ホーリーノヴァ

虎キリン

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ホーリー大穴 一層

ジャイアントベア

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 カークに加速を覚えさせるのをみんな賛成してくれて手伝ってくれることになった。

 それに今回は、ユの村のトビが、ヒロに言われて、おれたちを見るために、ラビットキングの探索を手伝ってくれる。トビは、遠目が利く。一角ウサギを追って、大量のホーンラビットを呼び込んでいたら、前みたいに大勢でホーンラビットたちと対峙しなくてはいけなくなる。カークがミの村近くにあるカウリーの水場まで逃げるための伏兵、サポート人員を割けなくなる。
 カークは、大人たちのサポートで森に入り、ラビットキングに飛び蹴りして、怒らせて逃げるという、肝試しみたいなことをすることになった。そのことを本人に聞くと、
「ラビットキング、ダケ、ナライインダ。イッパイ、オッテ、クルンジャナイカ」
と、ため息をついていた。

 その通りなので、慰めようがない。要は、カークが囮になってラビットキングとその取り巻きを草原までおびき寄せる。その逃走経路に、おれたちが伏兵になってホーンラビットたちを待ち伏せして狩りをする。こういう作戦だという言い方もできる。

 みんなはまた、ホーンラビットをいっぱい狩れると、ノリノリなのだ。良い方に考えると、カークは、加速のスキルを憶えられ、みんなは、ホーンラビットを狩れる。一石二鳥なので、そう考えようというしかなかった。

 カークの作戦は、良くできている。でも、カイのあんちゃんは、別のことをおれに、警告してきた。

「カークのことはいいんだ。だけど、どうも、ジャイアントベアもリニュリオンするらしい。言っていること分かるか、ジャイアントベアより強いブルーベアがいるかもしれないんだ。絶対森の中には、入るなよ」
「どうせ、12歳にならないと入れないだろ。いいな、カーク」
「カークにとって、今回の作戦が一番安全だろ。だけど、お前らは、チームだからな。お前がカークと森の境界線まで行くことに決まっただろ。充分気をつけるんだ。リニュリオンする時期は、ジャイアントベアたちも気が立っているからな」
「わかった。登れる木が有ったら登るから」
「そうしてくれ」

 おれは、カークが森に入るのを森の境界で見送る。カークを安心させられるのが、おれかサイカしかいないのだから仕方ない。ゴール地点では、サイカとサイカの父ちゃん、カイとサキが待ち構えている。おれは、あいつらのスピードに、追いつけない。だから、ホーンラビット軍団に気づかれないよう。カークと別れたら、茂みに隠れることになっている。ここに、ジャイアントベアが出てきて、鉢合わせしたら、確かにまずい。カイのあんちゃんは、それを心配しているのだ。


 カークは、森に近づくにつれて、独り言を言い出した。

「ヤッテヤル、ヤッテヤル、ヤッテヤル、ヤッテヤル、ヤッテヤル、ヤッテヤル、ヤッテヤル、ヤッテヤル」
「落ち着けって」
「オチツケナイ」
「キングラビットを狩ることが出来たら、カークが一番に、キングラビットの肉を食べれるようサイカの父ちゃんに言ってやるから。なんせキングだぞ。旨いに決まってる」
「ホントウカ!」
「そりゃそうだろ」
「ソウダナ」

 カークは、本当に扱いやすい恐竜なのだ。

 周りの大人たちは、おれたちの会話を聞いて、にやにや笑っている。みんな、キングラビットも狙ってますよという顔だ。作戦は、取り巻きを伏兵が削って行って、最後にキングを刈る。それに間に合うなら、だれでも参戦できる。だから、キングラビットの時は、頑張れば、参加チームの誰かが参加できる作戦になっている。そして、止めを刺した者が、キングラビットの角を手にできる。

「みんなも、そうしてくれるんだよな」

「お、おう」
「そりゃな、キングラビットだからな。今日一番の手柄は、カークに譲るよ」
「でも、わしのチームが止めを刺したら、あのデカいホーンは、わしらのものだからな」
「いやいや、とどめは、俺らのチームだろ。最初に肉を食べるのは、カークだけどな」

