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カフェ 卯月(うげつ)堂
第十一話
しおりを挟む「はー……」
チヒロは紅茶を一口飲み、大きく息を吐いた。皿の上は綺麗に食べ尽くされている。
「意外と美味いっしょ?」
満足げに笑うナオヤにチヒロは頷く。
すると、
「それじゃ、チヒロちゃんがどうしてこの町に来たのか……星の丘に、何か捜し物でもあるの?」
落ち着いた頃合いを見計らって、コウスケが静かに口を開いた。
「それは、蛍……ひっ」
チヒロは何とはなしに窓の外に目を向け、声を飲み込んだ。
黒い服の男が二人、何かを探すように周辺を見回している姿が見える。
駅でチヒロを捜していたあの二人組だ。
そのうちの一人がこちらに気付いた。
がっしりとした肉付きの、体格の良い中年の方だ。
チヒロは咄嗟にスツールから滑り降りたかと思えば、
「隠れさせて!」
彼女は姿勢を低くしたままカウンターの中へと駆け込んだ。
尋常ではない様子に青年達は席を立つ。
それまでほんわかとしていた店内に緊張が走った。
「え? なになになに? どうしたの?」
カウンターに入ると、ナオヤが目を丸くしてチヒロと共にしゃがむ。
「追われているの」
「へ?」
「でも、今はまだ捕まるわけには……」
彼女の言葉はドアが開け放たれる音で遮られた。
「ちょっと、失礼しますよ。ここに少女がいませんでしたか?」
少し初老を感じさせる落ち着いた男の声。
チヒロは咄嗟にナオヤのシャツを震える手で掴んでいた。
彼は彼女の小さな手に自分のそれを重ね、優しく包む。
「我々は彼女を保護するよう頼まれている。教えてもらおうか」
威圧的に言葉を発したのは若い男の声。
「何のことです?」
そんな男の声に臆することなく応えたのはノリヒトだ。
「お言葉ですが……表の門にもドアにも提げられた看板、見えなかったんですか? クローズって書いてありましたよね? それとも、英語が読めなかったとか? お客様、大変申し訳ございませんが本日はお引き取りください」
「は? 何それ。何その態度。しらばっくれてんじゃねぇぞ!」
飄々とした口調のノリヒトに噛みつくように、若い男の荒々しい声が上がる。
「営業時間外です。それとも、時間外お給金でも払ってくれるんですか?」
それでも動じる様子もなくノリヒトが淡々と告げた。
「テメェ、舐めやがって!」
「おい、暴力沙汰は……!」
黒服の男達が動いたのか、テーブルと椅子が動く音が聞える。
それから、何かバチンと、人の皮膚と皮膚がぶつかるような乾いた音。
チヒロはカウンターからそっと顔を覗かせた。
黒い服の男が二人見えた。
一人は若くて背の高い男で、もう一人は中年でがっしりとした体躯の男。
若い男が拳を打ち込んでいた。
その拳をトシキが片手で受け止めている。
ノリヒトを庇うように、トシキは若い男の前に立ちはだかっていた。
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