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跳ねろ、この音で
音が揃った日
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「……リハ、いけるね」
結華がヘッドフォンを外しながら、ぽつりとつぶやいた。
翼のドラムは、以前よりも柔らかくなっていて、
蓮のベースは、ギターラインとぴたり重なる瞬間が明らかに増えていた。
悠人の歌は、まだ未完成だった。
でも、音の中に迷いがなくなってきているのが、聴いていてわかる。
「お前ら、今日の感じ、録っとこうぜ」
蓮がスタジオの壁に設置されたレコーダーのスイッチを押した。
「本番と同じセットリスト、流してみる?」
翼がドラムスティックをくるりと回しながら訊いた。
「……うん。通してやってみたい」
悠人がマイクの前で深くうなずいた。
それぞれがそれぞれの機材に向き合い、
無言のまま音を合わせる時間。
以前なら、どこか“個”のぶつかり合いがあった。
でも今は違った。
4人の音が、無理なく一つにまとまり始めている。
「……たぶんさ」
セッションを終えたあと、蓮がボトルの水を飲みながらぽつりと漏らす。
「前の俺らって、“合ってるフリ”してただけだったんじゃねえかなって思うわ」
結華が笑った。
「フリっていうか、無理に合わせにいってた感じ?」
「うん。でも今は、ちゃんと“自然に”合ってる」
悠人は、誰にも言わずに小さく頷いた。
その時、彼のスマホが震えた。
通知は、CRAWLとのライブを紹介する投稿だった。
すでに数百の“いいね”と拡散。
コメント欄には知らない名前が並び、「観に行きたい」「注目してる」などの文字が並ぶ。
中にひとつ、見覚えのあるアイコンがあった。
> 「お前ら、どこまできたんだ?」
文章は短く、それだけだったが、
“真田翼”の名前に、蓮の手が一瞬止まった。
「……どうした?」
翼が尋ねたが、蓮はすぐにスマホを伏せた。
「いや、なんでもない」
けれどその瞳の奥で、
確かに何かが、静かに揺れていた。
「今日のリハ、いい映像撮れたと思うよ」
結華がノートPCの画面を閉じながら、満足そうに言った。
「投稿どうする? 曲名まだ伏せたままだけど、今なら出してもいいかも」
「むしろ出したほうがいい」
翼がスティックをクルクルと回しながら答えた。
「CRAWLとの対バンって情報、もう向こうが流してるし。
今のうちに“こっちも準備できてるぞ”って見せた方がいい」
悠人はうなずいた。
「……じゃあ、お願い」
それから1時間後、映像はSNSに投稿された。
新曲の名前はまだ伏せたまま。
それでも“あの音”は、言葉よりも強く届いていった。
> 「無名バンド?いや、これはヤバい」
> 「まだ終わりじゃない、って名前だけど……曲がすでに魂こもってる」
> 「何この曲。まだ終わってないって感じ、むしろ始まってるって感覚なんだけど」
再生数は1万、2万と伸び、
タグには #CRAWL対バン #新曲不明 #感情ぶつける系 が並ぶ。
その中でひときわ目に留まる名前が、蓮のスマホに表示された。
> 「観に行く。あの音、ちゃんと受け止めたい」
送信者――真田 翼
かつて、蓮とバンドを組み、そして裏切った男。
今や別のバンドで活動している彼からの短い一文。
「……まじかよ」
蓮は小さく呟いたが、他のメンバーには聞こえないようにした。
翼が「どうした?」と声をかけるが、
蓮は首を横に振った。
「なんでもない。ただの、ちょっとした過去」
でもその表情には、言葉にできないざらつきが残っていた。
スタジオ練習の翌日、悠人のスマホに藤代からの着信が入った。
「よぉ。いい感じじゃねえか、映像」
電話の向こうから聞こえる声は、いつもより若干テンションが高めだった。
「ありがとうございます。……再生数も、思ったより伸びてて」
「伸びてるどころか、観てるやつの反応が熱い。
感情が揺れる音ってのは、やっぱりバズるんだよ。派手さなんかよりもよ」
「……そう言ってもらえるのが一番うれしいです」
悠人は肩をほっと落とし、椅子にもたれかかった。
まだリハの余韻が指先に残っていた。
「でな、次の本番――CRAWLとの対バン、箱の規模上げたぞ」
「えっ?」
「小箱から中箱に移した。キャパ倍。オールスタンディング。
どうせ埋まる。あの映像観たら、誰だって観たくなるからな」
「……本気ですね」
「俺はいつだって本気だよ、悠人」
藤代の笑い声が電話の向こうで響いた。
それは、ここまで導いてきた男の“信頼の証”だった。
「今さらビビるなよ。お前らは今、確かに来てる。
あとは――ステージで見せるだけだ」
「……はい、必ず」
電話を切ったあと、悠人は深く息を吐いた。
結華がリハ映像を編集していた横で、蓮がスマホを見ながら口元を引き締めている。
「……なに?」
悠人が聞くと、蓮はスマホを伏せた。
「……知ってる名前が映像に反応してた。昔の知り合い」
「そう」
それ以上は聞かず、悠人はただ頷いた。
