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第0章

夢の中1

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「ご苦労だった宮迫」
「坂上さん」


基地から少し離れたところまで歩くと、坂上さんが車に寄りかかって待っていた。手招きしている坂上さんを見て、なんでここにいるんだ!?と思いながら俺は足早に坂上さんの方へ行く。
黙って車の扉を開いた坂上さんが、乗れとでも言うように顎で車を指した。なんか喋れよと心の中で悪態を吐きつつ、坂上さんが言いたいことを察した俺は能力者たちに「はーい、みんなこの車に乗ってね」と言い、ナカモト以外の能力者が乗せる。俺はナカモト以外の皆が乗ったことを確認してから再び坂上に顔を向けた。

「坂上さん!来てるなら任務も手伝ってくださいよ!」
「知らん、私は能力者の回収しか命令されてない」
「機転の利かないポンコツ上司め!」

坂上さんが素知らぬ顔でタバコを吸い始める。お?無視か?
坂上さんの態度にムカついた俺は、坂上さんの口からタバコを抜き取り地面に投げ捨てる。もちろん火を消すのも忘れてない、しっかり靴裏でタバコを踏み潰した。
坂上さんが何すんだコイツと視線をよこしたので、フンッと鼻息を鳴らしそっぽを向いた。

「夏兄、この人は夏兄の何なのですか」

先ほどから黙っていたナカモトが、掴んでいた俺の腕に力を入れる。
痛い!痛い!痛い!腕がギシギシ言い始めてるから!

「お、俺の上司の坂上さんだ!」
「そう、よろしくねナカモトくん」
「ふーん」

坂上さんがナカモトに手を差し出し握手を求めるが、ナカモトは一向に手を出さず俺の腕を一層強く握りしめた。俺の腕完全に血が通ってないのだが。
いや、まって?何で坂上さんはナカモトの名前知ってんの。もしかして救出する能力者のプロフィールがあったりすんの?

「坂上さん、今回の任務で俺に渡し忘れた資料とかありますよね」
「えー、あーこれ?」

バツが悪そうに一つの資料を俺へ掲げる。俺はその資料を坂上さんから奪い取って内容を見ると、確かに挨拶をしてくれた能力者の名前がバッチリ載っていた。一部はしっかり能力も記載されている。

「…」
「あってもなくても能力者は皆救出する予定だったからいいじゃん」
「坂上さん、よく今までクビになりませんでしたね」
「私は事務作業より現場出る方が得意だから」
「はぁ……」

坂上さんに呆れた視線を送りながら、資料を見ていく。
カナタは人間以外の動物と会話ができる能力、サカガミは人の発言から嘘かどうかわかる能力、アイカワは軽いモノなら浮かすことができる能力…と。ミナミダとナカモトの能力については載っていないみたいだ。

「ね、そんなに知る必要がないでしょ」
「……それでも許しませんよ」

坂上さんが軽くごめんごめんと謝っているのを無視し、ナカモトと共に車に乗り込む。
車のシートに座ると先ほどまでの疲れがドッと出る。
今回の任務はスムーズに行けたが、それでも疲れるものは疲れるな。
てかなんか急に眠くなってきた。

「夏兄、眠るのですか?」
「んー」

本当は能力者の前で寝てはいけないのだが、今は坂上さんがいる。
万が一何かがあっても大丈夫だろうと勝手ながらに判断する。

「坂上さん、すみません、少し寝ます」

車の運転席に座った坂上さんに声をかける。了解と坂上さんの返事を聞いた後、ナカモトが差し出してきた肩を借りてゆっくりと目を閉じた。






***





雲ひとつない真っ青な空と眩しい日差し。
何故だか俺は呆然と空を眺めている。
遠くから蝉の声が聞こえる、暑く感じないのに額からは汗が流れた。

「夏兄、何してるの?早くこっちにきてよ!」

遠くから弟の春希の声がして、そちらへ振り向く。
春希がブランコに乗り、楽しそうな顔でこちらに手を振っている。
あぁ、そうだった。
今日は天気が良かったから春希と公園で遊んでいたんだ。

「ごめんごめん!」

急いで春希の方へ行き、春希の背中を押しブランコを動かす。徐々に高くなるブランコに、キャハハッと小さい子供特有の甲高い笑い声をあげて春希は喜んだ。幸せそうな春希を見てると、こんな日々が永遠と続けばいいのになんて考えてしまう。

「夏兄!かくれんぼしよ!」

ブランコに飽きた春希が唐突にかくれんぼを提案する。
かくれんぼなんて2人でする遊びじゃないだろと思いつつ、その提案に乗った俺は「じゃあ俺が鬼な」と言い、近くの木を前に目を瞑った。
声をあげて数を数える。かくれんぼなんていつぶりだろうか。10年?いや、もっと前な気もする。
30秒数え終えて「もういいかい?」と声をかける。遠くの方から「もうい~よ!」と春希の元気の良い返事が響き渡った。
さて春希を探そうかと目を開ける。声の方からして公園の森林に隠れたようだ。「どこだろう」なんてとぼけながら森林へ足を踏み入れる。

森林はかなり広くて、先ほどまでの明るさを感じさせないぐらい薄暗かった。これは探すのに苦労しそうだ。

「おーい春希?」

かくれんぼなんだから返事なんてこないと分かっていながらも春希を呼ぶ。歩くたびに足元でぐちゃぐちゃと湿った土が音を立てた。

「夏兄」

突然、後ろから呼びかけられる。
咄嗟に振り返ろうとしたが、その前に後ろからTシャツを引っ張られ、俺はそのままよろけて地面に尻餅をした。ぐちゃと不愉快な音共に履いていたボトムスが湿っていくのを感じた。

「春希、おまえ何すんだよ!」

ボトムスが泥だらけになったこととケツの痛みで、転ばしたであろう当人の春希に怒りをぶつける。


……
………

返答がない。

「春希が一丁前に俺を無視してんのか~?」
「夏兄」

再び名前を呼ばれたことにより俺はあることに気づき目を見開く。
夏兄と呼ぶ人物は春希ただ1人だという先入観から気付かなかったが、はっきりと聞き取れる音で発せられた声は明らかに春希のものではなかった。
じゃあ後ろに立っている人物は一体誰だというのだ。

「夏兄」

声が先ほどより近くで聞こえた。
後ろの人物が徐々に近づいてきていることを感じ取り鼓動が速くなる。
振り向いて後ろの人物の顔を確認しなければと分かってはいるが、体が言うことを聞かない。

「夏兄」

肩を掴まれじんわりと相手の体温を感じる。知らない人間の体温なんて気持ちが悪いとしか思えない。俺は振り払おうと肩を動かしたが、相手の掴む力の方が強く離されることは叶わなかった。

「夏兄」

掴んでいた手は肩から徐々に下の方へ降りていく。
肩から腕へ、腕から胸へ、そして胸から腹へ。
ゆっくりと弄られながら下がっていく手に俺は逃げることもできずされるがままだ。

「夏兄………
捕ま~えた♡」

離さないとばかりにぎゅっと抱きしめられながら、耳元で囁かれる。
その声と共に俺の視界は暗転した。



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