スカーレットオーク

はぎわら歓

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第一部

49 打ち上げ

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「よーし。軽く片付けよう」
  松尾が最終確認をしすべての焚口を泥で栓をする。
 「直樹さん、お疲れ様です。今から打ち上げですよ。これます?」
 「いいのかなあ」
 「もちろんいいと思います。疲れてなければ」
 「じゃお邪魔するよ」

  松尾の妻の美紀子がやってきた。
 「ご苦労様です。こちらへどうぞ」
  工房で打ち上げが始まった。
 緋紗は直樹を誘導し、「ここにでもどうぞ。私は奥さんの手伝いをしてきます」と、美紀子のほうへ向かった。
 「あら。緋紗ちゃん。座ってていいのよ?」
 「いいです。運びます」
 「彼氏放っておいていいのかな」
  美紀子が笑って言う。
 緋紗はどもりながら、「大人の人だしいいと思います」と料理を素早く運んだ。
 打ち上げの席で直樹は松尾と鈴木と木材の相場について談義がなされ盛り上がっているようだ。
 緋紗も運び終わって席に着いた。
 美紀子も席に着き、「お父さん、全部用意できたわよ」と、グラスにビールをつぎ始めた。

 「よし。じゃあ乾杯するか。お疲れさん。乾杯」
 「乾杯」
 「乾杯」
  グラスを鳴らしてビールを飲んだ。
  直樹は松尾と鈴木に挟まれるようにして座っている。
もう打ち解けているらしく話が弾んでいるようだ。――大人だな。もう仲良く話してる。
  そこへ美紀子も参加してより賑やかになっていった。
 緋紗は谷口の隣に座った。

  緋紗と谷口は倉田百合子と同じく陶芸センターの同期で、谷口が先に松尾に師事したので兄弟子にもあたる。
 二人とも少し人見知りなところや好みが似ていて緋紗にとっては男の知り合いの中では親友のような存在だった。
 谷口も自分と緋紗が似た気質で遠慮なく本音を話せる知己だと思っている。
 「宮下さん、大友さんとは結婚するん?」
  谷口が小声で聞いてきた。
 「ううん。そんなんじゃないよ。まだ知り合って間もないし。こっちは好きじゃけど」
 「ふーん。なかなかお似合いじゃけどな」
 「そう?谷口君はどうなん。生活」
  谷口は三年前スピード結婚をし、もう二児の父親だ。
 「毎日大変じゃけどなんとかって感じ」
  まだ若くやっと松尾から独立しこれからという時の結婚だったので緋紗には衝撃だった。
 谷口の仕事は主に作家や窯元から焼く前の商品の注文を受け作ることだ。
 湯呑などの小さなものは単価が低いが壷など大物になってくると単価も高くなってくる、備前にだけある『賃引き』と言われる職人的な仕事だった。

 「自分の作品作る暇ある?」
 「今はないなあ。なんか子供見とるとそういう前にあった欲求みたいなのが減ってくるんよ」
 「そんなもんかね」
  陶芸センターに入った当時は二人とも二十歳前で色々やりたいことや野望があったように思う。
 「宮下さんも結婚して子供できたら変わるよ。しかも変わるんが嫌じゃないんよね」
 「そうなん」
 「大友さんって、なんか大人っぽおってええやん。ほかに宮下さんでええと思う人おらまあ」
 「ちょっとー。失礼なんなあ。でも大友さん私と同じネトゲにおるんよ」
 「すごいやん。せっかくじゃし捕まえとかれ」
  二人で笑った。
 谷口との気楽なおしゃべりは楽しかった。

 一時半を過ぎた頃、美紀子が、「私はそろそろ失礼しますね」と、言い席を立つ。
 直樹が、「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」と立って礼をした。
 「あら。よかった。こちらこそ頂き物をすみません。また是非おいで下さいね。みんなはまだまだ飲んでってね」
 「ごちそうさまでした」
 「お疲れ様です」
 「おやすみなさい」
  みんな立って挨拶をすると美紀子は笑って、
 「おやすみなさい」
  と言い自宅へ戻って行った。
 面倒見が良く、優しい美紀子がいるから厳しい松尾の指導に耐えられることも多々あり、みんな美紀子を敬愛している。

  二時半を回るころ松尾があくびをしながら、「わいもそろそろ寝るわ。後は好きにして。緋紗は三日休みな。水曜日からけー」と、言った。
 「わかりました」
  またみんな立ち上がって挨拶をした。
 「じゃ。大友君もまたよかったら来られ」
 「ありがとうございました」
  直樹も立ち上がって礼をした。

  兄弟子の鈴木が、「まだ飲む?俺は嫁が起きたら迎えに来てもらうつもりだから六時まで飲む」と、言い放ち谷口も、「僕も同じようなもんなので付き合います」と、同調する。
 緋紗は朝から窯を焚いているのでそろそろ帰りたかったが直樹がどうするのかが気になりちらっと見た。直樹が、「僕もそろそろお暇します。ありがとうございました。楽しかったです」と、言うので緋紗も、「私も失礼します」と、便乗した。
 「宮下さんは朝からじゃもんな。お疲れ」
 「またな。おつかれ」
  二人に手を振り直樹と帰ることにした。
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