それぞれの過去が、今に重なってきている。
けれど、4人の音はもう“迷っていなかった”。
結華がヘッドフォンを外しながら、ぽつりとつぶやいた。
翼のドラムは、以前よりも柔らかくなっていて、
蓮のベースは、ギターラインとぴたり重なる瞬間が明らかに増えていた。
悠人の歌は、まだ未完成だった。
でも、音の中に迷いがなくなってきているのが、聴いていてわかる。
「お前ら、今日の感じ、録っとこうぜ」
蓮がスタジオの壁に設置されたレコーダーのスイッチを押した。
「本番と同じセットリスト、流してみる?」
翼がドラムスティックをくるりと回しながら訊いた。
「……うん。通してやってみたい」
悠人がマイクの前で深くうなずいた。
それぞれがそれぞれの機材に向き合い、
無言のまま音を合わせる時間。
以前なら、どこか“個”のぶつかり合いがあった。
でも今は違った。
4人の音が、無理なく一つにまとまり始めている。
「……たぶんさ」
セッションを終えたあと、蓮がボトルの水を飲みながらぽつりと漏らす。
「前の俺らって、“合ってるフリ”してただけだったんじゃねえかなって思うわ」
結華が笑った。
「フリっていうか、無理に合わせにいってた感じ?」
「うん。でも今は、ちゃんと“自然に”合ってる」
悠人は、誰にも言わずに小さく頷いた。
その時、彼のスマホが震えた。
通知は、CRAWLとのライブを紹介する投稿だった。
すでに数百の“いいね”と拡散。
コメント欄には知らない名前が並び、「観に行きたい」「注目してる」などの文字が並ぶ。
中にひとつ、見覚えのあるアイコンがあった。
> 「お前ら、どこまできたんだ?」
文章は短く、それだけだったが、
“真田翼”の名前に、蓮の手が一瞬止まった。
「……どうした?」
翼が尋ねたが、蓮はすぐにスマホを伏せた。
「いや、なんでもない」
けれどその瞳の奥で、
確かに何かが、静かに揺れていた。
「今日のリハ、いい映像撮れたと思うよ」
結華がノートPCの画面を閉じながら、満足そうに言った。
「投稿どうする? 曲名まだ伏せたままだけど、今なら出してもいいかも」
「むしろ出したほうがいい」
翼がスティックをクルクルと回しながら答えた。
「CRAWLとの対バンって情報、もう向こうが流してるし。
今のうちに“こっちも準備できてるぞ”って見せた方がいい」
悠人はうなずいた。
「……じゃあ、お願い」
それから1時間後、映像はSNSに投稿された。
新曲の名前はまだ伏せたまま。
それでも“あの音”は、言葉よりも強く届いていった。
> 「無名バンド?いや、これはヤバい」
> 「まだ終わりじゃない、って名前だけど……曲がすでに魂こもってる」
> 「何この曲。まだ終わってないって感じ、むしろ始まってるって感覚なんだけど」
再生数は1万、2万と伸び、
タグには #CRAWL対バン #新曲不明 #感情ぶつける系 が並ぶ。
その中でひときわ目に留まる名前が、蓮のスマホに表示された。
> 「観に行く。あの音、ちゃんと受け止めたい」
送信者――真田 翼
かつて、蓮とバンドを組み、そして裏切った男。
今や別のバンドで活動している彼からの短い一文。
「……まじかよ」
蓮は小さく呟いたが、他のメンバーには聞こえないようにした。
翼が「どうした?」と声をかけるが、
蓮は首を横に振った。
「なんでもない。ただの、ちょっとした過去」
でもその表情には、言葉にできないざらつきが残っていた。
スタジオ練習の翌日、悠人のスマホに藤代からの着信が入った。
「よぉ。いい感じじゃねえか、映像」
電話の向こうから聞こえる声は、いつもより若干テンションが高めだった。
「ありがとうございます。……再生数も、思ったより伸びてて」
「伸びてるどころか、観てるやつの反応が熱い。
感情が揺れる音ってのは、やっぱりバズるんだよ。派手さなんかよりもよ」
「……そう言ってもらえるのが一番うれしいです」
悠人は肩をほっと落とし、椅子にもたれかかった。
まだリハの余韻が指先に残っていた。
「でな、次の本番――CRAWLとの対バン、箱の規模上げたぞ」
「えっ?」
「小箱から中箱に移した。キャパ倍。オールスタンディング。
どうせ埋まる。あの映像観たら、誰だって観たくなるからな」
「……本気ですね」
「俺はいつだって本気だよ、悠人」
藤代の笑い声が電話の向こうで響いた。
それは、ここまで導いてきた男の“信頼の証”だった。
「今さらビビるなよ。お前らは今、確かに来てる。
あとは――ステージで見せるだけだ」
「……はい、必ず」
電話を切ったあと、悠人は深く息を吐いた。
結華がリハ映像を編集していた横で、蓮がスマホを見ながら口元を引き締めている。
「……なに?」
悠人が聞くと、蓮はスマホを伏せた。
「……知ってる名前が映像に反応してた。昔の知り合い」
「そう」
それ以上は聞かず、悠人はただ頷いた。
それぞれの過去が、今に重なってきている。
けれど、4人の音はもう“迷っていなかった”。
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