叫べ、まだ終わりじゃない

おくなみ

文字の大きさ
126 / 132
SCREAM OUT

熱狂の夜

しおりを挟む
会場近くの大型スペースに設けられた打ち上げ会場は、
 SCREAM OUTを締めくくるにふさわしい、熱気と笑いと音楽に包まれていた。

 無数の乾杯の音が飛び交い、
 お互いを称え合うバンドマンたちの声が交錯する。

 《まだ終わりじゃない》の4人は、メインの中央テーブルにいた。
 ステージを降りても、その注目は冷めることなく、次々と声をかけられていた。

 「蓮、やべぇベース鳴らしてたな今日……いやマジで、音デカくねぇ?」

 「ステージの構造じゃねぇよ、お前の気迫のせいだよ」

 蓮は少し苦笑しながら、「お前があのときの真田に戻ってたからな」と返した。

 真田は酒を一口煽って言う。

 「まーたやろうぜ、次は俺らの方から誘うわ。マジでぶちかましに行く」



「結華。……本当に最高だったよ、あの《無題》」

 柚葉は少し赤い顔で、けれど真剣な目で言った。

 「最後のアンコール、バケモノだった。あんな形で飛ぶとは思わなかったけど……一番衝撃だったのは、あんたのギターと歌」

 結華は、照れ隠しのように笑ってグラスを掲げる。

 「いつか、あたしがそっちのステージかっさらうから。見ててください」

 柚葉も笑った。

 「楽しみにしてる。」




 翼は、TACの二人と笑いながらビールを片手にしていた。

 「……正直、今日の演奏で“芯”を作れたって初めて思えた」

 橘が笑う。

 「お前のドラム、えげつなかった。全部引っ張ってた」

 東郷は静かに頷きながら言った。

 「次はお前が俺らの背中を押す番かもな。……怖い存在になったな、翼」

 他のバンドマンたちも次々とやって来る。

 「悠人、最後のマイクやべぇよ! もう頭おかしい(笑)」
 「フェスのトリってプレッシャーの塊なのに、あれはもう事件」
 「“まだ終わりじゃない”って名前、マジでそのまんまだったな」