 みんな分かりやすい。今回は、みんなフル装備。なんせ、相手が相手だ。キングラビットの斬波はやばい。でも、準備して、最初から気をつけていれば、なんとかなると、みんなふんでいる。

 カークはというか、ディノニクスは、みんな肉が大好きだ。馬の前に人参をぶら下げたようなものだ。カークは、大人3人に連れられて意気揚々と森に入って行った。

「イッテクル」
「キングラビットに、蹴りをぶちかましてやれ」
「ヤッテヤル」

 おれは、樹齢60年ぐらいのカウリーを見つけて登った。これでも全長21メートル。枝分かれする部分まで10メートルはある。〈4~5階建てのビルぐらい〉余り背が高くても幹が太くて登れない。他の木が高過ぎるから、林の木々に阻まれて草原は見えないが、これでも、そうとう遠くまで見える。カークを見送るには十分だろう。

 …………、……・・ドドドドドドドド

 来た!

 カームカーム、キーー、カームカームカームカーム
「ホーン、ホーノ。カーム、イギア、ホギャーーー」

 ガサガサガサ
「ホギャーーー」

「スッゲー、1,2、………18匹。いっぱいいるぞ」

 そのホーンラビット大集団の後ろから、ユの村のトビを含めた四人の戦士が嬉しそうにカークを追っている。林の中の伏兵が、ホーンラビットの足を鎌イタチで何匹か落としたら、その狩りに加わる予定だ。おれもこうしちゃいられない。

 カイのあんちゃんが、ジャイアントベアが、どうとかいうから、高い木に登りすぎちゃったよ

 そう思って、滑って降りようと思った矢先に、両肩に白い風燕と黒い風燕がとまってきて、森の方に向いてピルルルルルーと、風燕の警告音を発した。

 森の奥から地鳴りがする。みんなは、いやおれも、ホーンラビットに気を取られて見過ごしていた。

 なんだ、あの数のジャイアントベアは!!!

「オビト」
「オビト降りちゃダメ」

 懐かしい声と、5歳の時に夢に出てきた声。

「カジカ?ライナ姫?」

 ピルルルルルー、ピルルルルルー
「私のこと覚えてくれたんだ」
 ピルルルルルー、ピルルルルルー
「あら、私のことだって、そうですわ」

 耳元で、うるさっ!
「ブルーベアがいるのよ。降りちゃダメ」
「ホーンラビットを餌にするつもりでしたのね。逃げられたから追った。そんな所かしら」

「まて、おれたちの伏兵が、ホーンラビットを何匹か削るんだ。それじゃあ、ジャイアントベアが、みんなに追いついっちまう」

 ピルルルルルー、ピルルルルルー
「今のあなたじゃ無理よ」
 ピルルルルルー、ピルルルルルー
「そうですわ。ここにいてください」

「ダメだ。リニュリオンするから集団になっているんだ。林の中にいる仲間はみんな死ぬ。ブルーベアをおれが怒らせて、森の中に誘って逃げ込む」

 ピルルルルルー、ピルルルルルー
「無茶よ」
 ピルルルルルー、ピルルルルルー
「無謀すぎます」

「どうかな、称号:修行を極めるもの解除」

 一挙に膨らむステータス。7歳にして、人間の限界に近い数字に跳ね上がった。

「なんて強い闘気」
「魔力も人の限界に近いですわ」

 オビトが、闘気、魔気を開放した。風燕では、これに耐えられない。2羽が、肩から離れた。

「7歳でこれじゃあ、恐竜よりすごいわ」
「ドラゴンと変わりません。彼は、竜人よ」

 それでも、
「それでも、あの数はないわ。ライナ、間に合う?」
「カジカ、もう向かっています。でも、‥‥、オビトをお願い」

「ごめんな二人とも、心配させちゃって」

 この言葉に二人は、ズキューーーンと胸を撃たれた。

 ライナ姫は、超加速で、限界のスピードを出して、100Km離れたバルモア共和国の浮島から彗星のように光って、マルタ島を目指す。カジカは、ホーリー大穴、五層のコテージから、邪魔する魔物をオラオラーと蹴散らして、一層を目指した。


 青いベア、あれがブルーベアか、よし!
「加速。視覚強化、聴覚強化、嗅覚強化。鋭気功、硬気功、剛気功。鷹の目、ウサギの耳、犬の鼻」
 なんか、カークと出会った時を思い出すよ。
「能力向上、筋力強靭、プロテクト」

