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20 シスターたち
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寝室の前には誰もいなかった。シャルロッタは大人しく寝ているだろうとシスターは自分の用事をしているのかもしれない。ノックもせずに静かに扉を開ける。カーテンがしっかり閉まった寝室は薄暗い。ベッドで横たわっているシャルロッタを目視しながら、下方に横たわるモノが目に入る。腰をかがめて見たアンドレイは息をのんだ。
「これ、は……」
すっかりやせ細ったシスターが一人絶命している。目は見開き、口は叫んだように大きく開けられている。だたし口角は上がり喜びの悲鳴を上げたような表情だった。アンドレイは彼女の目を閉じさせ、大の字になっている両手両足を揃えた。首筋の二つの孔を認め、アンドレイはため息をつく。
「シャル……」
すやすやと眠っているシャルロッタは血色がよくつやつやした頬を見せる。一人の乙女の生き血をすっかり吸い尽くしたシャルロッタは満たされ、しばらく至福の眠りを得ているだろう。彼女が空腹を感じ起きだす前にアンドレイは手を打たなければならなかった。
静かに部屋の外に出て、シスターを見つけては静かに聖堂のほうへ向かうように告げる。もっとも年配のシスターが不安そうな表情でシスターたちの顔を見回す。そして一人いないことに気付いた。静かに待っているシスターたちにアンドレイは話始める。
「落ち着いて聞いてほしい。シャルロッタが私と同じモノになってしまった。そのことは承知だと思うが」
一呼吸おいて続ける。
「若いシスターがシャルロッタの犠牲になってしまった。次の犠牲が出る前にみんなはここを出てほしい」
アンドレイの言葉にシスターたちは騒めき始める。物静かな彼女たちは大きな声にこそ出さないが、両手を口に当て隣のシスター同士できょろきょろ顔を見合わせている。
「資金は十分にあるからここを出ても生活に困ることはない。遠くに行く必要はないが、もうこの修道院は封鎖したい。本当は父の代で閉めるべきだったのだ。神もここにはいないのに……」
この修道院は、吸血鬼のための花嫁、つまり血の提供のための場所であり神のための教会ではなかった。世間からの目くらましのために修道院という形態をとってはいるが、神を信仰する場所ではない。そのため神父もおらず、信徒が祈りに来ることもなかった。
アンドレイは大きなトランクを持ってきて開く。その中には十分な金と、地図、色々な地方の特色などが書かれているものがある。彼女たちがここを出ても困ることのないように用意されていた。
「さあ、この金と地図をもってここを出るんだ。この村から一番近い村で洋服を買ってその修道服を着替えるといい」
シスターたちはじっとアンドレイの話を聞き、トランクの中を見つめるが黙ったまま動かない。そんな中、一人のシスターが聖堂から出ていったことには気づかなかった。
年老いたシスターがすっと前に出る。
「アンドレイ様。わたくしどもはここを出たいと思ったことはありません。たとえシャルがあなた様と同族になられたといってもです」
「何を言っているんだ。すでに一人犠牲になっているのだ」
シスターは左右に顔を振る。
「それこそわたくしどもの願いです」
「一体何を言っているんだ」
シスターが目線をアンドレイの左方向に泳がせ、それについ反応した瞬間にアンドレイは両腕をがっしりと捕まえられた。
「なっ!?」
シャルロッタがとてつもなく強い力でアンドレイの右腕を抱え込む。左腕にはもう一人のシスターがしがみついていた。アンドレイは力の弱いシスターのほうが持つ左腕を払おうとした。
「早く抑えて!」
シャルロッタの声にシスターたちが一斉にアンドレイを取り押さえる。数名に抑えつけられるとさすがに身動きが取れなかった。
「シャルっ! みんなっ!」
にっこりとシャルロッタは笑んで年老いたシスターからロープを手に取る。アンドレイはたちまち縛り上げられることになる。
「アンドレイ。乱暴にしてごめんなさい。でも、みんなの願いをかなえてあげたいの」
「……」
シャルロッタは血色よく肌を輝かせている。可憐な乙女だった彼女がいつの間にかすっかり成熟した女王然としている。優雅で堂々として落ち着いた様子でシスターたちに微笑みかけている。
シスターたちはシャルロッタに微笑みかけられ見つめられると恍惚とした表情になってきた。年老いたシスターも、乙女のように目を輝かせ始める。
今、彼女の魅了をかわせるものは者は誰もいまい。
「さあ、これからのことを話しあいましょう」
シャルロッタの言葉にシスターたちはみんな頷く。
「シャル! よしなさい! このロープをほどくんだ」
アンドレイの言葉に耳を貸さず、シャルロッタはシスターを年齢順に並べ始めた。
「年功序列がいいわね」
「ありがとうございます!」
一番年老いたシスターは感謝の言葉を述べ、涙を流し、シャルロッタの手の甲にキスをする。
「でもごめんなさい。明日からね。今日はロクサーナを埋葬してあげなければ。みんなの時にはもっと上手にやるわ」
