21 / 127
21 陶工夫婦
しおりを挟む
宿屋に住まいが見つかるまで滞在させてほしいと頼むと、主人は快く承知してくれた。前払いできちんと部屋代を支払う上客の晶鈴を断るはずがなかった。行き交う人は多くても、案外宿にちゃんと泊まるものが少ないらしく、部屋が完全に埋まることがないらしい。一番奥まって静かな部屋を選ばせてもらった。ロバの明々も一所に落ち着く気配を感じたのか、のんびりした顔がさらに間延びしている。
「たまに散歩させなきゃいけないわね」
馬小屋に預けっぱなしもよくないだろうと、朝、一緒に出勤することにした。都に比べると勿論小さい町だが、活気はすさまじい。洗練されていてシックな都とは違い、サイケデリックなカラフルさとモードがある。
用意した紺色の布を小さな丸い机に掛け、座って客を待つ。隣ではロバの明々がのんびり草を食べている。前を通り過ぎる人は多く、チラチラ晶鈴を見るが腰掛ける者はいない。
「そりゃあ。そんなに占いが必要な人もいないわよね」
半日じっと座っていたが誰も来ない。こんなものかと思っていると、ロバの明々とは逆隣から声がかかった。
「あの、占い師さん?」
声のほうを向くと、滑らかで甘栗のような艶やかな茶色の肌に、黒い眉と瞳を持つ女性が微笑んでいる。彼女の隣には重ねられた白い器が大量にある。
「え、ええ。あなたは陶工?」
「うふふ。主人がね。私は店番なの。どうせこのおなかじゃ身動き取れないし」
「あら、お仲間ね」
「まあ! 子供たち同い年になるわね」
「そうね」
お互い自己紹介をする。彼女は朱京湖と名乗り、もっともっと南方から来たのだという。おっとりした雰囲気がなんだか曹隆明を思わせ懐かしさと親しみを感じた。そのうち彼女の夫が帰ってきた。がっしりとした体格に鋭いまなざしを持ち、やはり南方出身なのであろう、浅黒い肌に墨のような黒い髪と瞳を持っている。
「あなた、占い師の胡晶鈴さんよ。お友達になったの」
「はじめまして」
男はじっと一瞬晶鈴を見据えた後名乗る。
「朱彰浩と申す」
一言だけだった。ぶっきらぼうな雰囲気だが、悪意も敵意も感じられないので晶鈴はとくに悪い印象も持たなかった。
「一人で平気だったか?」
「ええ」
朱彰浩は妻の京湖には優しいまなざしを向け、そっと頬と腹をなでる。愛情深い様子に晶鈴は好感を抱いた。
「ねえあなた。晶鈴さんもお住まいを探しているのですって」
「ああ、そのことだが。町の外に大きな空き家があるらしい」
「まあ大きいほうがいいわよね。町の中じゃ窯も焚けないし」
「うん。都合は良いんだが少しばかり金が足りないのだ」
「そうなのね……」
2人の話を聞きながら、晶鈴は「あのー」と声をかける。
「その家は、部屋数は多いのかしら」
「2家族住んでいたようだから、部屋数も広さもある」
「私もそこへ住まわせてもらえないかしら。不足分を支払うから」
「え? し、しかし……」
突然の提案に、もちろん朱彰浩は戸惑う。妻の京湖が明るく「いいんじゃないかしら」と夫の手を取った。
「晶鈴さんもお子が生まれるし、ここに着いたばかりみたいなの。私たちとおなじだわ」
朱彰浩は勿論警戒している。会ったその日に一緒に住もうというのだから当然だと晶鈴も思うし、自分もなぜそんなことを言い出したのかわからない。
「あの、これを」
晶鈴は身分証ともいえる通行手形を見せる。
「読めるかしら?」
「ああ、大丈夫だ」
朱彰浩は手形を見て、頷いた後、京湖にも見せる。
「すごいのね」
嬉しそうに言う彼女に「いえ、『元』だから」と、恥ずかしそうに言いながら、そうだとまた陸慶明の札も見せる。
「これがあると薬屋と役所に融通が利くと思う」
「ふーむ」
「あなた、こんなにすごい方と出会えるなんて何かの縁よ」
慶明のおかげでさらに晶鈴の株が上がる。
「もっと私のこと、話したほうがいいかしら……」
どうしてここにいるのか、子供の父親は誰かなのど疑問に思われることは多いだろう。
「いや、いい。妻がこんなに親しみを覚える人も早々にいないだろう。怪しんですまなかった」
「当然のことだと思うわ」
こうして3人は共同生活を行うことになった。
「たまに散歩させなきゃいけないわね」
馬小屋に預けっぱなしもよくないだろうと、朝、一緒に出勤することにした。都に比べると勿論小さい町だが、活気はすさまじい。洗練されていてシックな都とは違い、サイケデリックなカラフルさとモードがある。
