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カフェ 卯月(うげつ)堂
第十七話
しおりを挟む「はぁ……」
夕飯後、お風呂にも入って店のソファ席でチヒロは両足を投げ出して寛いでいた。
ここはカフェ兼、二階は彼等の居住スペースで――。
寛ぐ彼女が身に纏う黒いボタン付のシャツは大きくて、ワンピースのようにも見える。
湯上がりなので顔はほんのり赤い。
彼女の前にはホットミルク。
砂糖が入っていて、ほんのりと甘い。
「ごめんね、仕立ての良さそうな服だったから、勝手に洗濯できなくて」
申し訳なさそうにトシキが彼女の向かい側に座った。
彼の手にもホットミルクの入ったカップ。
彼も風呂上がりで、濡れた髪を後ろに撫で付けていた。
夜の静けさの中、どこからか柱時計の振り子が揺れる音がする。
「あの、ごめん、なさい……」
チヒロは申し訳なさそうに目線を落とした。
「うん? 何が?」
きょとんとした綺麗な顔で聞き返される。
「夕飯ばかりでなく、お風呂も、それから泊まる場所まで……」
それを聞いて、トシキはあぁと小さく声を漏らして微笑んだ。
「お客さんは俺達、大歓迎だから気にしないで。それより、親御さんが心配する方が俺は気になるかな。お母さんだけじゃなくて、お父さんだって……」
「そんなことない!」
チヒロは弾かれたように顔を上げ、真っ直ぐにトシキを見た。
「そうなの?」
彼女に驚いた様子もなく落ち着いた様子でカップを傾ける。
「お父様は仕事だけだから」
両膝の上に拳を固めた彼女は吐き捨てるように言う。
「お母様が倒れたときだってそう……」
「お父さんは……嫌い?」
「嫌い! 大っ嫌い!」
「力いっぱいに即答したね」
彼女の答えにトシキは小さく笑った。
笑っては失礼かと思ったのか、彼は顔を伏せたのだが、
「……俺も、あの人は嫌いだな」
ぽつり。
一言落とされる。
そこには感情が含まれていないと本能で感じた。
聞き間違えたのかとチヒロは首を傾げ、
「トシキ、さんも?」
瞬きしたときにはトシキは困ったような顔をして笑っていた。
本心がつい口をついて出てしまったという感じだ。
「あぁ、うん、まぁ、俺も父さんは……」
「風呂上がりの牛乳って最高だよね!」
そのとき、ばーんと大きく扉が開かれる音が室内に響く。
静かな夜の空気を台無しとばかりに破ったのは、
「ナオヤ……」
トシキが少しホッとしたように息を吐いたのをチヒロは見逃さなかった。
「あれ、何か邪魔しちゃった? あ、俺のシャツがワンピースみたいで、チヒロちゃんがめっちゃ可愛いんですけど! あれ? 天使かな?」
チヒロとトシキへと交互に視線を送るナオヤの背後から、
「トシくーん! この匂いはホットミルクだね! 僕にもホットミルクお願い! コンデンスミルク入れて!」
今度はコウスケがホールに飛び込んでくる。
「原稿に詰まったので、糖分補給の物資援助をお願いします。あ、私も練乳で」
ノリヒトも姿を見せ、四兄弟が勢揃いだ。
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