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第一章 青き衣(ジャージ)をまといし者
おやくそくの てんかい
しおりを挟むクルトン……いや、シャーロット王子が俺の両脇を挟んでいる戦士達に、おっさんの拘束を促す命令を短く発した。
急な展開に戸惑いながらも、戦士らは俺を解放する。
「……お、王子の名を騙る偽者め」
ぽつりとおっさんが呟いた。
「キヒ、キヒヒィ!」
それから、壊れたおもちゃのように笑い始める。
大きく、小さく、声量を上下させて笑う様はとても不気味だ。
「キヒ、ヒヒヒ……王子が潜入捜査だなんて、そんな雑用を任されるはずがない。通常はそういった任務に長けた特殊部隊が請け負うもの。それから、王子は第四位までだ」
その眼は焦点が合っていない。
追い詰められて、自暴自棄になっているようにも見える。
「第五王子は森でホワイトドラゴンに遭遇し、既に亡くなっているんです」
あきらかに動揺しまくっているおっさんの言うことがウソであるということは、俺から聞いても明白で。
王子の目が鋭く細められた。
「ほぅ、私を亡き者にしようと? なるほど、爵位を剥奪されるなら、いっそのこと消してしまえと……真実を闇に葬るつもりか」
「死人に口なし! さあ、お前達も自分が助かりたいのなら、その者達を消すのだ!」
シャーロットを王子と認めて、口封じを目論むつもりのようだ。
「やれるものなら、やってみろ!」
王子が威勢良く傘の柄を引っ張ると、中から細身の剣が抜け出た。
仕込み剣らしい。
「さあ、無色の魔法使いよ。さっさとこやつらを倒してしまえ!」
勇ましく身を構えた王子は俺に命令を……って、えぇ?
「ちょ、王子! 俺がさっき、魔法を封じられたの見てるでしょ!」
「あぁ、それは知っている。だが、頭の中でイメージをすればできるだろう?」
のほほんと王子は言ってのけるが、魔法を頭の中でイメージして発動するのには熟練者でないと難しい。
ゲオルグじぃちゃんならやれるだろうが、学生である俺にはそこまでの域にまだ達していない。
「熟練の魔法使いならともかく、俺の場合は声に出すことが必要なんです!」
王子は少し考えるように小首を傾げたが、今の俺が魔法を使えないことをようやく理解したようで、聞こえるように舌打ちをしてきた。
何という鬼畜王子だろうか。
「まだそこまでのレベルではないのか。だったら、ほら、肉弾戦だ」
「あの戦士達に勝てるように見えます?」
「見えないな」
「うおぉおい! アンタ、勇ましく構えておいて俺任せかよ! 剣術なら王子の方が上だろうが!」
「私の剣が刃こぼれしたらどうしてくれるんだ。特注品だぞ、この傘は」
「剣よりも、今は非力な国民の為に働けよ!」
あ、頭が痛くなってきた。
「貴様等、お笑いをやるなら劇場へ行け!」
魔法使いが大きく杖を振り回した。
ぐるりと前方の宙に弧を描くと、そこから渦巻く炎が噴き出した。
勢いのある炎が、一直線にこちらへ向かって飛んでくる。
「ノエル、逃げろ!」
俺は両腕を広げてノエルと炎の間に立ちはだかった。
ノエルが逃げる時間を少しでも稼ぎたい。
敏捷性アップの魔法を掛けているのだ。
逃げられるだろう、多分!
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