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第一章 青き衣(ジャージ)をまといし者
たからかに かかげるは しろき べんじょスリッパ
しおりを挟む急いで村に戻ると、あちこちが燃えていた。
空からは大人の拳ほどはありそうな火の玉が雨のように空から大量に飛来して、地上を焼き払う。
渦巻く熱風に乗って、子どもの泣き叫ぶ声や、女の悲鳴、男達の怒号が聞こえてくる。
カウロは逃げられただろうか。
「ひどいわね」
ママが舌打ちをして、敵がいるであろう方向を睨みつけた。
「アルカ!」
エルアルトが急かすように俺の背を叩く。
「オマエに言われなくたって、わぁかってるってーの!」
魔法使いの俺ができること、まずはこの火を消すことが先決だ。
村全体を覆う大雨を降らすことはできないが、それなりの水は魔法で用意できる。
「水の精霊に申し上げ……あちっ」
このとき、腰の辺りに急激な熱を感じた。
触れてみると、すっかり忘れていた純白の便所スリッパが熱を帯びている。
どうやら魔力に反応しているらしい。
もしかして、このスリッパが魔力を増幅させる杖の代用品に?
いやいやいや、この世の中にそんなバカなことがあって良いはずがない。
誰が得をするんだ、こんな便所スリッパ型の杖なんて。
でも、確かめてみる価値はありそうだ。
これがただのスリッパなら、それでも良い。
「アンタ、スリッパ片手に何やってるの!」
高らかに便所スリッパを掲げた俺を、ママが見ている。
目が「大丈夫?」と言っていた。
うん、大丈夫。
自分がバカなことをやっていることぐらい認識している。
聞こえなかったフリをして、そのまま魔法を発動した。
「ザーザルー・レイン!」
純白スリッパの先から空へ向かって一筋の光が上ったかと思うと、今まで晴天だったはずの空が一変する。
村を覆うような黒い雨雲が、上空にぽっかりと浮かんだ。
で、できてしまった……。
しかも、巨大な雨雲が。
通常、杖なしで発動すると、俺の魔力ではせいぜい一軒分の雨雲しか出せない。
だが、俺の頭上には黒々とした大きな雨雲が広がっていた。
このスリッパは間違いなく魔力を増幅させるアイテムである。
どうしてこんな物があんな場所にあるんだ?
途端に夕立のような激しい雨が地面を叩く。
辺りは白く煙っていた。
これでしばらくすれば火は消えるだろう。
「アルカはこのまま魔法を維持して消火作業を頼む! 俺とサマンサは散開して目標を探し、直ちに沈黙させる!」
激しい雨音に負けじとエルアルトが大声で言うのを、俺は雨雲を制御しながら頷いた。
「さぁて、イケメンは何人来てるのかしらねえ。それじゃ、ダーリン! また後でね!」
投げキッスをしてママが雨の中に消えていく。
エルアルトもなぜか俺に投げキッスをして行くが、 当然それは避けた。
消火班は俺として、残るはバルト一人。
「こっちは俺が引き受けるから、バルトは村の女性と子ども、あとはじーさん、ばーさんを優先的に避難させてくれ!」
「それがアルカの願いなら」
火の玉が数メートル先に落ちてきた。
パッと辺りが明るくなる。
この瞬間に生じた俺の影にバルトは飛び込んだ。
まるで水の中へとダイブするように、とぷんと姿が影に沈んでしまう。
はて、影の中に沈んだとして、どうやって村の人達を避難させるのか?
「う、うわぁぁあ!」
どこかで悲鳴が上がった。
何事かと声のする方向へ顔を向けると、
「うわぁお」
間の抜けた声が出てしまった。
今、俺はとても微妙な顔をしているだろう。
村の入り口とは反対の森から、真っ黒い巨大な影の腕が立ち上っていた。
それが、ゆっくりと手招きをしているではないか。
恐らく、バルトが闇の魔法で村人達に避難を促しているのだろうが、あれでは黄泉の世界にご招待である。
な、何をやってるんだろうか、うちの師匠は……。
「おや、アルカ殿、ご無事でしたか。助けに参りましたぞ」
そのとき、不意に横から聞き覚えのある声が耳に入ってきた。
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