叫べ、まだ終わりじゃない

おくなみ

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この場所に、帰ってくるために

あの日の声を、再び

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日曜の午後。
 いつも通り、部屋の空気はゆるやかに流れていた。

 悠人はギターのフレーズを繰り返し弾きながら、
 ようやく何かが形になりかけている気がしていた。

 そこに、スマホが震える。

 着信──志賀 零士。

 悠人の目が、スッと鋭くなる。

 「あー、元気そうで何より」

 通話越しに響く、いつもの軽い声。
 だけど、その向こうには、何かいつもと違う熱があった。

 「ちょっと、面白い話がある」

 悠人は息を整えた。

 「the blaze、活動再開する」

 その言葉に、しばし沈黙。

 「……は?」

 「10万人規模の野外ワンマン。名前はまだ伏せてるけど、
  ま、界隈はザワつくよ。俺らが戻ってきたらな」

 悠人の指が、ギターから自然と離れていた。

 「で、その前にオープニングが欲しくてさ。
  ガッと始めて、ドンッて終わるライブにしたいんだよ。お前らで」

 「……」

 「30分。一本勝負。やるか?」

 電話を切ったあと、悠人はしばらく動けなかった。

 胸の奥から、久しぶりに何かが暴れていた。

 バンドを始めた頃の焦がれるような衝動。
 フェスで叫んだあの日の余熱。

 もう一度、音を鳴らせと言われた。

 「30分、か……」

 呟いたその声には、確かな決意が宿っていた。

 最初に連絡を入れたのは蓮だった。

 電話の向こうで、蓮は少し間を置いて言った。

 「……マジかよ。志賀さんから?」

 「うん。blazeが復活する。10万規模の野外ワンマン。
  で、俺たちがオープニングアクト。30分一本勝負」

 蓮の声が、すっと低くなる。

 「……ヤベェな、それ。いや、やるしかないっしょ。燃えるわ」

 次に結華。

 彼女は通話が繋がると、何も言わずに聞いていた。
 悠人が話し終えると、静かに息を吐いた。

 「……そういう展開、ほんと好きだよね、志賀さん」

 「なあ、やれるか?」

 「やるに決まってるじゃん」

 言い切ったその声は、澄んでいた。

 そして、翼。

 「blazeって……あのblazeだよな?」

 「うん。サボってたお前らにはちょうどいいアップかもなって、志賀さんが」

 「ははっ、マジで言いそうだわ……」

 少し笑ってから、翼が言った。

 「……でも、ありがてぇよ。やっぱ俺、鳴らしたくて仕方なかった。やっとまた、叩ける」

 再び全員が揃ったスタジオ。
 重く閉ざされた扉が、ようやく開く。

 「戻るぞ、“まだ終わりじゃない”を」

 悠人の言葉に、3人が頷く。

 誰も口には出さなかったが――この再始動に賭ける想いは、全員同じだった。

 30分という短さがどうだろうと、
 相手が伝説のblazeだろうと、関係ない。

 やるべきことは、ひとつだけだった。

 “俺たちは、まだ終わりじゃない”と証明すること。

 翌週。
 ついに情報が解禁された。

 『THE BLAZE “REVIVE” LIVE at TOKYO SKY FIELD』
 2026年、夏。10万人規模の野外ワンマン。

 そしてそのオープニングアクトとして、
 《まだ終わりじゃない》の名前が記された。

 SNSは即座に沸騰した。

 「は??blazeの復活ライブのOPにまだ終わりじゃない!?」
 「いや、マジか……引きずりすぎてたけど、やっぱ来たな」
 「“終わってなかった”証明してくれよ……」
 「活動休止してた奴らがblazeの前ってヤバすぎだろ」
 「30分で暴れ尽くせるのか?今の彼らに」

 賛否、ざわめき、そして高まる期待。
 まだ終わりじゃない、という名前が再び燃え始めていた。

 スタジオには藤代がやってきていた。
 あの、いつもと変わらぬ軽やかな足取りで。

 「なーんか面白い展開になってきたじゃん。おかえり、4人とも」

 「ただいま、店長」

 「いや、もはや“マネージャー”だろ俺。……で、何が必要?金か?設備か?精神安定剤か?」

 翼が笑った。

 「全部、かな」

 藤代はいつもの笑顔のまま、4人を見渡す。

 「どれも用意してやるよ。ただし、ひとつだけ条件がある」

 「?」

 「“期待を超えろ”。いつものやつ。お前らならできる」

 再始動は、正式に動き出した。

 照明が落ちるその瞬間まで、もう“時間”は止まらない。

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