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カフェ 卯月(うげつ)堂
第十二話
しおりを挟む「うちのノリヒトが喧嘩を売っているように感じたのなら、失礼致しました」
こちらからだとトシキの背中しか見えない。
拳を打ち込んだ黒服の男は手を振り払おうとするのだが、僅かに身じろいだだけにしか見えなかった。
「ですが、手を出してきたのはお宅が先ですよね?」
先程まで柔らかかったトシキの声色が冷ややかに感じる。
掴まれた手が痛むのか、黒服の若い男が僅かに顔を歪めた。
「ぐっ、この……!」
「本日の所はお引き取りを」
言い聞かせるようにゆっくりと、落ち着き払った穏やかな声が逆に威圧的だ。
「これは……うちの者が大変失しました」
その場を諫めようとするように、中年の男は穏やかな口調で頭を軽く下げた。
しかし、目は笑っていないのをチヒロは見ていた。
「白い服の少女を捜しています。歳は小学校二年生くらいで……」
中年の男は探し人の特徴を詳細に彼等に話し始める。
それがチヒロであることは明確と思われるぐらい、自分の特徴にピッタリと当てはまっている。
彼女はカウンターの下に再び戻ると、唇を噛みしめた。
「それではまた、明日にでも改めて訪ねますが……くれぐれも、宜しくお願いしますよ」
「えぇ、承りました。大丈夫です」
トシキがそう応えてから少しして、男達が店の外へ出ていく音が聞えてきた。
ドアがぱくんと口を閉じたことを告げると、チヒロは緊張が解け、体から力が抜けるのと同じくして大きく息を吐く。
とりあえず危険は去ったようだ。
「チヒロちゃん、彼等は何者なのかな?」
ふと視線を向けると、一緒にカウンターの下でしゃがんでいたナオヤは笑顔を引きつらせている。
チヒロは少し考えると、
「……悪い人の仲間」
そう言って、視線を逸らした。
チヒロはそっと顔を覗かせて安全を確認すると、恐る恐るカウンターから抜け出す。
「大丈夫だった?」
黒服の男が放った一撃を何ともなかったかのようにトシキがノリヒトに振り向いた。
「それはこっちの台詞です。手、真っ赤じゃないですか」
少し慌てた様子でトシキの腕を掴み、ノリヒトが溜め息と共に肩を竦める。
「平気だって。チヒロちゃんも、大丈夫だった?」
「う、うん。ありがとう」
草食系男子に見えるが、実は喧嘩慣れでもしているのだろうか。
人は見掛けによらない、チヒロは小さく頷いた。
「さて、と」
彼女の後ろからゆっくりとナオヤは出てくると、大きな手でチヒロの頭を撫でる。
「チヒロちゃんの目的、ちゃんと聞いてなかったね。とりあえず、お茶でも飲んで落ち着こうか。淹れ直すよ」
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