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第一部
65 兄
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日曜日の夕方。
実家に兄一家がやってくる。
夏からなんとなく交流を避けていたのだが、とうとう颯介につかまってしまった。
「おい。最近付き合い悪いな」
「もともとそんなによくないだろ。今から漫喫いくんだよ」
「まあ待て。今日なんか行っても混んでて不愉快だぞ」
「いや。個室だし関係ないって」
かわそうとしたが今日の颯介はしつこいうえに強引だ。
「ちょっと座れ」
「なに?」
「お前、なんかあったろ。母さんがおかしいって心配してたぞ」
――兄貴に言うなよなあ。
母の慶子は颯介に直樹の様子を伺わせる気らしい。
母親であっても控えめな性格のせいで追及できないからだ。
こうなると誤魔化すのが難しい。
何しろ颯介は勘が鋭いうえに追跡型だからだ。
彼女との別れをあまりザックリ言いすぎると余計細かく聞かれるだろうと思い、多少は別れた理由を話すことにした。
「つまり、あれだな。ミスった賢者の贈り物ってやつか」
上手いことを言われて直樹は苦笑した。
「もう一回プロポーズしろよ。仕事変えませんって言ってさあ」
「そういうわけにもね。もういいんだ」
心の中では『いいわけない』という言葉が小さく胸を突いたが無視した。
「いいわけないだろ」
颯介の声で心の中の小さな声が大きく再生されてしまう。
「お前が諦めやすいのは俺のせいでもあるんだがな。色々俺がやってきたこと見てなんとなくもういいやって気になってるのは知ってるんだ」
確かに颯介が色々な経験をしてそれを読書するように直樹は見てきた。
颯介の結婚や育児なども遠巻きから見て頭でこんなものなんだなと、バーチャルな経験をするように感じてきていたのは確かだ。
「でもな。もうその娘とは色々一緒に経験しなくていいのか?ほんとに」
そういわれると直樹は辛かった。
「変えないでできること何かないのか?うちだって親父の稼ぎは結構あったから何の不自由もしなかったけど、あれだけ遊ばれちゃあな。お袋も辛い思いいっぱいしただろ。そのこいい娘じゃないか。ほんとなら収入増える仕事してくれてラッキーって女は思うからな。色々ねだってくるもんだしなあ」
「そうだな。そういう女じゃないと分かっていたのにな」
緋紗が直樹にねだったのは『ダイテホシイ』ということだけだった。
「でも良かったよ。もし仕事元に戻してまたストレスためてネットゲームなんかにはまりだしたらそれこそ大変だぞ」
「さすがにもうハマリはしないよ」
そうは言っても颯介の言うことは遠からず当たっているだろう。
「兄さん、ありがとう。ちょっと考えてみるよ」
颯介は誇らしげな顔で、
「おう。俺も兄貴らしいことしたいしな。いつでも相談に乗ってやるからな。女のことなら任せておけ」
と、胸を張って出て行った。――最後のは余分だけど。
このまま離れているのは確かに辛かった。
毎日がくすんでいる感じがする。
だが颯介のおかげでもう一度緋紗を得たいと思う意欲が湧いた。――自分にこんなに欲があるなんてな。
また新しい一面を自分の中に直樹は発見した。
実家に兄一家がやってくる。
夏からなんとなく交流を避けていたのだが、とうとう颯介につかまってしまった。
「おい。最近付き合い悪いな」
「もともとそんなによくないだろ。今から漫喫いくんだよ」
「まあ待て。今日なんか行っても混んでて不愉快だぞ」
「いや。個室だし関係ないって」
かわそうとしたが今日の颯介はしつこいうえに強引だ。
「ちょっと座れ」
「なに?」
「お前、なんかあったろ。母さんがおかしいって心配してたぞ」
――兄貴に言うなよなあ。
母の慶子は颯介に直樹の様子を伺わせる気らしい。
母親であっても控えめな性格のせいで追及できないからだ。
こうなると誤魔化すのが難しい。
何しろ颯介は勘が鋭いうえに追跡型だからだ。
彼女との別れをあまりザックリ言いすぎると余計細かく聞かれるだろうと思い、多少は別れた理由を話すことにした。
「つまり、あれだな。ミスった賢者の贈り物ってやつか」
上手いことを言われて直樹は苦笑した。
「もう一回プロポーズしろよ。仕事変えませんって言ってさあ」
「そういうわけにもね。もういいんだ」
心の中では『いいわけない』という言葉が小さく胸を突いたが無視した。
「いいわけないだろ」
颯介の声で心の中の小さな声が大きく再生されてしまう。
「お前が諦めやすいのは俺のせいでもあるんだがな。色々俺がやってきたこと見てなんとなくもういいやって気になってるのは知ってるんだ」
確かに颯介が色々な経験をしてそれを読書するように直樹は見てきた。
颯介の結婚や育児なども遠巻きから見て頭でこんなものなんだなと、バーチャルな経験をするように感じてきていたのは確かだ。
「でもな。もうその娘とは色々一緒に経験しなくていいのか?ほんとに」
そういわれると直樹は辛かった。
「変えないでできること何かないのか?うちだって親父の稼ぎは結構あったから何の不自由もしなかったけど、あれだけ遊ばれちゃあな。お袋も辛い思いいっぱいしただろ。そのこいい娘じゃないか。ほんとなら収入増える仕事してくれてラッキーって女は思うからな。色々ねだってくるもんだしなあ」
「そうだな。そういう女じゃないと分かっていたのにな」
緋紗が直樹にねだったのは『ダイテホシイ』ということだけだった。
「でも良かったよ。もし仕事元に戻してまたストレスためてネットゲームなんかにはまりだしたらそれこそ大変だぞ」
「さすがにもうハマリはしないよ」
そうは言っても颯介の言うことは遠からず当たっているだろう。
「兄さん、ありがとう。ちょっと考えてみるよ」
颯介は誇らしげな顔で、
「おう。俺も兄貴らしいことしたいしな。いつでも相談に乗ってやるからな。女のことなら任せておけ」
と、胸を張って出て行った。――最後のは余分だけど。
このまま離れているのは確かに辛かった。
毎日がくすんでいる感じがする。
だが颯介のおかげでもう一度緋紗を得たいと思う意欲が湧いた。――自分にこんなに欲があるなんてな。
また新しい一面を自分の中に直樹は発見した。
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