 見えた!あの数はまずい。13匹いる。
「痛覚無効!」
 武器は、短剣のみ。

「『風障壁』!」

 巨大な竜巻が、大きな玉のようになってジャイアントベアの前に立ちはだかった。これにぶつかると跳ね返されるだけでなく、小さな鎌イタチの傷を負う。

 ジャイアントベアは、これで足を止めたが、青いジャイアントベアは、これを片手で払った。裂爪(レツソウ)だ。

 なんだ、あの長い爪は?
「スラッシュ」

 ここで戦闘モードに入った。

 おれは、早い機転で、ブルーベアの死角からスラッシュを撃った。スラッシュは、鎌イタチより早く強烈だ。ブルーベアは、背中を不意打ちされて身もだえた。

「食事の邪魔をして悪いな。追うんなら、おれを追え」

 おれは、ブルーベアの後ろにいたジャイアントベアを木から飛び降りて蹴とばし、ブルーベアに覆いかぶさるようにした。しかし蹴りが弱い。まだ、七歳の軽い体重の蹴り。重力魔法が使えたらなと思いながら。その後ろにいたジャイアントベアの首を短剣で刺して、森の中に逃走した。

 初めて入る森。うっそうと茂った茂み。木から木に飛び移らないと、地面を走っていたのでは、ジャイアントベアに追いつかれてしまう。

 フゴーーー
 ブワーー

 ジャイアントベアたちは、口々に叫んで、追って来た。成功だ!。このまま逃げ切れば、村の戦士に被害はない。

 調子に乗って、「ここまでおいでー」と言って、尻を叩いたり、スラッシュを撃って、先頭集団を牽制していて、おれは、前をちゃんと見ていなかった。

 次の瞬間、ズボンと、森を抜けて、岩山の壁がある広いところに出てしまった。ここには、逃げる高い木が無い。
 見上げる様な岩山の壁の中に、エルフ語で、「危険を冒す冒険者たちよ。いま一度、自分の実力を振り返って考え直せ」という石板が埋め込まれている。

「ここは、二層への入り口か。やばい、囲まれた」

 ブルーベアだろうが、一対一なら勝てる自信がある。しかし、重量級13匹。二層に逃げ込んでも、こいつらは、リニュリオンしそうなのだから平気で追ってくる。狭いところに入ったら、なおさらやばい。おれは、風障壁で、他のジャイアントベアを牽制して、ブルーベアと対決する道を選んだ。そこを突破すれば、また森に逃げ込める。

 両手を広げて左右前方に風障壁を出す。
「『風障壁』!」
 そして唯一の道、前方のブルーベアに飛び込んだ。ブルーベアの裂爪(レツソウ)を見ていたのは、幸運だった。長い爪が来るのを予想できた。おれはブルーベアの頭を蹴って後方に出ることに成功した。
 ところが、そこに後続のジャイアントベアが、二匹も控えたいた。あれは、最初に、こいつらを足止めした時と同じ布陣。しまったと思ったが、もう遅い。思いっきり殴られた。体重が軽いので吹っ飛んだが、ブルーベアの背中に当たって意識を失うことはなかった。

 くそっ体が重い

 挟み撃ちにされた挙句、目の前に立ちはだかるブルーベア。ブルーベアは、長い爪を出して振りかぶろうとしている。短剣ではカバーできない爪の長さと量。

 ガオーーーーン

 勝ち誇ったように吠えるブルーベア。痛覚無効を入れているせいか、冷静に振り上げている爪を見ることが出来る。その振り下ろす手が、加速を入れているために、ゆっくり動いているように見える。

