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第一部
38 パーティ
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食堂に着くと一番大きなテーブルに寿司やらピザやらから揚げやら、いつものペンションのメニューとは全然違う雰囲気のものが並べられていた。
和夫は光沢のあるスタンドカラーのシャツとレザーのパンツできめている。――ワイルドだなあー。
いかつい和夫によく似合っていて男臭さが魅力を増している。
「おう。きたか。ほー。緋紗ちゃん見違えたよ」
和夫が大げさに言う。
「でしょう。私の手にかかればこんなものよ」
グラスを持ってきた直樹が緋紗をみたが無言で席に着いた。――あ、タキシードだ。
緋紗が見惚れていると、「ちょっとお。なんか言うことないの?」小夜子が食って掛かる。
「ん。きれいですよ」
「ほらね」
満足そうに小夜子は言うが、緋紗としてはいまいちパッとしない気持ちだった。
和夫がグラスにワインをつぎ始めるが小夜子だけペリエだ。
「じゃあ乾杯しようか。お疲れ様でした。乾杯!」
「乾杯」
「緋紗ちゃんどんどん食べて飲んで。いつもバタバタ食べてたもんね」
「はい。ありがとうございます」
久しぶりに飲むワインはとても美味しかった。
「なんかここでお寿司って不思議ですね」
「本当はここ山奥でもないし海は近いから魚のほうが普通なんだけどな」
「そうそう実は新鮮な魚が食べられていいのよね。マグロもよく食べるわよ」
「へー。ここにいるとすごく山の奥深くにいる気がしますね」
「そうだろ。食べ物をそういうふうに演出してると特にそう思われるんだな、これが」
色々な演出がなされていることに改めて緋紗は感心する。
横の直樹を見るともう結構な量のワインを飲んでいて一本瓶が開いていた。
「それいいワインだから大事に飲んで」
「小夜子さんの分も飲んであげてます」
直樹は、ニヤッとして言い、「ほら。緋紗も飲みなよ」と、グラスにワインをついだ。
小夜子は、「さて折角だから何か弾こうかな」と、立ち上がってピアノに向かった。
美しい『ラ・カンパネルラ』が流れ始める。
聴き比べたことがないので緋紗には評論家のような評価はできないが、小夜子のテクニックもさることながら演奏スタイルが情熱的で力強く美しい。
弾く人が違うと、同じ曲でも全く印象が違うものなんだろうなあと緋紗は聴き入っていた。
和夫が目を細めて小夜子を見つめる。
「ほんとはこんな山小屋で弾くようなやつじゃないんだがなあ……」
「そうですね。でもとても幸せそうですよ」
直樹が続けて言った。――なんだか訳ありなのかなあ。
気にはなったが二人がしんみりしているので緋紗は黙って聞いていた。
直樹が、「それにしても化粧ってすごいですね。全然顔が変わる」と、話を変えた。――え。そんなに変わったかなあ。
緋紗は直樹を怪訝そうにみると、「いや。緋紗じゃないよ。昨日の同級生。誰かわからなかったよ。春に同窓会があるらしいんだけど誰が誰だか分からないかも」と、笑って言った。
「まあ化けるよなあ。でも小夜子はすっぴんでも美人だぞ。見せる商売だからいつもしっかり化粧してるけどな」
和夫がのろけながら言うので直樹は、「子供、小夜子さんに似るといいですね」と、ニヤリとして言った。
「おお~?うん。まあそうだな」
和夫は機嫌よく納得していた。
直樹の同窓会の話が気になったが、緋紗は和夫が小夜子を心から愛していることを感じて、自分も幸せな気持ちになる。――家庭か。
きっと生まれてくる子供は和夫と小夜子をより幸福にするだろう。
まだ見ぬ赤ん坊と和夫と小夜子が幸せそうに寄り添っているのを想像した。
自分自身にはあまり結婚も家庭も現実感がなくピンと来ないがそういう時が訪れるなら、この二人のようだといいなあと緋紗は思った。
『ハバネラ』が流れ始める。――情熱的だなあ。
まるで直樹と一緒に観劇しているように緋紗がうっとりしていると、「胎教に悪くないのか?これ」と、和夫が心配そうに言った。
「さあ。もう親ばかですか?」
何曲か弾いて小夜子が戻ってきた。
「素敵でした」
「ありがとう」
心からの賛美に小夜子は満足そうに笑顔で答えた。
しばらくみんなで楽しんで飲んでいたが小夜子が、「もう寝るわー」と、言い始め和夫も、「そろそろ片付けるか」と、立ち上がった。
「俺がやっておきますよ。少しなので」
「そうか。頼むかな。適当でいいよ」
眠そうな小夜子を見ながら片手を立ててお願いする仕草をした。
「ありがとうございました。おやすみなさい」
