魔法系男子のゆふるわな日常(希望)

ねじまる

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第一章 青き衣(ジャージ)をまといし者

きみが いない このせかい

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「くっそー! ころしてやる!」

 心底悔しそうにノエルが叫んだ。
 それを面白いものでも見るようにバルトが微笑む。

「ほぅ、動けないのにか?」

「おんねんにヘンシンしてのろってやる!」

 怨念って、それじゃあノエルが先に死ぬんじゃないかとツッコミを入れたい。

 この場合、生き霊で良いのでは?
 いや、そういう問題じゃないか。

 会って間もない俺が、彼女からポンポン言われる分には地味に傷つくだけで済むが、バルトも含まれるのは気持ちの良いものではない。
 日常生活の中でも、こんな台詞を平気で言うのだろうか?

「おまえたちなんて、しねばいいのに! しんでしまえ!」

 気が付いたら、俺の手はノエルの頬を叩いていた。

 平手打ちをしたのは、相手が子どもだということを配慮したからだと自分でも思う。

「そう簡単に、殺すとか死ねとか人に言うな!」

 顔が熱くなり、頭の中がぎゅーっと絞られるような痛みを感じる。
 怒り心頭すぎて、頭痛を引き起こしているらしい。

 バルトと俺、二度も叩かれたノエルはぽかんと口を開いていた。

「親が、そんな口汚い子に育てたいワケないだろ?」

 今ならまだ間に合う。

 口癖になってしまわないうちに大人がしっかりと教えるべきだ。
 これが大きくなって、冗談で言った言葉が冗談では済まされなくなったとき、激しく後悔するのは自分だ。




 俺はその『冗談では済まされないこと』を経験していた。

 あんな苦い思いはもう二度と味わいたくない。

 夢に出てきた彼の顔を思い出す。
 ビン底メガネと魔法オタクがトレードマークだった坊ちゃん……弱点発見魔法・改の共同発案者。

 生まれ育った村から遠く離れ、不安に押しつぶされそうになりながらも、たった一人で首都に降り立った俺にできた、同年代で初めての友達。

 魔法学校初等部でありながら、俺が史上最年少で色の称号を王様より授かった。
 だが、共同発案者であったはずの彼が何も無い……それが申し訳なくて、俺から彼に距離をおいてから、どれだけの月日が経っただろう。
 それなのに、彼はなんら気にすることなく、いつも俺に話し掛けてくれていた。

 明るく話し掛けてくる坊ちゃんが、暗に俺を責めているように思えて。
 それが溜まらなく窮屈に感じた。

 自分の実力ではなく、他人の力で得た称号。
 実力にそぐわない栄誉、そこになんの意味があるのか。

 ポジティブ思考な奴なら、称号に見合った実力を持とうと闘志を燃やすだろう。
 より一層、勉学と魔力の鍛錬に身を入れるだろう。

 だが、坊ちゃんの態度に窮屈を感じていた時点で、俺は、平和で生温い生活を選んでいたのだ。
 何となく学校へ行って、だるい授業を適当に受けて、テストは一夜漬けで、宿題は後回しで、友達とバカやって、めいいっぱい遊び回りたい……そんな生活。

 魔法学校中等部二年。
 あの日の放課後。

 いつも通りに話し掛けてきた坊ちゃんに、俺はついにキレた。
 そう、逃げたかったんだ。

 どんな会話を交わしたのか、詳しくは覚えていない。
 これもまた、俺はこの記憶から、罪から逃げたいのだろう。

 どうしてつきまとうのか。
 お前は俺に何を求めているのか。
 実力が伴わない、称号持ちの俺をバカにしているのか。
 そうだ、お前は魔法の知識に関しては一番だから、そうやって優越感に浸りたいんだろう。

 多分、そんなことを口走った気がする。

 心ない罵倒に、彼はどれだけ傷ついただろう。

 そんな俺に、彼は苦笑いしながら「僕の最初の友達だから」って。

 お前も初めての友達だったのかよ、って、少し嬉しくなったけど、卑屈の塊になっていた俺は拒絶した。
 二度と俺に構うな、突き飛ばしたときの彼の顔が、記憶の中でぼやけている。

 そして、別れ際に「死んでしまえ」と、俺は忌まわしい言葉を口にしてしまった。

 どうして、あんなことを言ってしまったのか。
 過去に戻れるのならば、あの頃の俺を殴り飛ばしたい。
 ごめんって、意地張ってごめんって。
 頑張るから、応援よろしくって、笑っていたら、お前も笑ってくれたかな。

 別れてから一時間後、彼の所属していた魔法研究部で暴発事故が起ったことを、大慌てで廊下を走ってきた教員から聞かされた。
 新しい魔法を作ろうと実験し、制御に失敗して暴発したそうだ。

 重軽傷者は合わせて十三名。
 行方不明者一名。

 その一名が、坊ちゃんだった。

 暴発の際に空間の歪みが生じ、そこに彼は吸い込まれたのだろうということが専門家の出した答えだった。


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