に発表するという意味もある。国内外、みんなで一丸となって魔王種を倒すためにガーベラさんをサポートするっていう意思表明を兼ねてたり……とにかく大事な儀式であることは王様の表情からひしひしと伝わってきた。
「どっちも1ヶ月半後にやるからね! ほんとは別々の行事なんだけど、ちょうどよくSランクになった人たちがいるわけだし、同時にやっちゃおうねってことなんだよ。運営費が浮くからね」
「それで、当のSランクとなった冒険者は……」
「ここに呼んでる子、全員だね」
「ああ、なるほど、ロモンちゃんとリンネちゃん、そしてガーベラさんの三人ですね」
「んーん。アイリスちゃんもだよ?」
「え?」
私も……? いや、私は正式には冒険者じゃない。あくまでロモンちゃんの仲魔だもの。仲魔である状態をやめて市民権を得てからじゃないと個人の冒険者にはなれないのよね。これについては質問してみるしかないわね。
「あ、あの、私、まだロモンちゃんの仲魔ですので人としての人権はあっても市民権などはありません。故に冒険者では……」
「いいかい、この国では半ば僕が法だよ。特例なんてちょっと無理すれば作れるんだ。つまり、アイリスちゃんは今日からこの国初の魔物使いの仲魔かつ一人の冒険者なんだよ!」
「なるほど……」
「……勝手に決めてごめんね? でも、その方がいいんだ」
王様は続けて説明をし始めた。私を特例としてまでSランクの冒険者にしたい理由は私の地位を上げ、活動しやすくするため。Sランクというのはそれだけで世界中の人々にとって『すごい存在』『賴しい存在』となる。つまり社会的地位も高くなる。魔王討伐に深く関わる私をSランクにし、いわゆるブランド付けをすることで、事情を知らない人にも私に対して協力的にするのが狙いらしい。
他にも色々と理由はあるようだけど、とにかく私をSランクにしてしまった方が王様にとって扱いやすくなるみたい。どっちみちロモンちゃんの仲魔のままでいいなら別に私に不利益はない話ね。
「わかりました、では、そうしてください」
「うん、ありがとう。これでアイリスちゃんは市民権も得たことになるよ。それでね、さっそくアイリスちゃんを養子にしたいって申し出がきてるんだ。ま、ターコイズ家なんだけどね。このことは前々からジーゼフ達に相談してたから」
「……是非、お願いします!」
「決まりだね!」
「「わぁ!!」」
王様に流されるがままではあるけど、ついに私は正式にターコイズ家の子になるのね。ロモンちゃんとリンネちゃんがぴょんぴょん跳ねて喜んでくれている。私も本当に嬉しい。この二人と姉妹になれるなんて! ……それで私は長女になるのかしら、それとも三女になるのかしら。見た目の年齢だと長女だけど、実際の年齢だと三女なのよね……。そこまで気にすることじゃないかな。
「そうだ、ガーベラくん」
「は、はい」
「アイリスちゃんと結婚するなら婿養子になってくれると助かるって、ノアとジーゼフが言ってたよ」
「なるほど……?」
「僕もそうするといいと思うよ」
実はこの世界では苗字がついてる人は多くない。つまり、苗字がついてる人はいいところ出身の可能性が高いってことね。無論、ターコイズ家は私にとって身近すぎて実感がわかないけれど、世間から見たらかなりの大貴族。
もともと記憶喪失で身元不明で、冒険者になることで市民権を得たガーベラさんが、私を通してターコイズ家の一員となる意味はとても大きい。そしてターコイズ家からしても勇者を一族に迎えられるのは多大なメリットがある。王様にとっても姫様に勇者が嫁いでくれないならせめて一番の家臣の血筋に……なんて考えてたりするのかもしれない。
「ま、まあ、その時になったら考えます。俺はアイリスと結婚するつもりでいるので、そうなるとは思いますが」
「いいねー、いうねー! じゃあそういうわけだから。これから順次、物事を進めていこうね。話が進み次第、こうやって連絡や打ち合わせするからそのつもりでいるように」
これで今日のお話は終わりらしい。私たちは解散となった。ロモンちゃんとリンネちゃんが玉座の間を出てからも、私が家族になることを喜びつづけてくれている。
