叫べ、まだ終わりじゃない

おくなみ

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SCREAM OUT

集結するバンドたち

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 SCREAM OUT――それはただのフェスの名前じゃなかった。

 叫べ。声を出せ。音を鳴らせ。
 そして、“生きてる”ことを証明しろ。

 そう言われているような気がして、各バンドは異様な緊張感の中、会場に集まってきていた。

 

 お台場の特設会場。メインステージを囲むように配置されたミドルステージとサブステージ。
 朝早くから続々と搬入車両が入り、各テントではセッティングと調整の声が飛び交っている。

 

 「おいおい、いるじゃん“あの4人”」

 サブステージ側の通路で、ギターケースを担いだ男が呟く。

 BLAST FANGの大我。過去にIGNITIONでの共演もあり、
 彼は《まだ終わりじゃない》の名前をよく知っていた。

 

 「SCREAM OUTのトリだってよ? ほんとに来るとは思わなかったわ。……マジで戦う相手、変わってきたな」

 

 一方、テンペストの控室前。

 藤原は楽器のチューニングをしながら、笑っていた。

 「バズったバンドなんて、山ほど見てきたけどな。
  お前らも、そろそろ終わるんじゃねえの? “まだ終わりじゃない”とか言ってる場合かよ」

 

 しかし、スタッフに挨拶されるたびに、彼の笑みの奥には焦りが見えた。

 “まだ終わりじゃない”が、自分より上の場所にいることを、
 誰よりも理解していたのは、藤原自身だった。

 

 別のテント。Y.U.N.Oの柚葉は譜面に目を通しながら、静かに微笑む。

 「……ここのメインのトリね。野音であれだけの空気を動かせるなら、それしかないと思った」

 

 TACの橘一誠も、スタッフとの雑談の合間に苦笑しながら漏らす。

 「ほんと、マジでやってくれたよな。あれだけのバンドの中で、メインのトリだぜ?」

 

 彼らの目の奥には、敬意とライバル心が混ざっていた。

 

 BLUEBIRD、DIVE AHEAD、NOSTALGIC RAY、IGNITIONで名を馳せたバンドたち――
 みんなが、“叫び”を持っていた。

 

 でも、この日の最後に叫ぶのは、まだ終わりじゃない。

 

 このフェスは、ただのライブじゃない。
 “the blazeのいない音楽シーン”の、はじまりなのだ。

SCREAM OUTの開演が近づくにつれ、
 バックステージの空気はただの通路ではなく、“戦場”のような緊張感を帯び始めていた。

 

 「いたな……“あいつら”」

 DIVE AHEADのベーシスト・川村が呟く。
 視線の先には、《まだ終わりじゃない》の4人。
 悠人は無言のまま歩き、蓮は目線を外さず、翼はスティックを指で回し、結華はギターケースを背負っていた。

 

 そのとき、通路の先から別の声が飛んでくる。

 「おい翼、調子はどうだ?」

 声の主は――TACのドラム、東郷
 

 「東郷さん……!」

 翼は思わず歩みを止める。何度か話したことのある“尊敬する先輩”だった。

 

 「今日、お前らがトリだって聞いた時はびっくりしたけどな……でも、観てきたよ。あの演奏」

 東郷はスティックケースを抱えながら、にやりと笑った。

 

 「全部の音を支えてるのは、結局ドラムだ。お前がどっしり構えてるかどうかで、バンドの信頼感が変わる」

 

 その言葉に、翼は深く頷いた。

 「……今日は俺が、全部の基盤を作ります。任せてください」

 「その意気だ。期待してるぞ」

 東郷は拳を差し出し、翼と軽くぶつけ合った。

 

 そのやり取りを見ながら、結華の前に現れたのは――Y.U.N.Oの柚葉。

 

 「結華ちゃん」

 「柚葉さん……!」

 

 ほんの短いやり取り。けれどその一言一言が、心に刺さる。

 

 「あなたたち、ここまで来たんだね。あの時より、ずっと強くなってる。……見せてよ、あなたの“叫び”」

 「……はい、絶対に」

 

 柚葉は静かに微笑み、すっとその場を去った。

 

 通路の奥からは、BLUEBIRDの真田が近づいてくる。

 「何も言わねえよ。お前の音はもう、しっかり聴いてる。……やれ、蓮」

 蓮はうなずいた。余計な言葉はいらない。音で通じ合った男同士の空気だった。

 

 《まだ終わりじゃない》を見据える視線は、誰もが本気だった。

 言葉よりも、音と眼差しが全てを語る。
 SCREAM OUTのバックステージは、今まさに“静かな開戦”を迎えていた。

控室の中は、異様な静けさに包まれていた。

 悠人が静かに椅子に座り、ギターの弦を張り直す。
 蓮は自分のアンプの設定を確認しながら、何度も細かく音を確かめていた。

 結華はストレッチをしながらギターのストラップを肩に通し、
 翼はスネアを前にしながら、目を閉じてリズムを体内に刻んでいる。

 

 外のステージでは、リハーサルが順番に進んでいる。
 歓声ではなく、各バンドが本気で音を鳴らす“試しの音”が、風に乗って届いてきた。

 

 「……いよいよだね」

 藤代が控室に顔を出す。

 「ステージ、もう一回確認しておくか?」

 

 「いや、大丈夫です」
 結華がすぐに答える。

 「何も変えない。私たちの音はもう、できてるから」

 

 藤代は満足そうにうなずく。

 「なら言うことはねぇな。……お前らの“全部”、出してこい。今日は、主役なんだからよ」

 

 その言葉に、誰もがわずかに笑みを浮かべた。

 

 SCREAM OUTの会場には、すでに観客が流れ込み始めていた。
 特設ステージの一角に貼られた「MAIN STAGE LAST:まだ終わりじゃない」の文字に、
 カメラを向けて歓声を上げるファンも多い。

 

 「……やべぇ、手が震えてる」

 翼が自分の指先を見て、笑った。

 

 「それでいい。緊張してるくらいが、ちゃんと生きてるってことだ」
 悠人が言う。

 

 このフェスの最終ステージを任された《まだ終わりじゃない》。
 the blazeの名前が消えたその場所に立つ重みを、彼らは今、真正面から受け止めていた。

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