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第三部
15 抱擁
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今日は優樹の誕生日だ。
プレゼントは優樹の希望でゲームソフトになった。
直樹も緋紗もゲームをして育ってきているのでしょうがないという気持ちで買ってやっている。
「これ欲しかったんだー」
「ほどほどにね」
「お父さんとお母さんもゲームやってるじゃんよ」
「ちょっとだけよ」
直樹と緋紗は共通のネットゲームをやっていた。
もう下火でゲーム自体は過疎気味だったが配信は停止されておらず、およそ二十年の歴史を持つネットゲームとしてマニアからの支持もある。
「そういえば。月姫と乙女が結婚したよ。リアルで」
「え?男の人じゃなかったんですか?」
緋紗はびっくりして直樹を見た。
月姫と乙女はネットゲームの中で直樹と一緒に遊んでいた二人でネット上では女キャラを操作しているが中身は男だと聞いていた。
「なんか。乙女は女の子だったみたいね」
「へー。そんな出会い方もあるんですねえ」
感心している緋紗に優樹が聞いた。
「お母さんはお父さんのどこが好きなの?」
「え。いきなりね」
「お父さんはお母さんが一生懸命で可愛いって言ってたよ」
優樹は明るく言う。
直樹は平然としている。
緋紗は赤面して少し考えてから「そうね。正直でロマンチストなところが好きかな。他にもいっぱいあるけど」と答えた。
(ロマンチスト……?)
昔、和夫の今は亡き妻、小夜子にも言われた気がする。
直樹はぼんやりと昔のことを回想した。
「へー。そうなんだ。あのさ。今度、彼女呼んでいい?」
「ああ。いいわよ。どんな子?」
「うーんと。おっちょこちょいでドジだけど可愛いよ」
「そうなのね」
直樹はいつの間にか優樹の彼女に対する評価が変わっていることに微笑した。(仲良くやってそうだな。寝室にも来ないし)
気が付くと優樹は緋紗の身長を超えはじめている。
まだまだ少年らしいあどけなさが残っているが、もう数年で青年になるのだろうかと思うと直樹は不思議な気持ちになるのだった。
「じゃ、ごちそうさま。俺さっそくゲームするから」
「はいはい。たまには休憩してね。目が悪くなるよ」
「お母さんみたいに?」
「こら」
「あはは」
優樹は自分の部屋に行った。
「散歩しようか」
直樹は片付けてる緋紗の手をとった。
「ん」
二人は家の外に出て、裏に植えているスカーレットオークの木の下のベンチに腰掛けた。
スカーレットオークの葉はまだ濃い緑で爽やかな木陰を作っている。
「緑の葉っぱも綺麗」
「うん。綺麗だ」
直樹と緋紗は肩を寄せ合って木を眺める。
「そうだ。浅井さん覚えてる?この前来た」
「ええ。林業女子の」
「うん。沢田君と付き合いだしたよ」
「へー。いつの間に。なんか意外な組み合わせ」
「結婚すると思うよ。なんせ兄貴のお墨付きだし」
「ああ。お義兄さんのお墨付きなら。よかったですね」
(まさか。自分がこんなお節介を焼く羽目になるなんてなあ)
「なんか毎日が不思議な気持ちになるよ。言葉では言い表せないけど」
「私も同じ。色んな気持ちが湧きあがって。でもね。最後には同じ気持ちになる気がするの」
口づけをして抱き合う。
「ずっと好き」
「俺もだ」
二人の頬を優しい風が撫でた。
直樹の肩に落ちてきた緑の葉っぱを緋紗は手に取り、軸をもってクルクル回した。
葉を眺めながら、二人は秋の紅葉を想像する。
直樹は自分だけのことを考えていたころから比べて、緋紗をはじめ他の誰かの幸せを願う自分に多少なりとも成長を感じていた。(俺も少し大人になったのかな)
まだまだ和夫にも颯介にもかなわない気がするが今はこれで十分だ。
スカーレットオークの木陰で緋紗にキスをする。
そして抱きしめる。
恍惚とした緋紗の表情を見るたびに直樹はクリムトの絵を思い出す。(描かれた男の見えない表情は俺と同じ表情なのだろう)