それから私たちは各々の修行先へ向かった。今日からの予定だったから。私の場合は修行というよりペリドットさんのお手伝いだけどね。そういうわけで私はあの人の研究室の戸を叩いた。
1ヶ月半……45日。私たちの成長の速さからしたらいい指標ね。この間にどれくらいロモンちゃん、リンネちゃん、ガーベラさん、そしてケルくんは強くなってるのかしら。楽しみだわ。
#####
元小石100万文字到達記念
おまけ(ガーベラさん目線)
俺はアイリスがまさか夫婦になったら、いや、今からでも一緒のベッドで寝たいと言うなんて思ってもみなかった。まさに意外な一面というか。予想だにしていなかったというか。別室で過ごすものだとばかりだと思っていたから。
眠っているという彼女にとって無防備な状態。それを夫や彼氏とて男性に晒すことは彼女にとってタブーだと思い込んでいた。……俺はアイリスのことをだいぶ、把握できているものだと思っていたようだ。でも違った。ちょっと傲慢が過ぎたな。
しかし、前の家に来た時に寝袋で真隣で一緒に寝た時もドキドキしっぱなしだったというのに……一緒のベッドなんて俺に耐えられるのだろうか。口から心臓が飛び出たりして。
アイリスが入ったあとのお風呂、あまり意識しないように無心になって入浴し、いまあがった。たとえアイリスが見てなかったとしても、間接的であっても、アイリスに対して変態的な行為をするのは許さない。俺自身にもそれは適応される。
俺は自分のだと決めた部屋へと戻ってきた。アイリスが部屋から持ち出して置いたベッドがあり、そしてそれにアイリス自身が眠っている。俺のベッドと彼女のベッドの距離は……全然ない。ほぼぴったりくっついてしまっている。風呂に入ってる間に、アイリスが自分でそこまでずらしたんだろう。
……アイリスはそんなに俺と密着していたいのか? そもそも普段からけっこう甘えてきてくれているし、この前、一線を超えなかったのは選択として間違っていたのかもしれない。むしろ俺の方が拒否している形になってしまっているんじゃないだろか。いっそのこと今からでも……。いや、だめだ。俺はアイリスを大切にするって決めてるんだ。徹底しなければ。……はぁ、俺もだいぶ難しい性格だよなぁ。まったく。
アイリスは自分のベッドのちょうど中央あたりでお行儀よく眠っている。流石の育ちの良さだ。これなら俺も普通にしていれば健全な距離が保てる。そう思って俺は自分のベッドに入り込んだ。隣でスースーと可愛らしい寝息が聞こえる。その寝息を気にしながらも俺はなんとか眠りについた。……なんか、眠りに落ちる直前にとんでもない予知を見たような気がするが。
◆◆◆
そしてその予知が当たっていた。まあ、俺の予知が外れた試しはないんだが。半分夢のようなものなんじゃないかと、侮った。眠気のせいでまともな思考ができなかったんだ。
おそらく時間にして朝の五時半。目がさめるとアイリスの体が俺の上にあった。
寝息が耳元で聞こえる。俺の右肩にアイリスの顎がのっており、サラサラで絹の糸のように美しい髪の毛が俺の顔をくすぐる。俺の頬と彼女の頬同士が触れることもある。すべすべで柔らかい。
俺の体の上にはアイリスの身体がある、その感想は言葉では言い表せない。抱きしめるた時に近いけど、また違う。アイリスの方から乗っかってきているわけだから。
本人からだいぶ鍛えてると聞かされているけれど、それでもなんか……こう、ふわふわで柔らかい。もちろんアイリスは痩せているから太っているというわけでなくて、女性的な……。
だめだ、だめなんだ。アイリスにセクハラ的な思考を向けるだけでも嫌われる! 嫌われたくないから我慢しないと! 実際は心を開いてくれているとしても、この考えは結婚するまで抜けないんだ。癖になってしまっているから。
「……いいですか……こうするんですよ……?」
突然、アイリスが寝言を言いながら俺の足に自分の足を絡ませてきた。それからさらに肩の裏に手を回してきたり、俺の腕を脇で挟んだりした。
「そうそう、そうです。……くん、胴……投げる場合は……すると……やりやすい……です」
「……!?」
