スカーレットオーク

はぎわら歓

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第一部

30 演奏

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 午後から緋紗はショップの整頓をした。
 賞味期限や値札を確認して在庫チェックをする。
ほこりを払い商品をきれいに並べながら一つ一つ、このあたりの産物を見ていると小さな箱に入った小瓶を見つけた。――エッセンシャルオイルかな。
  三種類ほどあり全部木の香りのようだ。――スギ・ヒノキ・マツか。

 「お試しがあるよ。嗅いでみたら?」
  直樹が後ろに立っていた。
 「あ、ほんと」
  緋紗はコットンにしみ込ませた香りをかいだ。
 「どれもいいですね。マツはなんとなく身近に感じますけど」
 「僕はスギかな。仕事場はスギに囲まれてることが多いから」
 「木って一括りに考えちゃいますけど全然違うんでしょうね」
 「うん。香りもそうだけど、色も固さも用途も全然違ったりするからね」
  緋紗は直樹のする話が楽しくて聞き入った。
 「同じ木なんてないんだよね。」
  直樹はやぱり木が好きなのだろう。
スギのオイルを嗅いでリラックスしているように見える。――直樹さんの職場の香りか。帰りに買って帰ろう。


  ディナータイムのため、直樹はタキシードに着替えるため部屋へ戻っている。
 客が席に着き食事を始めたころ、直樹のピアノ演奏が始まった。
 食堂は白熱灯で柔らかい明かりだがピアノの位置は青白い蛍光灯にしてあり、ピアニストを目立たせてはいない。
ただ耳の肥えた客は小夜子の演奏にくぎ付けになる。

 今夜の食堂は女性客でいつもりより賑わっている。
 「なかなか、かしましいな」
 「これだけ集まればね」
  ざわつきで直樹の演奏が厨房までよく聴こえない。

  直樹が『主よ、人の望みの喜びよ』を弾きはじめた。
 「あら緋紗ちゃんの言うことよく聞くじゃない」
  緋紗は照れながらにっこりした。
 「でもおしゃべりでよく聴こえないわね」
  緋紗もそう思ったがあくまでBGMであって演奏会ではないのでしょうがない。

 「聴いてないけど直君は結構注目されてるわね」
  和夫もどれどれという感じで覗いて、「そうか?いつもあんなだろ」と、言ったが小夜子は「前はそうでもなかったけど今回は結構うけてるわよー。別の意味で」と、笑って緋紗をみた。
 軽く覗き見すると確かにちらちら直樹を見ながら談笑している女性客が何人かいる。
 直樹がそういう関心を寄せられていることに不安になってしまった。
 緋紗の暗い表情を見て、「やあね。そんな片思いの女の子みたいな顔して。緋紗ちゃんのおかげで色気がでてきてるのよー」 と、小夜子は笑い飛ばしていった。
――片思い……。
  そうかもしれないと思う。自分もそうだがお互いの気持ちを確認はしていない。むしろ気持ちがあるのかどうかすら疑問だった。――会いたかったとは言ってくれたけど。
  ただ、今は直樹が他の女性から興味を持たれることが不安だった。
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