上 下
1 / 2

0

しおりを挟む
ここに来るのには少し勇気が必要だった。
僕は彼女を待たせすぎてしまった。遅いと言って怒られるだろうか。いや怒ってくれたのなら幸せなものだ。
僕が弱いから。
僕が臆病だから。
きっと彼女は待ちくたびれているだろう。
長い坂道の横にある石段を登り終えた僕は、彼女の待つ場所へと向かう。

目先には似た石が広がっている。目的のものを見つけるのに少し時間がかかった
この場所には僕以外誰もいない。だから僕は、彼女に存分に話しかけることにしよう。
彼女の事だからどうせ笑いながら僕のことを見ているに違いない。

手を合わせ、目を瞑る。
最初に思うことは君への謝罪。
許してもらえるなんて思ってはいない。これは単に僕の我儘というやつだ。
だが君にも文句を言わせてほしい。いきなり僕の前に現れて僕の人生をめちゃくちゃにしたのは君だ。それは君も承知の事だろう。だが君と過ごした時間の一つ一つが君と僕を結びつけるくさびのような物になった。
もう肌に感じることができない君の感触は時に喪失感を覚えさせ僕を迷わせる。
今の僕はまだ臆病だから、まだ君の思いにこたえることはできない。
でもいずれ君の思いに必ずこたえられるくらい強くなる。
だから少しの間待っていてほしい。

満開の桜がこれでもかとばかりに辺り一面春風に乗って踊っている。

「じゃあ、またね」

最後の思いを彼女に告げ僕はその場を後にした。
しおりを挟む

処理中です...