アイリスが俺の前世の名前を言った。夢の中でだろうけれど。どうやら俺に技を教えているというシュチュエーションらしい。たしかに思えばこの姿勢は立っているならば、投げ飛ばすときの姿勢だ。位置がずれてるから側からみたらそうでもないのだろうけど。俺にはわかる。
しかしこの状況は非常にまずい。どかそうにも腕が固められて動かせない。こうなったらステータスに任せて無理やり引っぺがすしかないけど、大事なアイリスに少しでも乱暴なことはしたくない。つまり、アイリスが起きるまで俺はこれを我慢し続けなければならない。……心頭滅却、心を無にするんだ。アイリスを守ると誓った俺がアイリスを傷つけるようなことはしちゃいけないから。
それから、1時間が経過した。
「お嬢様……何処へ……。ばぁやが……つかまえ……あぅ……柔らかい女の子じゃない。なんでこんなところにゴツゴツな男の人が……男の人……あっ」
最後にアイリスが俺のことを強く抱きしめると、そのままハッとした表情で起き上がった。どうやらやっと起きてくれたようだ。ようやくこの地獄であって天国のような時間が終わる。惜しいし、惜しくないし。とりあえず今一緒に起きたって感じの演技をしておこう。
「……え、えっと、私は……」
「……う、うう……ふああ。あれ、アイリス、ななな、なんでここに?」
「わ、わかりません……ご、ごめんなさい、重かったでしょう?」
「それはまったく」
「うう……恥ずかしいです。とりあえず私、どきますね。本当にごめんなさい。ああ……うー……なんで……」
アイリスはボソリと、今日という日に限って寝相が悪くなってしまったことに対する不満を述べた。そして顔を真っ赤にして俺の体から離れている。普段冷静な彼女が慌ててる。全ての仕草と行動がとても可愛い。
「……なんか、その、俺抱きつかれてたんだね」
「は、はい。そのようです……」
「えーっと……はは、お、終わったことは仕方ないよ」
「そ、そうですね」
それで、一応、話自体は終わった。あとは今日一日、恥ずかしがらずに顔を見て過ごせるかどうか……。
#####
次の投稿は12/23です!
本作の総文字数が100万文字を突破しました!
ここまで長い物語を読んでいただき、誠にありがとうございます!
王様に呼び出しを受けたので、私達はいまお城にいる。そして今、王様が私とガーベラさんの顔を覗き込み首を傾げた。きっと顔が赤いのが気になるのでしょう。どれだけ時間が経っても頬の照りが治らない。
「ケルくん、知ってる?」
【アイリスからガーベラの、ガーベラからアイリスの残り香がしますゾ。たぶん、抱き合って寝てたかそれ以上のことしてたんじゃないですかゾ?】
「そっかー。でも恋人なら普通のことじゃない?」
【二人ともウブなんだゾ】
どうして王様はケルくんに訊いたのかしら。やっぱり、鼻が効くし推理力もあるからかな。そう、ケルくんの言う通り私とガーベラさんは起きたら身体を密着させていたの。
私が寝る前にお互いのベッドを近づけすぎたせいか、寝ている間に寝返りでガーベラさんの上に乗っかって、身体を絡みつかせていて……。
絡みつくぐらいはいいの、いつも寝ている時、気がついたらロモンちゃんかリンネちゃんの首や腰に手を回したりしてるから。その癖が出てしまったんだろうなって納得がいく。それでも恥ずかしいけどね。ただ、なんで上に乗っかっていたのか……。私、普段は寝相いい方なのだけれど。起きたらキスができそうなくらい顔が近くて心臓が飛び出るかと思った。
「すっごくラブラブだね~~!」
「すごくだね~~!」
話を聞いていたロモンちゃんとリンネちゃんが私達のことを囃し立てる。まあ、でもこれでもまだマシな方よ。お父さんとおじいさんが今の話を聞いてなかっただけでも。もし聞かれていたらガーベラさんが酷い目にあっていたかもしれない。
……でも、なんで私達だけなのかしら。騎士団長の地位についてる人達が揃って全員いない。
「あの……ところで、王様。なぜ私達だけが収集されたのですか?」
「Sランク任命式と勇者就任式の説明をしようと思ってね」
「Sランク任命式と、勇者就任式……ですか?」
「あれ、知らないの?」