 動け、おれの体

「ダメーーーーー」

 動けないおれに、コウモリの羽を生やしたカジカが、覆いかぶさった。裂爪で切り裂かれる羽。傷つく背中。

「良かった、間に合った」
 カジカは、涙を浮かべておれを抱きしめた。

 グオーーーーーン

 獲物を横取りされたと思ったブルーベアは、これまでにない雄たけびを上げる。それに呼応して残りのジャイアントベアが、おれとカジカに突進してきた。

 グルルルル、ゴワッ、ガー

「『バリヤー』!」

 信じられない高出力のバリヤーカプセルが、これら獰猛なクマたちの攻撃を跳ね返した。

「許さない!」

 上空に彗星のように現れたライナは、すぐさま二人をバリヤ―で覆い、絶対防御の構えを見せた。まだ、強烈な光を放っている。

「あなたたち、死を持って償いなさい」

「フラクタルビーム」

 ライナの周りに、光の異相が揺らめき出した。異次元の通路を思わすような光の模様。

 まずい、ここら一帯が吹っ飛ぶ
「ライナ、全部殺すな。森の生態系が狂う」

「でもっ」

「それを撃ったら、二層の入り口も吹っ飛ぶほどなんだろ。おれたちの生活を考えてくれ」

 ライナは、あげた手を力なく降ろした。

「では、半分間引かせてい貰います。そうしないと、オビトとカジカが解放されません」

 そう言って、レッドニードルで6匹を倒した。ブルーベアは、レッドニードルで傷つきはしたが、倒れない。空中に浮いている敵を恨めしそうに見ながら、残りのジャイアントベアを引き連れて逃げ出した。


 カジカは、涙をぬぐわず嬉しそうに、おれをもう一度抱きしめた。

「名無しさん久しぶり」
「お前、傷は?」
「私は、トゥルーバンパイアよ。胴体を割かれても復活するわ」

 ライナが、恨めしそうに二人を見ている。カジカは、ライナを気遣った。

「ライナよ。今は、私の親友よ」
「知ってる」
「あなたは、自分が死んだ後のことを知らなすぎるわ。ライナと精神感応して私たちが、あなたのことをどれだけ大切にしているか見てちょうだい。自分の命を大切に、ね」

 ここで言うんだと思うライナ。

「わるかったよ。ライナも助かった」

 そう言われて、ライナが肩の力を抜いた。

「そうです。オビトは、自分の命を大切にしてください。今、あなたの命は、あなた個人の命ではないのでしょう」

「すまん」

「気を楽にして戦いの歴史を見てください。あなたは、人類を滅亡から救ったのです」

 ライナの光に包まれて、おれは浮遊感を感じた。カジカは、遠慮して引き下がる。人類を殺しまくるタイフーンドラゴン。そして魔王として率いる恐竜軍団。それに立ち向かう友とライナ。そして多くの恐竜とドラゴン王プロトンドラゴン。多くの恐竜が人類の滅亡と戦ってくれた。それは、おれが、先頭に立って魔王と戦ったために突き動かされた戦い。オレを脅威と感じた魔王が、人類を滅亡させようとしたのとは、正反対の感情。

 おれは、それほどの男じゃない。

 結果と事実は、変わりません。あなたは、既に好きに生きていい状態です。でも、こんな無茶をするのなんて、私たちは、あなたのことが心配です。私たちを側においてください。今は、私たちの分身。風燕の粋(スイ)と鵺(ヌエ)をよろしくお願いします。

 待て、そんな約束はできない

 オビト、私たちを遠ざけたいの?

 …これはカジカの声か そんなことはない。

 また、会いましょう。ドラゴンスレーヤーさん


 気が付くと、6体のジャイアントベアの死体に囲まれていた。そこには、カジカもライナもいなかった。

 ピューィ
 ピューィ

 そこに、白い風燕と黒い風燕がやってきて、おれの肩にとまった。

「おまえら……仲間が増えっちゃったか。サイカとカークには、どう説明するかな」

 そう、二羽に問いかけても首をかしげるばかり。ジャイアントベアの胸にある大きな魔石を抜き取って、カークたちがいるカウリーの水場に向かった。

 おれには、戦闘のダメージも汚れも一切なかった。今は、カークたちの事を心配することにした。


 カジカとライナは、岩山の頂上から、オビトを見送った。

「オビトのお母さまとお姉さまに会えた?」
「ええ、ヘイネマイトワールをよろしくって言われたわ。あなたもそうなんでしょう」
「変な名前でしょ」
「ほんと、自分のことを名無しなんて言うわけね」

 二人は、くすくす笑った。オビトの気が小さくなるのを感じて、風燕に心を切り替えた。二人は、半ば強制的に、オビトの近くにいる権利を得た。
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