周りがやきもきするだけの話

人はそれを恋と呼びます

竜王の過去

「お前、恋愛したことある？」

何故そのような話になったのか
そもそも前振りすらなかったのかもしれないが…唯一の主は私にそう尋ねた
視線は愛し子に向けたまま、私の言葉を待っている

「主はしたことあるのか？」
「俺？あるわけ無いじゃん」

そんな暇無いよ。と嗤った主の瞳は強い憎しみと怒りが愛し子に向ける慈愛に隠れていた

「私も無い。そもそも雌は選び放題だったからな。1匹に限定することは無い」
「…え、お前女の敵だったの？」
「…そもそも人間とは思考が違う。より強い種を残す為の生存本能だ。あと、番は家族愛だが愛していたぞ」

番の雌とはより強い種を残す為の人間でいうお見合い結婚のようなものだった
だが子を成し、共にいることで「家族愛」が生まれた

「…恋愛はしないのか？」
「時折、する奴はいるが大概が変わり者だ。…まぁ、幸せそうだがな」

だが、特に気にしていない。と告げればふぅん。と返ってきた

「主はしないのか、恋愛」
「無理だよ。それに、俺は…そう言う感情は欠落してるから」

困ったように笑う主に、私は眉をひそめた
どうやら主は気付いていないようだ。それとも意図的に無視しているのか
それを指摘するのも野暮の為、そうか。と返し、話を打ち切った


























まさかその数十年後、人の子を愛することになるとはこの時欠片も思っていなかった