「すいません、俺も……」
「ガーベラくんも? ってことは……」
「ぼく達は知ってます! 大丈夫です!」
「大丈夫です!」
「まあ、リンネちゃんとロモンちゃんが知らないはずないよね。でもそっか、アイリスちゃんとガーベラくんは知らないのかぁ。じゃあ説明するよ」
王様は丁寧にSランク任命式と勇者就任式について教えてくれた。普通、大臣やコハークさんといった方々がこういうのを説明するものだと思うのだけど。細かいことは気にしないことにしましょう。
まず、Sランク任命式について。これは文字通り新しくSランクになった冒険者を讃える式。年に最大で2回行われ、期間中にこの街と周辺でSランクまで上り詰めた人がお城の前でお祝いを受ける。どの国でもやってることみたいで、だいたい城下町や港町のような大きな街で行われるらしい。
私とガーベラさんが聞いたことなかったのも当然で、Sランクの冒険者が最後に出現したのは二年も前。一人もいなかったときは任命式が行われない。つまりガーベラさんと私が活動し始めた期間中は一人も現れなかったということになる。いままでギルドのみんなも話題にしていたような覚えがないし、王様もSランク任命式は実質お金持ちの人たちに優秀な人材を紹介するのが目的のようなものだと言っていたのでそう、大したものじゃないのかもしれない。
そしてもう一方の勇者就任式が、とても重要らしい。これも名前の通り勇者、つまりガーベラさんを公に認めてもらうための式。この式を行うということは、世間に魔王種が現れたと正式に発表するという意味もある。国内外、みんなで一丸となって魔王種を倒すためにガーベラさんをサポートするっていう意思表明を兼ねてたり……とにかく大事な儀式であることは王様の表情からひしひしと伝わってきた。
「どっちも1ヶ月半後にやるからね! ほんとは別々の行事なんだけど、ちょうどよくSランクになった人たちがいるわけだし、同時にやっちゃおうねってことなんだよ。運営費が浮くからね」
「それで、当のSランクとなった冒険者は……」
「ここに呼んでる子、全員だね」
「ああ、なるほど、ロモンちゃんとリンネちゃん、そしてガーベラさんの三人ですね」
「んーん。アイリスちゃんもだよ?」
「え?」
私も……? いや、私は正式には冒険者じゃない。あくまでロモンちゃんの仲魔だもの。仲魔である状態をやめて市民権を得てからじゃないと個人の冒険者にはなれないのよね。これについては質問してみるしかないわね。
「あ、あの、私、まだロモンちゃんの仲魔ですので人としての人権はあっても市民権などはありません。故に冒険者では……」
「いいかい、この国では半ば僕が法だよ。特例なんてちょっと無理すれば作れるんだ。つまり、アイリスちゃんは今日からこの国初の魔物使いの仲魔かつ一人の冒険者なんだよ!」
「なるほど……」
「……勝手に決めてごめんね? でも、その方がいいんだ」
王様は続けて説明をし始めた。私を特例としてまでSランクの冒険者にしたい理由は私の地位を上げ、活動しやすくするため。Sランクというのはそれだけで世界中の人々にとって『すごい存在』『賴しい存在』となる。つまり社会的地位も高くなる。魔王討伐に深く関わる私をSランクにし、いわゆるブランド付けをすることで、事情を知らない人にも私に対して協力的にするのが狙いらしい。
他にも色々と理由はあるようだけど、とにかく私をSランクにしてしまった方が王様にとって扱いやすくなるみたい。どっちみちロモンちゃんの仲魔のままでいいなら別に私に不利益はない話ね。
「わかりました、では、そうしてください」
「うん、ありがとう。これでアイリスちゃんは市民権も得たことになるよ。それでね、さっそくアイリスちゃんを養子にしたいって申し出がきてるんだ。ま、ターコイズ家なんだけどね。このことは前々からジーゼフ達に相談してたから」
「……是非、お願いします!」
「決まりだね!」
「「わぁ!!」」
王様に流されるがままではあるけど、ついに私は正式にターコイズ家の子になるのね。ロモンちゃんとリンネちゃんがぴょんぴょん跳ねて喜んでくれている。私も本当に嬉しい。この二人と姉妹になれるなんて! ……それで私は長女になるのかしら、それとも三女になるのかしら。見た目の年齢だと長女だけど、実際の年齢だと三女なのよね……。そこまで気にすることじゃないかな。
