性用占精術 秘密のセックス鑑定 『星座別鑑定データ』

はぎわら歓

文字の大きさ
30 / 36
カプリコーンの女 伝統の章

しおりを挟む
 ぼんやり天井を眺めている僕にすでに着衣した寛美が薫り高いマサラチャイを持ってきた。

「ああ。ありがとうございます」

ふらつきながら身体を起こしステンレスのマグカップを受け取った。

「大丈夫?」

寛美が優しく目の奥を覗き込む。

「なんだか身体がふわふわするような。夢の中の様な変な感じですね」
「もう少ししたら戻ると思うわ。さっき私たちどこまでイケたと思う?」
「どこまで?」
こくりと頷きながら寛美は続けた。
「宇宙まで飛んだのよ」
「えっ」

驚いてカップを落としそうになるのをさっと左手で受け止めた。

「残念ながら身体ごとじゃないけどね。意識だけ一緒に飛んだの」

先ほど見えた星々は幻覚ではなかったのだろうか。なんとも実感が得にくい話ではあるが虚実ではない気がする。

「一度だけの体験だとすぐ忘れてしまうでしょうけど、緋月さんはなかなかいい線いってるわよ」
「そ、そうですか」
「あなたの専門は西洋占星術なのが残念。インド占星術なら私のパートナーにと思えるんだけどね」

寛美の一族は性愛の奥義を追及する一族で一か所にどどまることはなかったが旅をしながら魂の伴侶も探しているらしい。こういった一族は他にも世界に何組かいるらしく歴史をさかのぼると権力闘争に巻き込まれることも多々あり、またこの技術によって権力や巨万の富を得るものも数多くいた様だ。
時代が時代なら寛美は一国の主の寵姫となることもあっただろう。しかし一族は個人的な小さい規模の高みを目指すことをやめ、性愛を通して地球や人々の意識を引き上げることに重きを置き始めているらしい。

「すごかったです。これはセックスなんだろうかと思うくらい」

チャイを飲んでしまうと身体が人心地ついたようで落ち着き始めていた。寛美が僕の手首を触り脈を診る。

「うん。大丈夫ね。さっきのは確かにセックスだけど違うのは二人で高め合う儀式だったということ。快感以上の快感が一人のものではなくて二人で引き上げられることが分かってもらえたらいいのよ」
「うーん。なんだか難しいですね。消化するのに時間がかかりそうだ」
「これから何となくだけど人生がまた変わりそうな出会いがあるかもしれないわ。今日の事が少しでもお役に立てるといいけれど」
「人生が……か」

今まで出会ってきた素晴らしい女性たちが目に浮かぶ。若菜の事を想うと胸にまだ痛みを感じる。しかし僕自身の人生が変わることはなかった。教えられ、成長をしてきたが変化ではない気がする。ふと麻耶の事を思い出し寛美に尋ねた。

「あの。柏木さんのご主人はもう大丈夫なんでしょうか」
「ええ。邦弘さんは生真面目で純真なのよ。きっと愛のないセックスがストレスになっていたんでしょうね。男性にしては珍しい人だわ」

柏木邦弘のストイックさに自分が恥ずかしくなってきてしまう。無言でうつむいていると寛美は手のひらを差し出し、僕の顎をそっと撫でた。

「あなたはあなた。彼は彼。緋月さんはとても優しいわ。あなたが真のパートナーに巡り合うことを祈っています。もちろん私もね」
「ありがとう」

嫣然と微笑みながら寛美は背を向け「ほら、見て」とするりとサリーを滑らせ丸い尻を突き出した。

「あっ」

うっすら血の滲んだ爪跡が刻まれている。

「すみません。傷をつけてしまった……」
「傷じゃないわ。これはあなたの絶頂の証。私の身体に刻まれた官能の装飾品なのよ」

最後の絶頂で付けたのだろうか。これほど強いマーキングをしたことなどなかった。両腕をクロスしていたのであろう、爪跡は親指が内側で外側に四本の月の形をした痕が規則正しく弧を描き並んでいる。

「蝶のようでしょう?しばらくこの飾りを見て楽しむことが出来るわ。あなたも両腕を見て」

僕の上腕にもまるで蓮の花の様にくっきりと手形が付いていた。

「あなたのはすぐに消えてしまうから、心配しないでね」
「そうですか。それも残念ですね」
「さて。ここでもいい仕事ができたわ」
「これからどうされるんですか?」

首を傾げ黒目を左右に動かしている寛美はインド舞踊に出てくる巫女のようだ。

「またしばらくインドに行こうかしらね。ご縁があればまたお会いしましょう」
「ええ。是非。レッスンをありがとうございました」

再会の機会が訪れる時には今の自分よりももっと深い男でありたいものだと壁にかかったシヴァ神の絵を見つめながら思った。甘い残り香と掴まれた腕の熱さだけが余韻を残している。気が付くと全身が澄み渡ったような爽快感が訪れた。足取りも軽く、また明日から歩いて行けそうだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

処理中です...