縛られたままアンドレイは寝室に連れていかれた。年老いたシスターが彼を見張り、ほかのシスターはロクサーナの埋葬に向かった。彼女たちはロクサーナの死に顔を見ても、恐怖や不安を感じず、ただ羨望があった。
「これ、は……」
すっかりやせ細ったシスターが一人絶命している。目は見開き、口は叫んだように大きく開けられている。だたし口角は上がり喜びの悲鳴を上げたような表情だった。アンドレイは彼女の目を閉じさせ、大の字になっている両手両足を揃えた。首筋の二つの孔を認め、アンドレイはため息をつく。
「シャル……」
すやすやと眠っているシャルロッタは血色がよくつやつやした頬を見せる。一人の乙女の生き血をすっかり吸い尽くしたシャルロッタは満たされ、しばらく至福の眠りを得ているだろう。彼女が空腹を感じ起きだす前にアンドレイは手を打たなければならなかった。
静かに部屋の外に出て、シスターを見つけては静かに聖堂のほうへ向かうように告げる。もっとも年配のシスターが不安そうな表情でシスターたちの顔を見回す。そして一人いないことに気付いた。静かに待っているシスターたちにアンドレイは話始める。
「落ち着いて聞いてほしい。シャルロッタが私と同じモノになってしまった。そのことは承知だと思うが」
一呼吸おいて続ける。
「若いシスターがシャルロッタの犠牲になってしまった。次の犠牲が出る前にみんなはここを出てほしい」
アンドレイの言葉にシスターたちは騒めき始める。物静かな彼女たちは大きな声にこそ出さないが、両手を口に当て隣のシスター同士できょろきょろ顔を見合わせている。
「資金は十分にあるからここを出ても生活に困ることはない。遠くに行く必要はないが、もうこの修道院は封鎖したい。本当は父の代で閉めるべきだったのだ。神もここにはいないのに……」
この修道院は、吸血鬼のための花嫁、つまり血の提供のための場所であり神のための教会ではなかった。世間からの目くらましのために修道院という形態をとってはいるが、神を信仰する場所ではない。そのため神父もおらず、信徒が祈りに来ることもなかった。
アンドレイは大きなトランクを持ってきて開く。その中には十分な金と、地図、色々な地方の特色などが書かれているものがある。彼女たちがここを出ても困ることのないように用意されていた。
「さあ、この金と地図をもってここを出るんだ。この村から一番近い村で洋服を買ってその修道服を着替えるといい」
シスターたちはじっとアンドレイの話を聞き、トランクの中を見つめるが黙ったまま動かない。そんな中、一人のシスターが聖堂から出ていったことには気づかなかった。
年老いたシスターがすっと前に出る。
「アンドレイ様。わたくしどもはここを出たいと思ったことはありません。たとえシャルがあなた様と同族になられたといってもです」
「何を言っているんだ。すでに一人犠牲になっているのだ」
シスターは左右に顔を振る。
「それこそわたくしどもの願いです」
「一体何を言っているんだ」
シスターが目線をアンドレイの左方向に泳がせ、それについ反応した瞬間にアンドレイは両腕をがっしりと捕まえられた。
「なっ!?」
シャルロッタがとてつもなく強い力でアンドレイの右腕を抱え込む。左腕にはもう一人のシスターがしがみついていた。アンドレイは力の弱いシスターのほうが持つ左腕を払おうとした。
「早く抑えて!」
シャルロッタの声にシスターたちが一斉にアンドレイを取り押さえる。数名に抑えつけられるとさすがに身動きが取れなかった。
「シャルっ! みんなっ!」
にっこりとシャルロッタは笑んで年老いたシスターからロープを手に取る。アンドレイはたちまち縛り上げられることになる。
「アンドレイ。乱暴にしてごめんなさい。でも、みんなの願いをかなえてあげたいの」
「……」
シャルロッタは血色よく肌を輝かせている。可憐な乙女だった彼女がいつの間にかすっかり成熟した女王然としている。優雅で堂々として落ち着いた様子でシスターたちに微笑みかけている。
シスターたちはシャルロッタに微笑みかけられ見つめられると恍惚とした表情になってきた。年老いたシスターも、乙女のように目を輝かせ始める。
今、彼女の魅了をかわせるものは者は誰もいまい。
「さあ、これからのことを話しあいましょう」
シャルロッタの言葉にシスターたちはみんな頷く。
「シャル! よしなさい! このロープをほどくんだ」
アンドレイの言葉に耳を貸さず、シャルロッタはシスターを年齢順に並べ始めた。
「年功序列がいいわね」
「ありがとうございます!」
一番年老いたシスターは感謝の言葉を述べ、涙を流し、シャルロッタの手の甲にキスをする。
「でもごめんなさい。明日からね。今日はロクサーナを埋葬してあげなければ。みんなの時にはもっと上手にやるわ」
縛られたままアンドレイは寝室に連れていかれた。年老いたシスターが彼を見張り、ほかのシスターはロクサーナの埋葬に向かった。彼女たちはロクサーナの死に顔を見ても、恐怖や不安を感じず、ただ羨望があった。
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