「そうだ、ガーベラくん」
「は、はい」
「アイリスちゃんと結婚するなら婿養子になってくれると助かるって、ノアとジーゼフが言ってたよ」
「なるほど……?」
「僕もそうするといいと思うよ」
実はこの世界では苗字がついてる人は多くない。つまり、苗字がついてる人はいいところ出身の可能性が高いってことね。無論、ターコイズ家は私にとって身近すぎて実感がわかないけれど、世間から見たらかなりの大貴族。
もともと記憶喪失で身元不明で、冒険者になることで市民権を得たガーベラさんが、私を通してターコイズ家の一員となる意味はとても大きい。そしてターコイズ家からしても勇者を一族に迎えられるのは多大なメリットがある。王様にとっても姫様に勇者が嫁いでくれないならせめて一番の家臣の血筋に……なんて考えてたりするのかもしれない。
「ま、まあ、その時になったら考えます。俺はアイリスと結婚するつもりでいるので、そうなるとは思いますが」
「いいねー、いうねー! じゃあそういうわけだから。これから順次、物事を進めていこうね。話が進み次第、こうやって連絡や打ち合わせするからそのつもりでいるように」
これで今日のお話は終わりらしい。私たちは解散となった。ロモンちゃんとリンネちゃんが玉座の間を出てからも、私が家族になることを喜びつづけてくれている。
それから私たちは各々の修行先へ向かった。今日からの予定だったから。私の場合は修行というよりペリドットさんのお手伝いだけどね。そういうわけで私はあの人の研究室の戸を叩いた。
1ヶ月半……45日。私たちの成長の速さからしたらいい指標ね。この間にどれくらいロモンちゃん、リンネちゃん、ガーベラさん、そしてケルくんは強くなってるのかしら。楽しみだわ。
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元小石100万文字到達記念
おまけ(ガーベラさん目線)
俺はアイリスがまさか夫婦になったら、いや、今からでも一緒のベッドで寝たいと言うなんて思ってもみなかった。まさに意外な一面というか。予想だにしていなかったというか。別室で過ごすものだとばかりだと思っていたから。
眠っているという彼女にとって無防備な状態。それを夫や彼氏とて男性に晒すことは彼女にとってタブーだと思い込んでいた。……俺はアイリスのことをだいぶ、把握できているものだと思っていたようだ。でも違った。ちょっと傲慢が過ぎたな。
しかし、前の家に来た時に寝袋で真隣で一緒に寝た時もドキドキしっぱなしだったというのに……一緒のベッドなんて俺に耐えられるのだろうか。口から心臓が飛び出たりして。
アイリスが入ったあとのお風呂、あまり意識しないように無心になって入浴し、いまあがった。たとえアイリスが見てなかったとしても、間接的であっても、アイリスに対して変態的な行為をするのは許さない。俺自身にもそれは適応される。
俺は自分のだと決めた部屋へと戻ってきた。アイリスが部屋から持ち出して置いたベッドがあり、そしてそれにアイリス自身が眠っている。俺のベッドと彼女のベッドの距離は……全然ない。ほぼぴったりくっついてしまっている。風呂に入ってる間に、アイリスが自分でそこまでずらしたんだろう。
……アイリスはそんなに俺と密着していたいのか? そもそも普段からけっこう甘えてきてくれているし、この前、一線を超えなかったのは選択として間違っていたのかもしれない。むしろ俺の方が拒否している形になってしまっているんじゃないだろか。いっそのこと今からでも……。いや、だめだ。俺はアイリスを大切にするって決めてるんだ。徹底しなければ。……はぁ、俺もだいぶ難しい性格だよなぁ。まったく。
アイリスは自分のベッドのちょうど中央あたりでお行儀よく眠っている。流石の育ちの良さだ。これなら俺も普通にしていれば健全な距離が保てる。そう思って俺は自分のベッドに入り込んだ。隣でスースーと可愛らしい寝息が聞こえる。その寝息を気にしながらも俺はなんとか眠りについた。……なんか、眠りに落ちる直前にとんでもない予知を見たような気がするが。
