スカーレットオーク

はぎわら歓

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第一部

28 年始

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 厨房では和夫がすでにスタンバイしていた。
 「おはようございます」
 「おはよう。緋紗ちゃんも早いね」
 「今日もよろしくお願いします」
  今日は早く起きたし、なんとなく手際が良かった。
そのうちに小夜子がやってきて、「おふあよおー」 と、あくび交じりでお茶を沸かし始め、準備がほとんどできたころで朝食をとりながらミーティングをした。

 「今日はねえ。女性客ばっかりね。三人グループが三組とペア一組。何かしら女子会ってやつ?」
  小夜子が面白そうに言った。
 「というわけで今日はピアノ直君ね」
  やれやれと言う顔をしながら直樹は、「昨日、調子良さそうだったじゃないですか」 と、軽く抵抗したが「今日、なんか、つわりがひどくてえ」と、切り返されてしまい、そういわれると直樹も従うしかなかった。

 「好きなもの弾いていいわよ」
 「適当にやっておきますよ」
  緋紗はまた直樹のピアニスト姿が見られると思い喜ぶ。
 和夫が、「ああ、年が明けてるじゃないか、そういえば」と、思いついたように言い、四人で顔を見合わせる。
みんなが休む時に働いているとイベント事に疎くなってしまうのだ。
 「あけましておめでとうございます」
  ――新しい年か。いい年になるといいな。
  緋紗はちらっと直樹を見ながら思った。

 「ひさちゃん、新年早々だけど、昨日話していた皿作ってもらえないかなあ」
 「いいですよ。何枚くらいあればいいでしょうか?」
 「そうだなあ。三十枚ってどれくらいで作れる?」
 「えーっと。ロクロで挽くのには二時間あればいけると思うんですが。仕上げもそれぐらいでしょうか」
 「ほー。そんなもんでできる?じゃあ頼むよ」
 「はい。じゃあ掃除とか終わらせて午前午後の暇を見てやっちゃいます。今日明日でできると思いますから」
 「いやー助かるよ。粘土は昨日の使ってね」
 「わかりました」
  緋紗はロクロを出かけた先でも回せるのが嬉しく、更にこのペンションが好きになった。

  客室から浴室、フロントまで掃除が終わったので緋紗はアトリエに行った。
 「じゃ緋紗、いい皿作ってやって」
  直樹は薪を割るらしい。

  粘土置き場からビニールに入った信楽粘土を引っ張り出し、ブツブツ計算しながらビニールを破った。
  粘土の塊をとりあえず十等分し量り、同じ重さの玉状にした塊を四十個用意する。――これで失敗しても三十残ると思う。
  一個一個菊練りをした後、ロクロ台に乗せ、二十枚挽いたとき和夫がやってきた。

 「おおー。上手いなあー」
 照れながら緋紗は「ありがとうございます」と、言いながら皿をひき続けた。
 「一応四十枚作っておきますね。たまに底が締まってなくて切れることがあるので」
 「そうか、そうか。そういうものなんだなあ」
  和夫は感心しながらロクロを見ている。
 「また機会があったら作ってくれないかなあ。色々さあ。また来年も直樹とくるだろ?」
  ――来年……。

  少し返答に詰まったが、「そうですね。また来れたら来たいと思います」と、答えた。――いつまで続くかちょっとわからないな……。
  なんとなく緋紗の不安を察したのか和夫は続ける。
 「あいつ、いつも仏頂面で素っ気ないけどいい奴だよ。緋紗ちゃんのこともすごく好きみたいだし、仲良くしてやってくれよな」
  褒めてるのかけなしてるのかよくわからない言い様だったが、きっと和夫は和夫なりに直樹を身内のように心配していたりするのだろう。
 緋紗はにっこりして頷いた。――すごく好き……か。

 「じゃ、キリが付いたらお昼にしようよ。直樹にも声かけてくれ」
  和夫の人柄の温かさに緋紗の気持ちも暖かくなる。
しかし言葉を考え過ぎないようにして緋紗は四十枚挽ききって片付け始めた。


  アトリエを出て直樹の薪割場に行くとカツーン、カーンと少し高めの一定の音が聞こえ、そっと近づいて様子を見てみる。
 直樹は小さめの片手斧を使い薪を割っている。
 暑いのだろうか。
ツナギの上を脱ぎ腰の位置で袖を縛り、薄いTシャツは直樹の身体に張り付き筋肉のラインをはっきり映しだしていた。――綺麗な身体……。

  思わず見とれてしまい息を飲む。
 程よい筋肉と厚みが誇張しすぎることなく男らしさを醸し出している。
いつの間にかあの身体に抱かれることを想像していた。

 割り終わったらしく直樹は手斧を置いて振り返った。
 「ん?ああ緋紗。終わったの?」
ハッとして、「ええ。あ、今、終わってお昼誘いに来たんです」と、どもって答える。
 「そうか。ありがとう」
 「汗かいてないですか?冷えますよ?」
 緋紗は心配する反面ドキドキしながら直樹の肩のあたりをみた。――なんか私イヤラシイ人みたい……。

 「暑いけど汗をかくほどじゃないよ。大丈夫」
 縛っていた袖の部分をほどき直樹はさっと羽織った。
 緋紗は少し残念な気持ちで目をそらす。
 直樹が緋紗の手を取って、「行こうか」と、歩き出す。――好きかも……。
  漠然とだが気持ちが膨れていくのを感じた。――来年か……。
  これからどうなるのか想像すらできなかった。
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