このスカーレットオークの木々が自分たちの生命の樹でありますようにと願いを込めて。
プレゼントは優樹の希望でゲームソフトになった。
直樹も緋紗もゲームをして育ってきているのでしょうがないという気持ちで買ってやっている。
「これ欲しかったんだー」
「ほどほどにね」
「お父さんとお母さんもゲームやってるじゃんよ」
「ちょっとだけよ」
直樹と緋紗は共通のネットゲームをやっていた。
もう下火でゲーム自体は過疎気味だったが配信は停止されておらず、およそ二十年の歴史を持つネットゲームとしてマニアからの支持もある。
「そういえば。月姫と乙女が結婚したよ。リアルで」
「え?男の人じゃなかったんですか?」
緋紗はびっくりして直樹を見た。
月姫と乙女はネットゲームの中で直樹と一緒に遊んでいた二人でネット上では女キャラを操作しているが中身は男だと聞いていた。
「なんか。乙女は女の子だったみたいね」
「へー。そんな出会い方もあるんですねえ」
感心している緋紗に優樹が聞いた。
「お母さんはお父さんのどこが好きなの?」
「え。いきなりね」
「お父さんはお母さんが一生懸命で可愛いって言ってたよ」
優樹は明るく言う。
直樹は平然としている。
緋紗は赤面して少し考えてから「そうね。正直でロマンチストなところが好きかな。他にもいっぱいあるけど」と答えた。
(ロマンチスト……?)
昔、和夫の今は亡き妻、小夜子にも言われた気がする。
直樹はぼんやりと昔のことを回想した。
「へー。そうなんだ。あのさ。今度、彼女呼んでいい?」
「ああ。いいわよ。どんな子?」
「うーんと。おっちょこちょいでドジだけど可愛いよ」
「そうなのね」
直樹はいつの間にか優樹の彼女に対する評価が変わっていることに微笑した。(仲良くやってそうだな。寝室にも来ないし)
気が付くと優樹は緋紗の身長を超えはじめている。
まだまだ少年らしいあどけなさが残っているが、もう数年で青年になるのだろうかと思うと直樹は不思議な気持ちになるのだった。
「じゃ、ごちそうさま。俺さっそくゲームするから」
「はいはい。たまには休憩してね。目が悪くなるよ」
「お母さんみたいに?」
「こら」
「あはは」
優樹は自分の部屋に行った。
「散歩しようか」
直樹は片付けてる緋紗の手をとった。
「ん」
二人は家の外に出て、裏に植えているスカーレットオークの木の下のベンチに腰掛けた。
スカーレットオークの葉はまだ濃い緑で爽やかな木陰を作っている。
「緑の葉っぱも綺麗」
「うん。綺麗だ」
直樹と緋紗は肩を寄せ合って木を眺める。
「そうだ。浅井さん覚えてる?この前来た」
「ええ。林業女子の」
「うん。沢田君と付き合いだしたよ」
「へー。いつの間に。なんか意外な組み合わせ」
「結婚すると思うよ。なんせ兄貴のお墨付きだし」
「ああ。お義兄さんのお墨付きなら。よかったですね」
(まさか。自分がこんなお節介を焼く羽目になるなんてなあ)
「なんか毎日が不思議な気持ちになるよ。言葉では言い表せないけど」
「私も同じ。色んな気持ちが湧きあがって。でもね。最後には同じ気持ちになる気がするの」
口づけをして抱き合う。
「ずっと好き」
「俺もだ」
二人の頬を優しい風が撫でた。
直樹の肩に落ちてきた緑の葉っぱを緋紗は手に取り、軸をもってクルクル回した。
葉を眺めながら、二人は秋の紅葉を想像する。
直樹は自分だけのことを考えていたころから比べて、緋紗をはじめ他の誰かの幸せを願う自分に多少なりとも成長を感じていた。(俺も少し大人になったのかな)
まだまだ和夫にも颯介にもかなわない気がするが今はこれで十分だ。
スカーレットオークの木陰で緋紗にキスをする。
そして抱きしめる。
恍惚とした緋紗の表情を見るたびに直樹はクリムトの絵を思い出す。(描かれた男の見えない表情は俺と同じ表情なのだろう)
このスカーレットオークの木々が自分たちの生命の樹でありますようにと願いを込めて。
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