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カフェ 卯月(うげつ)堂
第十八話
しおりを挟むカップが五つテーブルの上に並んでいる。
チヒロとトシキがソファに座り、ナオヤ、コウスケ、ノリヒトはそれぞれ椅子を持ち寄って座っていた。
「さて、こうして揃ったし、そろそろチヒロちゃんには良い時間だし。成長ホルモンが、ねっ!」
ナオヤが話を切り出し、チヒロは辺りを見回して時計を見つけた。
年代物の柱時計が壁に掛けられている。
夜の九時を回ろうという所だった。
塾や学校の宿題などやっていると、この時間は起きているのがチヒロにとっては当たり前だ。
だが、目の前の大人達はそうではないらしい。
「夜更かしは美容の敵って言うもんねぇ」
のほほんと話すコウスケは眠そうだ。
「あ、私は原稿が……」
何かを察したのか、ノリヒトが胸の前で小さく挙手。
「俺、まだ何も言ってないけど正解!」
ナオヤがぎょっとしてノリヒトを見る。
「あぁ、誰の部屋にするか、ね」
トシキもナオヤが言わんとしていたことに気が付いて頷いた。
「そう、誰の部屋にチヒロちゃんを泊めるか」
「ええっ!?」
チヒロは驚きのあまりに立ち上がる。
誰の部屋にするか、それは一緒の部屋で寝るということを意味しているに違いない。
男四人に注目され、チヒロの心臓は大きく波打ち、顔に熱が集中してきた。
熱い。
恥ずかしい。
熱い。
「わ、わ、わた、私っ、私は別にここで良いの! ソファで寝るから……! いいえ! お店の端に転がしてくれるだけで良いから!」
「は、端に転がす!?」
ナオヤも驚いてチヒロを思わず二度見。
「いや、でも、転がったら痛いですし、それから寒いですよ?」
冷静にツッコミを入れつつノリヒトが彼女を見上げ、続いて無言でナオヤに視線を向ける。
「え、俺ぇ!?」
声が見事に引っ繰り返っていた。
「言い出したのはナオヤさんですからね」
「お、俺、売り上げのデータを整理したいし、明日の仕込みもあるし……部屋に戻るの遅くなるから、そのときうるさくなっちゃうだろうし……えーっと、えーっと……」
何より。
ナオヤは恥ずかしげに両手を組み、もじもじと体を動かす。
「部屋の中散らかってて汚いし、は、恥ずかしぃ……」
最後まで言うか言わないかというところで顔を真っ赤にし、両手で覆う。
「乙女ですか」
「それじゃあ、コウスケの部屋は? 女の子ウケすると思うし」
横から発言したのはトシキ。
すると、それまで眠りの国へ旅立とうとしていたコウスケの目が大きく開いた。
「僕の部屋!?」
「あ、あー、確かに! 確かにコウスケの部屋って可愛いもんな!」
賛成とナオヤが両手を挙げる。
早く自分からターゲットが移ってほしいという気持ちが、態度からでも丸わかりである。
「はい、解決!」
「えー、そんなぁ。グッズが売り切れたから、フェルト人形のストラップとかアクセ作りたいのにぃ!」
リアクション大きく肩を落とすコウスケに、
「それなら、私の部屋で作業しなよ」
ホットミルクをすすりながらノリヒトが提案をした。
二人は歳が近いのか、タメ口の間柄らしい。
彼等の様子を見るに、この四兄弟の中ではコウスケが末っ子のようだ。
「わぁい、チヒロちゃん、僕の部屋で良かったら使って! ごちゃごちゃしてるけど!」
コウスケはカップを傾けて、ぐーっとホットミルクを飲み干した。
「ごちそうさま! それじゃあ、行こう!」
「俺とナオヤは明日の仕込みがあるから、コウスケ、ノリヒト、後はよろしくね」
勢い良く立ち上がるコウスケにトシキがひらりと手を振る。
「おやすみ~」
ナオヤも三人に向かって手を振った。
「おやすみなさい。今日は、あの……本当にありがとう……」
「チヒロちゃーん、こっちこっち!」
チヒロは丁寧に二人に頭を下げ、コウスケ達の後に続いて階段を上がって行く。
小走りに去る少女を見届けると、
「さぁて、明日の仕込みをやりますかぁ」
ナオヤが大きく伸びをした。
「トシ君、指示を頂戴」
「ノートに分量は書いておいたから、タルトとかクッキーとか生地関係をお願い。俺はコンポート作る」
「あいよ」
男二人は腕捲りをすると、気合い十分にキッチンへと消えていった。
「あ、トシ君、仕込みが終わったらさぁ……」
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