22 / 127
22 穏やかな日々
しおりを挟む
晶鈴は身支度をすると町へ行き占いをする。客は2,3日に一人くらいだった。それでも十分な稼ぎとなった。辺境の町の占い師は、来た時に観てもらった金髪碧眼のカード使いと、小麦色の肌と灰色の髪をもちサイコロを振るもの、赤茶けた波打つ髪を持つ青白い顔色の振り子占い師と、流雲石をつかう晶鈴の4人だ。
4人は東西南北にそれぞれ分かれて商売をし、客層がかぶることもなく、奪い合うこともないので競争心はわかなかった。むしろ気の合う仲間として、時々食堂で一緒に集まる仲間になっていた。太極府と違う占い師たちに晶鈴は刺激されていた。
「みんな卜術なのね。命術の占い師がいないって面白いものね」
太極府では晶鈴のように偶然性を必然として使う占い師のようなタイプよりも、星の動きや生まれた日時で占う方法のほうが圧倒的に多かった。
「あら、あたしは手相も観るわよ」
赤毛の振り子占い師は大きな手のひらを見せる。晶鈴も自分の手のひらを思わず見ると、微妙に手のひらの線が違うことに気づいた。
「ほんと。この筋ってみんな違うのねえ」
感心している晶鈴に金髪のカード使いが「手相も卜術とかわらないでしょ」と大げさな笑顔を見せる。灰色の髪を持つサイコロ振りが静かだがよく通る声で発言する。
「近未来を観るのに卜術のほうが的中率が高いから。宿命がある人間はそうざらにない。運命は心がけ次第で変わるから」
「そうそう。考え方ひとつで天国にも地獄にも変わるものよ」
「へえ」
天国や地獄、神や仏、いろいろな話を聞けるこの占い師の集まりは晶鈴にとって刺激的だった。
「そうだ。そろそろ産休に入ることにするの。また復帰するときはよろしくね」
晶鈴はそろそろ来月、産み月に入る。
「そうかい。元気な子を産みな」
「がんばって」
「仕事がなくなることはないからいつでも帰ってくるといい」
流れ者の多い町では、だれも事情を聞かないし、詮索もしない。それでも付き合いやすく、親切で明るかった。情報通である彼女たちは一番赤ん坊を取り上げるのが上手な産婆も教えてくれた。
ロバの明々を伴って夕方、関所が閉まってしまう前に町を出た。顔見知りになった兵士は「気を付けてな」と声をかけてくる。
「またね」
宵の明星を眺めながら家路につく晶鈴は、生まれてくる子どもに『星』の字を使おうと考えていた。
馬のいない馬小屋にロバの明々を入れ、水を汲みに井戸へ向かった。ちょうど朱彰浩が手を洗いにやってきていた。
「ただいま」
「おかえり。水は俺が運ぶ」
「ううん。いいわよ」
「いや、もう臨月だろ。無理しなくていい」
「ありがと。じゃあお願いするわ」
ぶっきら棒だが親切な朱彰浩の厚意に甘えることにした。自分の小屋に行く前に、京湖の顔を見に行く。
「京湖さん、ただいま」
「おかえりなさい。今日はどうだった?」
「まあまあかしら。みんなには明日から休むって言ってきたの」
「そろそろ身動きが取れにくくなってきたわよねえ」
「ね」
わずかに京湖の腹のほうが大きく、予定日は彼女のほうが早そうだ。
「ご主人に色々お世話になって申し訳ないわ」
「あら、こちらこそ。お互い様よ」
世間話をすこしして晶鈴は帰った。寝台に腰掛け腹を撫でると、内側からぽこぽこと蹴られた。
「アタタ。なかなか強くけるのねえ。男の子かしら? 京湖さんは女の子かもしれないわ」
楽しみのような不安のような怖いような複雑な気持ちが駆け巡る。いろんな思いをすることに晶鈴は不思議な心持だ。占い師たちの言葉を思い出す。
『運命は心がけ次第で変わる』『考え方ひとつで天国にも地獄にも変わる』
自分の人生は自分で切り開いていくものなのかと肝に銘じて晶鈴は目を閉じた。
しばらくのんびりとした日々を送る。京湖と一緒に赤ん坊の産着を縫い、寝かせる籠も編んだ。朱彰浩は朝から晩まで忙しく窯を作り、やっと完成したところだった。今はその窯で焼く器を制作している。
京湖と二人で彰浩が稼働する円盤を蹴って回す、ロクロの作業を眺める。粘土の塊がぬるぬると伸び縮みし、収まり、鉢や壺になった。
「面白いわねえ」
「今度やってみたら?」
「ううん。見てるだけでいいわ」
朴訥とした彼から、優しい陶器が生み出されるのを見ていると晶鈴は心から和む。作品が窯に一杯になったら三日三晩不眠不休で焚くそうだ。
「不眠不休なの?」
「ええ。火を絶やせないから」
「焚くのって難しいのかしら。難しくないならお手伝いするけど」
「難しくはないのだけれど、温度がすごいのよ」
「そんなに?」
詳しく聞いていると、鉄さえも溶けるという相当の高温らしく晶鈴には想像のつかない温度だった。
「ちょっと怖いわね」
「せめて子供が落ち着くまではやめておいたほうがいいと思うわ」
安穏とした日々はそろそろ終わりを迎える。とうとう二人が母になる日が近づいてきた。
4人は東西南北にそれぞれ分かれて商売をし、客層がかぶることもなく、奪い合うこともないので競争心はわかなかった。むしろ気の合う仲間として、時々食堂で一緒に集まる仲間になっていた。太極府と違う占い師たちに晶鈴は刺激されていた。
「みんな卜術なのね。命術の占い師がいないって面白いものね」
太極府では晶鈴のように偶然性を必然として使う占い師のようなタイプよりも、星の動きや生まれた日時で占う方法のほうが圧倒的に多かった。
「あら、あたしは手相も観るわよ」