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そしてその予知が当たっていた。まあ、俺の予知が外れた試しはないんだが。半分夢のようなものなんじゃないかと、侮った。眠気のせいでまともな思考ができなかったんだ。
おそらく時間にして朝の五時半。目がさめるとアイリスの体が俺の上にあった。
寝息が耳元で聞こえる。俺の右肩にアイリスの顎がのっており、サラサラで絹の糸のように美しい髪の毛が俺の顔をくすぐる。俺の頬と彼女の頬同士が触れることもある。すべすべで柔らかい。
俺の体の上にはアイリスの身体がある、その感想は言葉では言い表せない。抱きしめるた時に近いけど、また違う。アイリスの方から乗っかってきているわけだから。
本人からだいぶ鍛えてると聞かされているけれど、それでもなんか……こう、ふわふわで柔らかい。もちろんアイリスは痩せているから太っているというわけでなくて、女性的な……。
だめだ、だめなんだ。アイリスにセクハラ的な思考を向けるだけでも嫌われる! 嫌われたくないから我慢しないと! 実際は心を開いてくれているとしても、この考えは結婚するまで抜けないんだ。癖になってしまっているから。
「……いいですか……こうするんですよ……?」
突然、アイリスが寝言を言いながら俺の足に自分の足を絡ませてきた。それからさらに肩の裏に手を回してきたり、俺の腕を脇で挟んだりした。
「そうそう、そうです。……くん、胴……投げる場合は……すると……やりやすい……です」
「……!?」
アイリスが俺の前世の名前を言った。夢の中でだろうけれど。どうやら俺に技を教えているというシュチュエーションらしい。たしかに思えばこの姿勢は立っているならば、投げ飛ばすときの姿勢だ。位置がずれてるから側からみたらそうでもないのだろうけど。俺にはわかる。
しかしこの状況は非常にまずい。どかそうにも腕が固められて動かせない。こうなったらステータスに任せて無理やり引っぺがすしかないけど、大事なアイリスに少しでも乱暴なことはしたくない。つまり、アイリスが起きるまで俺はこれを我慢し続けなければならない。……心頭滅却、心を無にするんだ。アイリスを守ると誓った俺がアイリスを傷つけるようなことはしちゃいけないから。
それから、1時間が経過した。
「お嬢様……何処へ……。ばぁやが……つかまえ……あぅ……柔らかい女の子じゃない。なんでこんなところにゴツゴツな男の人が……男の人……あっ」
最後にアイリスが俺のことを強く抱きしめると、そのままハッとした表情で起き上がった。どうやらやっと起きてくれたようだ。ようやくこの地獄であって天国のような時間が終わる。惜しいし、惜しくないし。とりあえず今一緒に起きたって感じの演技をしておこう。
「……え、えっと、私は……」
「……う、うう……ふああ。あれ、アイリス、ななな、なんでここに?」
「わ、わかりません……ご、ごめんなさい、重かったでしょう?」
「それはまったく」
「うう……恥ずかしいです。とりあえず私、どきますね。本当にごめんなさい。ああ……うー……なんで……」
アイリスはボソリと、今日という日に限って寝相が悪くなってしまったことに対する不満を述べた。そして顔を真っ赤にして俺の体から離れている。普段冷静な彼女が慌ててる。全ての仕草と行動がとても可愛い。
「……なんか、その、俺抱きつかれてたんだね」
「は、はい。そのようです……」
「えーっと……はは、お、終わったことは仕方ないよ」
「そ、そうですね」
それで、一応、話自体は終わった。あとは今日一日、恥ずかしがらずに顔を見て過ごせるかどうか……。
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ここまで長い物語を読んでいただき、誠にありがとうございます!
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