用意した紺色の布を小さな丸い机に掛け、座って客を待つ。隣ではロバの明々がのんびり草を食べている。前を通り過ぎる人は多く、チラチラ晶鈴を見るが腰掛ける者はいない。
「そりゃあ。そんなに占いが必要な人もいないわよね」
半日じっと座っていたが誰も来ない。こんなものかと思っていると、ロバの明々とは逆隣から声がかかった。
「あの、占い師さん?」
声のほうを向くと、滑らかで甘栗のような艶やかな茶色の肌に、黒い眉と瞳を持つ女性が微笑んでいる。彼女の隣には重ねられた白い器が大量にある。
「え、ええ。あなたは陶工?」
「うふふ。主人がね。私は店番なの。どうせこのおなかじゃ身動き取れないし」
「あら、お仲間ね」
「まあ! 子供たち同い年になるわね」
「そうね」
お互い自己紹介をする。彼女は朱京湖と名乗り、もっともっと南方から来たのだという。おっとりした雰囲気がなんだか曹隆明を思わせ懐かしさと親しみを感じた。そのうち彼女の夫が帰ってきた。がっしりとした体格に鋭いまなざしを持ち、やはり南方出身なのであろう、浅黒い肌に墨のような黒い髪と瞳を持っている。
「あなた、占い師の胡晶鈴さんよ。お友達になったの」
「はじめまして」
男はじっと一瞬晶鈴を見据えた後名乗る。
「朱彰浩と申す」
一言だけだった。ぶっきらぼうな雰囲気だが、悪意も敵意も感じられないので晶鈴はとくに悪い印象も持たなかった。
「一人で平気だったか?」
「ええ」
朱彰浩は妻の京湖には優しいまなざしを向け、そっと頬と腹をなでる。愛情深い様子に晶鈴は好感を抱いた。
「ねえあなた。晶鈴さんもお住まいを探しているのですって」
「ああ、そのことだが。町の外に大きな空き家があるらしい」
「まあ大きいほうがいいわよね。町の中じゃ窯も焚けないし」
「うん。都合は良いんだが少しばかり金が足りないのだ」
「そうなのね……」
2人の話を聞きながら、晶鈴は「あのー」と声をかける。
「その家は、部屋数は多いのかしら」
「2家族住んでいたようだから、部屋数も広さもある」
「私もそこへ住まわせてもらえないかしら。不足分を支払うから」
「え? し、しかし……」
突然の提案に、もちろん朱彰浩は戸惑う。妻の京湖が明るく「いいんじゃないかしら」と夫の手を取った。
「晶鈴さんもお子が生まれるし、ここに着いたばかりみたいなの。私たちとおなじだわ」
朱彰浩は勿論警戒している。会ったその日に一緒に住もうというのだから当然だと晶鈴も思うし、自分もなぜそんなことを言い出したのかわからない。
「あの、これを」
晶鈴は身分証ともいえる通行手形を見せる。
「読めるかしら?」
「ああ、大丈夫だ」
朱彰浩は手形を見て、頷いた後、京湖にも見せる。
「すごいのね」
嬉しそうに言う彼女に「いえ、『元』だから」と、恥ずかしそうに言いながら、そうだとまた陸慶明の札も見せる。
「これがあると薬屋と役所に融通が利くと思う」
「ふーむ」
「あなた、こんなにすごい方と出会えるなんて何かの縁よ」
慶明のおかげでさらに晶鈴の株が上がる。
「もっと私のこと、話したほうがいいかしら……」
どうしてここにいるのか、子供の父親は誰かなのど疑問に思われることは多いだろう。
「いや、いい。妻がこんなに親しみを覚える人も早々にいないだろう。怪しんですまなかった」
「当然のことだと思うわ」
こうして3人は共同生活を行うことになった。
0
あなたにおすすめの小説
黒騎士団の娼婦
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
王宮メイドは今日も夫を「観察」する
kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」
王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。
ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。
だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……?
※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる