卯月堂の空にクジラが歌う

ねじまる

文字の大きさ
9 / 25
カフェ 卯月(うげつ)堂

第九話

しおりを挟む


 少女はカウンター席に通され、背の高いスツールの上で両足を軽く揺らしていた。

 彼女の前には紅茶がカップに注がれ、ゆらりゆらりと白い湯気が踊っている。

 カウンターを挟んだキッチンの中では、一番背の高い青年が、少女のためにと昼食を用意している。

 少女の右隣のスツールには柔和な顔をした青年が、穏やかな笑みを称えて座っている。
 少女を挟んで左側には猫っ毛の青年が、ゆるんと目尻を下げて座っている。
 少女と同じく両足をプラプラと揺らしていた。
 狐のような顔立ちの青年は、彼等より少し離れた席で一人、紅茶を啜る。

 少女はというと、少し緊張した面持ちで紅茶を一口。
 見知らぬ男達に囲まれているのだ、無理もない。

「とりあえず、自己紹介でもしちゃう? お嬢さんのお昼ご飯が出来るまで、もうちょっと時間が掛かっちゃうし。それまで俺達が、じーっと注目するのも失礼だしさ」

 そんな彼女の気持ちを和らげようというのか、陽気な声で一番背の高い青年が提案をすると、誰の返事も待たずに名乗りを上げた。

「俺はナオヤ。ここのオーナー兼、キッチン担当ってところ。余裕があればラテアートもやるよ。とは言っても、基本のハートしかやったことないけど」

 一番背の高い、少年の面影を色濃く残す青年がナオヤ。
 日向ぼっこをしたときに目を細める猫に似ていて、親しみを感じる。

「ほら、次、トシ君」

「え、え? 本当にやるの? ちょっと恥ずかしいんだけど……」

「いいから、ほらほら!」

「あー、えーっと、トシキ、です。スイーツを担当しています。元々甘い物が好きで、趣味で作ってはいたけれど……こうして、お店で出すからには、お客さん達に満足してもらえるよう精進しなきゃって思ってます」

 柔和な顔をした、春の日射しのように柔らかな笑顔で少女の胸をときめかせたトシキ。
 はにかむ顔も彼女の心を掴んだのか、少女は頬を赤く染める。

「はい、次、ノリヒトね」

 トシキから促されると、彼は少し不服そうな顔をしながらも、

「臨時でホールを担当しています。ノリヒトです」

 律儀に応える。
 狐のような顔立ちでクールな印象からか、少し人を寄せ付けなさそうな壁を感じるノリヒト。

 他にも何か言うのかと少女は胸を弾ませたが、

「はい、コウスケ君」

 あっけなくバトンタッチしてしまう。

「ノリ君、短いなぁ。えーっと、コウスケです。僕も臨時でホールを担当してるけど、あっちのスペースで扱う雑貨の製作を担当してます」

 コウスケが指し示す方へと目を向ければ、店の片隅に大小様々な棚が置かれていた。

「嬉しいことに、今は全部、売り切れちゃってるけど」

 猫っ毛でふわふわとした雰囲気を漂わせている青年はコウスケ。
 今は空っぽとなっている空間に、彼は本当に嬉しそうに目を細めて頬をほんのりと染めた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

どうぞ添い遂げてください

あんど もあ
ファンタジー
スカーレット・クリムゾン侯爵令嬢は、王立学園の卒業パーティーで婚約もしていない王子から婚約破棄を宣言される。さらには、火山の噴火の生贄になるように命じられ……。 ちょっと残酷な要素があるのでR 15です。

処理中です...