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この音に、答えはまだない
再び、伝説になる日
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イントロの一音が鳴った瞬間、歓声が爆発した。
——《まだ終わりじゃない》。
彼らの名を冠した代表曲。
その始まりは、もはや“音楽”ではなく、合図だった。
会場中の心をひとつにする、絶対のシグナル。
蓮のベースが低く唸る。
翼のドラムが、まるでエンジンのように鼓動を生み出していく。
そして、結華のギターがすべての音を引っ張るように叫び始める。
ステージの上も、下も、すでに区切りなどなかった。
音が空間を支配し、客席と演者の境界が曖昧になっていく。
悠人の声が、会場のど真ん中を貫いた。
「俺たちは、まだ終わってねぇ!!」
拳が、何十本も何百本も、いっせいに空へ突き上がる。
前方の観客はもはや暴れ叫び、後方の立ち見ですら飛び跳ねていた。
かつて、冷えきっていたこのステージは、いま——灼熱の中心だった。
音がひとつになる瞬間がある。
意識しなくても、指が動く。
声が勝手にあふれて、息を吸うのを忘れる。
悠人は、そんな境地に入っていた。
もう考えていなかった。
ただ、鳴らすだけ。叫ぶだけ。
そして——届けるだけ。
ふと、視界の端に見えた。
人混みの中、フードを脱いで髪をまとめ直す姿。
あかねだ。
遠く離れていても、なぜかその存在だけは、強烈にわかった。
(見てろよ)
心の中でだけ、そう呟いて、
悠人はギターをかき鳴らした。
その音が、これまでの全ての痛みと、決意と、願いとともにフロアへ放たれた。
ステージの照明が、音に合わせて瞬く。
観客の叫びが波のように押し寄せ、再び返ってくる。
その全てが、バンドと一緒に“生きていた”。
音がぶつかり合い、溶け合い、叫び合う。
そんな空間の真ん中で、悠人の声はどこまでも伸びていた。
あかねは、フロアの後方で拳を握りしめながら、その光景を見ていた。
目の前のステージに立つ悠人は、まったく別人のようだった。
でも、知らない人間ではなかった。
昔から知っている。
誰よりも臆病で、誰よりもまっすぐだった彼が、今ここで“本当の音”を鳴らしている。
音楽がうまいとか、そういうことじゃない。
この瞬間の彼は、誰よりも本気で、生きていた。
「……カッコ悪いな、ほんと」
気づけば、あかねの目には涙がにじんでいた。
泣くつもりなんてなかったのに。
叫んだときは、ただがむしゃらだったのに。
それでも今、どうしようもなく心が動いていた。
ステージでは、蓮がジャンプしながらベースを鳴らしている。
翼のシンバルが唸り、結華のギターが、まるで言葉を持ったかのように歌い始める。
会場の全てが、この瞬間に集中していた。
悠人が息を吸い、歌い上げる。
「叫べえええええ!!!!!」
その声に、全員が応えた。
フロアの隅々から、心の底からの叫びが響き渡る。
再びモニター前。
同じように見ていた志村と橘が、何も言わずに食い入るように画面を見つめていた。
「……これが“鳴る”ってことか」
志村が低く唸るように言う。
「完全に持ってかれた」
橘は目を離さずに答える。
後ろの若手バンドマンが、ぼそっと漏らした。
「さっき“こんなもんか”とか言ってたの、マジで恥ずかしいな……」
そして誰ともなく、呟くように言葉が漏れる。
「……やべえな、これ。マジで時代、来たかも」
その中心で、あかねはひとり立ち尽くしていた。
もう、何も考えていなかった。
彼に何かを伝えなきゃとか、言葉にしなきゃとか、そんなことすらどうでもよくなっていた。
ただただ、彼の音を受け止めていた。
それだけで、胸がいっぱいだった。
「届いてるよ、悠人」
誰にも聞こえないような声で、あかねは呟いた。
届かなくてもいいと思っていた。
でも今は、届いてほしいと思えた。
その変化が、静かに、確かにあかねの中で何かを変えていた。
サビの直前、演奏が一瞬だけ止まった。
静寂。
そのわずかな“間”を、誰もが息を呑んで待っていた。
そして——
「まだ、終わりじゃねぇだろ!!」
悠人の叫びと同時に、音が爆発する。
照明が一斉に点灯し、フロア全体が揺れる。
客席が割れるように跳ねる。
誰もが拳を振り上げ、声を張り上げ、隣と肩をぶつけ合いながら、
この瞬間を全力で生きていた。
蓮のベースがフロアを地響きのように揺らし、
翼のドラムは心臓のように規則正しく、けれど熱く叩き込まれる。
結華のギターが、最後のひと押しのように鋭く空間を裂く。
ステージのすべてが、過去最高に“本気”だった。
観客のひとりが、泣いていた。
誰かは知らない。でもその涙は、明らかに届いた証だった。
「……なんだこれ……なんなんだよ……!」
誰かがそう叫んだ。
けれどその言葉には、苦しさも、悔しさもなかった。
ただただ、“心を撃ち抜かれた”という感情の叫びだった。
音楽は、理屈じゃない。
演奏の正確さでも、声の上手さでもない。
たった一瞬、魂をぶつけた者にだけ許される、
“生の説得力”が、いまここにあった。
ラストサビ。
悠人はマイクを少しだけ離して、こう言った。
「全部、お前らに預ける」
客席から自然と起こる大合唱。
「まーだーおーわーりーじゃーーーなーーーい!!!!!」
ステージと観客が、完全にひとつになった。
音が、静かに終わる。
でも、誰も沈黙しなかった。
拍手も歓声も、むしろもっと大きくなっていく。
