短編集

谷町ミネ

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父と山

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 秋も深まったある日、拓也は久しぶりに地元の山に足を運んでいた。子どもの頃、祖父と一緒に登った山道だ。足を踏み出すたびに、木々のざわめきや遠くで響く鳥の鳴き声が耳に届く。街の喧騒から離れたその音は、どこか懐かしく、心を落ち着かせてくれる。

 拓也が道の途中でふと足を止めると、何かがカサカサと音を立てていた。落ち葉が風に吹かれて転がる音かと思ったが、そちらに目をやると、小さな白いウサギがこちらを見ていた。拓也は驚いて立ち尽くしていると、ウサギも一瞬、じっとこちらを見返し、それから跳ねるように森の奥へと消えていった。

 「やっぱり、ここは変わらないな……」

 拓也は小声でつぶやき、再び山道を歩き出した。子どもの頃、祖父と一緒に来たときも、同じようにウサギやタヌキに出会ったことを思い出す。祖父はいつも「山は友達だ。無理せず歩けば、いろんな生き物が姿を見せてくれる」と笑っていた。

 山の頂上に近づくと、眼下には広がる紅葉が見渡せる場所に出た。オレンジや赤、黄色に染まった木々が一面に広がり、まるで絵画のような光景だ。拓也は深く息を吸い込み、清々しい空気を肺いっぱいに取り込んだ。

 ふと足元を見ると、祖父がいつも手を触れていた古い木の根が目に入った。その根には、小さな石が並べられ、誰かがそっと手を合わせた形跡があった。もしかしたら祖父もここで何かを祈っていたのかもしれない。拓也もそっと目を閉じ、祖父への感謝と、これからの自分の道を心の中で祈った。

 少し冷たくなった風が、拓也の頬をなでるように吹き抜ける。目を開けると、遠くの山々が静かに広がり、深い緑と燃えるような紅葉が混ざり合っていた。祖父が愛したこの山で、拓也はもう少しゆっくりと、自然の声に耳を傾けようと思った。

 その山の静けさと美しさが、彼の心を穏やかに包んでいた。
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