 悠人は何度も「ありがとう」と返しながら、どこか安心したように笑っていた。

 深夜、打ち上げはさらに熱を帯びる。

 でもその中で、誰もが思っていた。
 **「今夜、音楽の時代がひとつ変わった」**と。



そして、少し離れた場所。
 フェスの主催者であり、藤代が、腕を組んでステージ跡を見ていた。

 そこへ、4人が歩み寄る。

 「お疲れさま、店長」

 悠人がグラスを掲げると、藤代は少しだけ笑って返す。

 「お前らこそ、お疲れ。……マジで、とんでもねえもん見せてくれたな」

 蓮がぽつりと言う。

 「なんか、野音で終わったと思ってた。でも、今日……まだ続いてんだって思えた」

 結華が続ける。

 「《無題》、今日が一番ちゃんと鳴った気がする。
  あれは、ここだったんだなって」

 藤代は頷いた。

 「そうだよ。ここは“お前らのためのステージ”だったからな」

 静かに言葉を重ねたあと、少しだけ笑って続ける。

 「……the blazeが活動止めるって聞いたとき、何か託せる奴いねぇかなって考えたんだよ。
  でも、もう心配いらねぇな。お前ら、ちゃんと音で喧嘩できてた」

 悠人はその言葉に、真っすぐに頷く。

 「刺したままにしましたよ、藤代さん。俺らの音で」

 藤代はふっと笑って、空になったグラスを掲げた。

 「なら次は、俺が“祭り”をもっとデカくする番だな。――お前らが真ん中に立てるようにな」

打ち上げが終わった帰り道。
 お台場の夜風が、祭りの熱を少しずつ冷ましていく。

 騒がしかった屋外の打ち上げ会場を離れ、4人は人気の少ない道をゆっくり歩いていた。

 海沿いの歩道には波の音が微かに響き、
 遠くの観覧車が静かに色を変えていた。

 翼がぼそっと言った。

 「……終わったな、フェス」

 蓮が両手を頭の後ろで組みながら、空を見上げる。

 「でも、“終わった”って感じじゃない。……始まった、の方がしっくりくる」

 「うん」と結華が静かに続ける。

 「《無題》、今日がいちばん“完成”してた。……鳴らすべき場所で鳴らしたって思えた」

 悠人は無言のまま、ポケットに手を突っ込んで歩いていた。

 それぞれの足音だけが、夜の舗道に響く。

 そしてしばらくの沈黙のあと――
 悠人がポツリとつぶやいた。

 「……the blaze、止まったな」

 その言葉に、3人が振り向く。

 「志賀さん、なんで止めたんだろうな」

 誰も答えられなかった。
 でも、誰も否定もしなかった。

 やがて、結華が口を開いた。

 「でも今日、あの人の代わりにここに立てたと思う。……一瞬でも、“代わり”じゃなく“自分たちのままで”」

 悠人が少し笑って言う。

 「俺たち、“まだ終わりじゃない”もんな」

 4人の影が、並んで歩道に伸びる。

 「藤代さんが言ってた。“次は祭りをもっとデカくする”って」

 「なら、その真ん中に立ち続けようぜ。これからもずっと」

 月明かりの下、風が静かに吹き抜ける中で、
 4人は歩みを止めなかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界の花嫁?お断りします。

momo6
恋愛
三十路を過ぎたOL 椿(つばき)は帰宅後、地震に見舞われる。気付いたら異世界にいた。 そこで出逢った王子に求婚を申し込まれましたけど、 知らない人と結婚なんてお断りです。 貞操の危機を感じ、逃げ出した先に居たのは妖精王ですって? 甘ったるい愛を囁いてもダメです。 異世界に来たなら、この世界を楽しむのが先です!! 恋愛よりも衣食住。これが大事です! お金が無くては生活出来ません!働いて稼いで、美味しい物を食べるんです(๑>◡<๑) ・・・えっ?全部ある? 働かなくてもいい? ーーー惑わされません!甘い誘惑には罠が付き物です! ***** 目に止めていただき、ありがとうございます(〃ω〃) 未熟な所もありますが 楽しんで頂けたから幸いです。

君までの距離

高遠 加奈
恋愛
普通のOLが出会った、特別な恋。 マンホールにはまったパンプスのヒールを外して、はかせてくれた彼は特別な人でした。

〜仕事も恋愛もハードモード!?〜 ON/OFF♡オフィスワーカー

i.q
恋愛
切り替えギャップ鬼上司に翻弄されちゃうオフィスラブ☆ 最悪な失恋をした主人公とONとOFFの切り替えが激しい鬼上司のオフィスラブストーリー♡ バリバリのキャリアウーマン街道一直線の爽やか属性女子【川瀬 陸】。そんな陸は突然彼氏から呼び出される。出向いた先には……彼氏と見知らぬ女が!? 酷い失恋をした陸。しかし、同じ職場の鬼課長の【榊】は失恋なんてお構いなし。傷が乾かぬうちに仕事はスーパーハードモード。その上、この鬼課長は————。 数年前に執筆して他サイトに投稿してあったお話(別タイトル。本文軽い修正あり)

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

2月31日 ~少しずれている世界~

希花 紀歩
恋愛
プロポーズ予定日に彼氏と親友に裏切られた・・・はずだった 4年に一度やってくる2月29日の誕生日。 日付が変わる瞬間大好きな王子様系彼氏にプロポーズされるはずだった私。 でも彼に告げられたのは結婚の申し込みではなく、別れの言葉だった。 私の親友と結婚するという彼を泊まっていた高級ホテルに置いて自宅に帰り、お酒を浴びるように飲んだ最悪の誕生日。 翌朝。仕事に行こうと目を覚ました私の隣に寝ていたのは別れたはずの彼氏だった。

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

【完結】指先が触れる距離

山田森湖
恋愛
オフィスの隣の席に座る彼女、田中美咲。 必要最低限の会話しか交わさない同僚――そのはずなのに、いつしか彼女の小さな仕草や変化に心を奪われていく。 「おはようございます」の一言、資料を受け渡すときの指先の触れ合い、ふと香るシャンプーの匂い……。 手を伸ばせば届く距離なのに、簡単には踏み込めない関係。 近いようで遠い「隣の席」から始まる、ささやかで切ないオフィスラブストーリー。

処理中です...