次の瞬間には、あのフロア後方にいた誰かが、こうつぶやいていた。
「伝説って、二度あるんだな……」
——《まだ終わりじゃない》。
彼らの名を冠した代表曲。
その始まりは、もはや“音楽”ではなく、合図だった。
会場中の心をひとつにする、絶対のシグナル。
蓮のベースが低く唸る。
翼のドラムが、まるでエンジンのように鼓動を生み出していく。
そして、結華のギターがすべての音を引っ張るように叫び始める。
ステージの上も、下も、すでに区切りなどなかった。
音が空間を支配し、客席と演者の境界が曖昧になっていく。
悠人の声が、会場のど真ん中を貫いた。
「俺たちは、まだ終わってねぇ!!」
拳が、何十本も何百本も、いっせいに空へ突き上がる。
前方の観客はもはや暴れ叫び、後方の立ち見ですら飛び跳ねていた。
かつて、冷えきっていたこのステージは、いま——灼熱の中心だった。
音がひとつになる瞬間がある。
意識しなくても、指が動く。
声が勝手にあふれて、息を吸うのを忘れる。
悠人は、そんな境地に入っていた。
もう考えていなかった。
ただ、鳴らすだけ。叫ぶだけ。
そして——届けるだけ。
ふと、視界の端に見えた。
人混みの中、フードを脱いで髪をまとめ直す姿。
あかねだ。
遠く離れていても、なぜかその存在だけは、強烈にわかった。
(見てろよ)
心の中でだけ、そう呟いて、
悠人はギターをかき鳴らした。
その音が、これまでの全ての痛みと、決意と、願いとともにフロアへ放たれた。
ステージの照明が、音に合わせて瞬く。
観客の叫びが波のように押し寄せ、再び返ってくる。
その全てが、バンドと一緒に“生きていた”。
音がぶつかり合い、溶け合い、叫び合う。
そんな空間の真ん中で、悠人の声はどこまでも伸びていた。
あかねは、フロアの後方で拳を握りしめながら、その光景を見ていた。
目の前のステージに立つ悠人は、まったく別人のようだった。
でも、知らない人間ではなかった。
昔から知っている。
誰よりも臆病で、誰よりもまっすぐだった彼が、今ここで“本当の音”を鳴らしている。
音楽がうまいとか、そういうことじゃない。
この瞬間の彼は、誰よりも本気で、生きていた。
「……カッコ悪いな、ほんと」
気づけば、あかねの目には涙がにじんでいた。
泣くつもりなんてなかったのに。
叫んだときは、ただがむしゃらだったのに。
それでも今、どうしようもなく心が動いていた。
ステージでは、蓮がジャンプしながらベースを鳴らしている。
翼のシンバルが唸り、結華のギターが、まるで言葉を持ったかのように歌い始める。
会場の全てが、この瞬間に集中していた。
悠人が息を吸い、歌い上げる。
「叫べえええええ!!!!!」
その声に、全員が応えた。
フロアの隅々から、心の底からの叫びが響き渡る。
再びモニター前。
同じように見ていた志村と橘が、何も言わずに食い入るように画面を見つめていた。
「……これが“鳴る”ってことか」
志村が低く唸るように言う。
「完全に持ってかれた」
橘は目を離さずに答える。
後ろの若手バンドマンが、ぼそっと漏らした。
「さっき“こんなもんか”とか言ってたの、マジで恥ずかしいな……」
そして誰ともなく、呟くように言葉が漏れる。
「……やべえな、これ。マジで時代、来たかも」
その中心で、あかねはひとり立ち尽くしていた。
もう、何も考えていなかった。
彼に何かを伝えなきゃとか、言葉にしなきゃとか、そんなことすらどうでもよくなっていた。
ただただ、彼の音を受け止めていた。
それだけで、胸がいっぱいだった。
「届いてるよ、悠人」
誰にも聞こえないような声で、あかねは呟いた。
届かなくてもいいと思っていた。
でも今は、届いてほしいと思えた。
その変化が、静かに、確かにあかねの中で何かを変えていた。
サビの直前、演奏が一瞬だけ止まった。
静寂。
そのわずかな“間”を、誰もが息を呑んで待っていた。
そして——
「まだ、終わりじゃねぇだろ!!」
悠人の叫びと同時に、音が爆発する。
照明が一斉に点灯し、フロア全体が揺れる。
客席が割れるように跳ねる。
誰もが拳を振り上げ、声を張り上げ、隣と肩をぶつけ合いながら、
この瞬間を全力で生きていた。
蓮のベースがフロアを地響きのように揺らし、
翼のドラムは心臓のように規則正しく、けれど熱く叩き込まれる。
結華のギターが、最後のひと押しのように鋭く空間を裂く。
ステージのすべてが、過去最高に“本気”だった。
観客のひとりが、泣いていた。
誰かは知らない。でもその涙は、明らかに届いた証だった。
「……なんだこれ……なんなんだよ……!」
誰かがそう叫んだ。
けれどその言葉には、苦しさも、悔しさもなかった。
ただただ、“心を撃ち抜かれた”という感情の叫びだった。
音楽は、理屈じゃない。
演奏の正確さでも、声の上手さでもない。
たった一瞬、魂をぶつけた者にだけ許される、
“生の説得力”が、いまここにあった。
ラストサビ。
悠人はマイクを少しだけ離して、こう言った。
「全部、お前らに預ける」
客席から自然と起こる大合唱。
「まーだーおーわーりーじゃーーーなーーーい!!!!!」
ステージと観客が、完全にひとつになった。
音が、静かに終わる。
でも、誰も沈黙しなかった。
拍手も歓声も、むしろもっと大きくなっていく。
次の瞬間には、あのフロア後方にいた誰かが、こうつぶやいていた。
「伝説って、二度あるんだな……」
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