赤毛の振り子占い師は大きな手のひらを見せる。晶鈴も自分の手のひらを思わず見ると、微妙に手のひらの線が違うことに気づいた。
「ほんと。この筋ってみんな違うのねえ」
感心している晶鈴に金髪のカード使いが「手相も卜術とかわらないでしょ」と大げさな笑顔を見せる。灰色の髪を持つサイコロ振りが静かだがよく通る声で発言する。
「近未来を観るのに卜術のほうが的中率が高いから。宿命がある人間はそうざらにない。運命は心がけ次第で変わるから」
「そうそう。考え方ひとつで天国にも地獄にも変わるものよ」
「へえ」
天国や地獄、神や仏、いろいろな話を聞けるこの占い師の集まりは晶鈴にとって刺激的だった。
「そうだ。そろそろ産休に入ることにするの。また復帰するときはよろしくね」
晶鈴はそろそろ来月、産み月に入る。
「そうかい。元気な子を産みな」
「がんばって」
「仕事がなくなることはないからいつでも帰ってくるといい」
流れ者の多い町では、だれも事情を聞かないし、詮索もしない。それでも付き合いやすく、親切で明るかった。情報通である彼女たちは一番赤ん坊を取り上げるのが上手な産婆も教えてくれた。
ロバの明々を伴って夕方、関所が閉まってしまう前に町を出た。顔見知りになった兵士は「気を付けてな」と声をかけてくる。
「またね」
宵の明星を眺めながら家路につく晶鈴は、生まれてくる子どもに『星』の字を使おうと考えていた。
馬のいない馬小屋にロバの明々を入れ、水を汲みに井戸へ向かった。ちょうど朱彰浩が手を洗いにやってきていた。
「ただいま」
「おかえり。水は俺が運ぶ」
「ううん。いいわよ」
「いや、もう臨月だろ。無理しなくていい」
「ありがと。じゃあお願いするわ」
ぶっきら棒だが親切な朱彰浩の厚意に甘えることにした。自分の小屋に行く前に、京湖の顔を見に行く。
「京湖さん、ただいま」
「おかえりなさい。今日はどうだった?」
「まあまあかしら。みんなには明日から休むって言ってきたの」
「そろそろ身動きが取れにくくなってきたわよねえ」
「ね」
わずかに京湖の腹のほうが大きく、予定日は彼女のほうが早そうだ。
「ご主人に色々お世話になって申し訳ないわ」
「あら、こちらこそ。お互い様よ」
世間話をすこしして晶鈴は帰った。寝台に腰掛け腹を撫でると、内側からぽこぽこと蹴られた。
「アタタ。なかなか強くけるのねえ。男の子かしら? 京湖さんは女の子かもしれないわ」
楽しみのような不安のような怖いような複雑な気持ちが駆け巡る。いろんな思いをすることに晶鈴は不思議な心持だ。占い師たちの言葉を思い出す。
『運命は心がけ次第で変わる』『考え方ひとつで天国にも地獄にも変わる』
自分の人生は自分で切り開いていくものなのかと肝に銘じて晶鈴は目を閉じた。
しばらくのんびりとした日々を送る。京湖と一緒に赤ん坊の産着を縫い、寝かせる籠も編んだ。朱彰浩は朝から晩まで忙しく窯を作り、やっと完成したところだった。今はその窯で焼く器を制作している。
京湖と二人で彰浩が稼働する円盤を蹴って回す、ロクロの作業を眺める。粘土の塊がぬるぬると伸び縮みし、収まり、鉢や壺になった。
「面白いわねえ」
「今度やってみたら?」
「ううん。見てるだけでいいわ」
朴訥とした彼から、優しい陶器が生み出されるのを見ていると晶鈴は心から和む。作品が窯に一杯になったら三日三晩不眠不休で焚くそうだ。
「不眠不休なの?」
「ええ。火を絶やせないから」
「焚くのって難しいのかしら。難しくないならお手伝いするけど」
「難しくはないのだけれど、温度がすごいのよ」
「そんなに?」
詳しく聞いていると、鉄さえも溶けるという相当の高温らしく晶鈴には想像のつかない温度だった。
「ちょっと怖いわね」
「せめて子供が落ち着くまではやめておいたほうがいいと思うわ」
安穏とした日々はそろそろ終わりを迎える。とうとう二人が母になる日が近づいてきた。
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」
魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。
鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。
(な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?)
実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。
レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。
「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」
冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。
一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。
「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」
これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる