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カフェ 卯月(うげつ)堂
第十九話
しおりを挟む二階ではコウスケが手招きして、チヒロの到着を待っていた。
「トイレがこっちだからね。お風呂はさっき話したけど、あっちでー……僕の部屋がここ! わ、笑わないでね?」
少し恥ずかしげに身じろぎし、そっとドアを開けて照明のスイッチを入れる。
「わぁ……!」
照し出された部屋の様子にチヒロは思わず息を呑んだ。
サーカスのパレードのようにカラフルな色、色、色。
布、レースのリボン、刺繍糸、毛糸、羊毛のフェルト、宝石のように輝くビーズ、鉱石……それから、それから――。
様々な手芸用品が美しい装飾品のようだ。
ベッドの上には沢山の動物のぬいぐるみ達がご主人の帰りを待っている。
「女の子の部屋みたいでしょ」
コウスケが恥ずかしげに笑う。
「こんな部屋だから、友達とか呼べなくて……」
「そんなことない!」
チヒロは目を輝かせてコウスケを見上げた。
「とても素晴らしいお部屋だわ!」
興奮しきった顔で見上げると、彼は頬をサッと赤く染めた。
「あ、ありがとう……」
「ほら、コウスケ君。ありのままで、良いんだよ」
二人の後ろで口を開いたノリヒトの口調はとても優しい。
「ちょ、ちょっと待ってね。必要な道具だけ取らせて!」
目元を袖で拭いながらコウスケは部屋に入ると、ドアを閉めてしまった。
チヒロはノリヒトに振り向くと、彼は「さぁ?」と戯けた顔で肩を竦める。
部屋の前で数分は待っただろうか。
「ごめんね、お待たせっ」
コウスケは道具が入っていると思われる革の鞄を手にして出てきた。
「お、女の子を泊めるなんて初めてだし。に、臭いとか大丈夫かなって気になっちゃって……ほ、本当だからね!」
クッと笑いを漏らしたノリヒトにコウスケが反論する。
「何かあったら遠慮無く言ってね。僕達、そこの部屋にいるし、こっちがトシ君で、あっちがナオヤ君の部屋だから」
あれこれと説明するコウスケの横で、
「喉が渇いたらこれを」
いつの間に用意したのか、ノリヒトが水差しとコップを手にしていた。
彼はコウスケの部屋に入り、作業机の上にそれらを置く。
「ありがとう。おやすみなさい」
「おやすみぃ」
「おやすみなさい。夜更かしは程々に、ですからね」
チヒロは二人と短くお休みの挨拶を交わすと部屋に入った。
ふわんと焼き菓子のような小麦と砂糖の甘い匂いを感じる。
宝箱を引っ繰り返したような部屋に胸がワクワクしてきた。
「眠れるかしら」
乱雑に積み上げられたビーズや鉱石の詰まった瓶を眺めているだけでも目に楽しい。
作業机には型紙が散乱している。
見たところ、トートバッグや帽子のようだ。
そして、分厚く膨れ上がったノートの山が目を惹いた。
アイデアやデザインのノートだろう。
覗き見は悪いと思いながらもつい手が伸びてしまう。
一冊を開いて目を見張る。
「すごい……!」
沢山のアイテムの絵が描かれ、改善点や追加のアイデアらしき書き込みがびっしりと書き込まれていた。
ほんわかした彼らしい、小さく踊るような可愛らしい文字が実に楽しそうで。
少し難しい絵本を読んでいるような気持ちになってくる。
一冊、また一冊と、彼女の小さな手は止まらない。
そんな彼女の頭上で、壁に掛けられた時計の針が静かに歩みを進めた。
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