「別にまだまだゆっくり飲んでてくれてもいいからな」
「楽しかったわね。おやすみ」
和夫は小夜子の肩を抱き寝室へ向かった。
和夫は光沢のあるスタンドカラーのシャツとレザーのパンツできめている。――ワイルドだなあー。
いかつい和夫によく似合っていて男臭さが魅力を増している。
「おう。きたか。ほー。緋紗ちゃん見違えたよ」
和夫が大げさに言う。
「でしょう。私の手にかかればこんなものよ」
グラスを持ってきた直樹が緋紗をみたが無言で席に着いた。――あ、タキシードだ。
緋紗が見惚れていると、「ちょっとお。なんか言うことないの?」小夜子が食って掛かる。
「ん。きれいですよ」
「ほらね」
満足そうに小夜子は言うが、緋紗としてはいまいちパッとしない気持ちだった。
和夫がグラスにワインをつぎ始めるが小夜子だけペリエだ。
「じゃあ乾杯しようか。お疲れ様でした。乾杯!」
「乾杯」
「緋紗ちゃんどんどん食べて飲んで。いつもバタバタ食べてたもんね」
「はい。ありがとうございます」
久しぶりに飲むワインはとても美味しかった。
「なんかここでお寿司って不思議ですね」
「本当はここ山奥でもないし海は近いから魚のほうが普通なんだけどな」
「そうそう実は新鮮な魚が食べられていいのよね。マグロもよく食べるわよ」
「へー。ここにいるとすごく山の奥深くにいる気がしますね」
「そうだろ。食べ物をそういうふうに演出してると特にそう思われるんだな、これが」
色々な演出がなされていることに改めて緋紗は感心する。
横の直樹を見るともう結構な量のワインを飲んでいて一本瓶が開いていた。
「それいいワインだから大事に飲んで」
「小夜子さんの分も飲んであげてます」
直樹は、ニヤッとして言い、「ほら。緋紗も飲みなよ」と、グラスにワインをついだ。
小夜子は、「さて折角だから何か弾こうかな」と、立ち上がってピアノに向かった。
美しい『ラ・カンパネルラ』が流れ始める。
聴き比べたことがないので緋紗には評論家のような評価はできないが、小夜子のテクニックもさることながら演奏スタイルが情熱的で力強く美しい。
弾く人が違うと、同じ曲でも全く印象が違うものなんだろうなあと緋紗は聴き入っていた。
和夫が目を細めて小夜子を見つめる。
「ほんとはこんな山小屋で弾くようなやつじゃないんだがなあ……」
「そうですね。でもとても幸せそうですよ」
直樹が続けて言った。――なんだか訳ありなのかなあ。
気にはなったが二人がしんみりしているので緋紗は黙って聞いていた。
直樹が、「それにしても化粧ってすごいですね。全然顔が変わる」と、話を変えた。――え。そんなに変わったかなあ。
緋紗は直樹を怪訝そうにみると、「いや。緋紗じゃないよ。昨日の同級生。誰かわからなかったよ。春に同窓会があるらしいんだけど誰が誰だか分からないかも」と、笑って言った。
「まあ化けるよなあ。でも小夜子はすっぴんでも美人だぞ。見せる商売だからいつもしっかり化粧してるけどな」
和夫がのろけながら言うので直樹は、「子供、小夜子さんに似るといいですね」と、ニヤリとして言った。
「おお~?うん。まあそうだな」
和夫は機嫌よく納得していた。
直樹の同窓会の話が気になったが、緋紗は和夫が小夜子を心から愛していることを感じて、自分も幸せな気持ちになる。――家庭か。
きっと生まれてくる子供は和夫と小夜子をより幸福にするだろう。
まだ見ぬ赤ん坊と和夫と小夜子が幸せそうに寄り添っているのを想像した。
自分自身にはあまり結婚も家庭も現実感がなくピンと来ないがそういう時が訪れるなら、この二人のようだといいなあと緋紗は思った。
『ハバネラ』が流れ始める。――情熱的だなあ。
まるで直樹と一緒に観劇しているように緋紗がうっとりしていると、「胎教に悪くないのか?これ」と、和夫が心配そうに言った。
「さあ。もう親ばかですか?」
何曲か弾いて小夜子が戻ってきた。
「素敵でした」
「ありがとう」
心からの賛美に小夜子は満足そうに笑顔で答えた。
しばらくみんなで楽しんで飲んでいたが小夜子が、「もう寝るわー」と、言い始め和夫も、「そろそろ片付けるか」と、立ち上がった。
「俺がやっておきますよ。少しなので」
「そうか。頼むかな。適当でいいよ」
眠そうな小夜子を見ながら片手を立ててお願いする仕草をした。
「ありがとうございました。おやすみなさい」
「別にまだまだゆっくり飲んでてくれてもいいからな」
「楽しかったわね。おやすみ」
和夫は小夜子の肩を抱き寝室へ向かった。
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