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番外編
②
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鳴人は近くの公園の駐車場に車を止めて、モバイルパソコンで仕事をしながら僕を待っていた。
たくさんの親子が過ごす和やかな公園の風景に黒いスポーツカーは面白いくらい溶け込んでいない。
「・・・怪しすぎる」
どう見ても不審者だ。
しかもとびきり上等な。
僕はお母さん方の痛いくらいの視線を浴びながらその車に近づき、窓ガラスを小さくノックした。
すると鳴人がその音に顔を上げ、かけていたサングラスを外す。
いくら眩しいのが嫌いだからってそこまであからさまに怪しい格好をしなくてもいいのに・・・。
周りからどう見られてるかなんてまったく気にしてないんだろうけど、コイツの場合。
ひっそりと溜息をついていると、車の中の不審者は身体を伸ばしてドアを内側から開けてくれた。
余計な一言を添えて。
「遅い」
「しかたないだろ。学校から歩いたらこのくらいになるって」
できるだけ視線を集めないように素早く助手席に乗り込み、シートベルトをする。
「だから迎えに行くって言ったろ」
「こんな目立つ格好で来られたら下校途中の生徒の注目の的だっての」
なにしろ黒のスポーツカーでグラサンですからね。
そりゃ嫌でも目立つでしょうよ。
しかもそれが全然似合ってるんだから本当に鳴人は嫌味な男だと思う。
「じゃあまずは服だな」
嫌味な男がエンジンを入れて車が低く呻りはじめる。
「服?制服じゃダメなの?」
「俺は別にいいけど、そっちのほうがよっぽど目立つだろ」
・・・そういうもんなのか。
今から向かう場所は僕の人生で無縁だった場所。
ここはそういうところに行き慣れている鳴人の言葉に従った方がいいのかもしれないと僕は黙った。
今日は僕の誕生日前日。
鳴人が突然『店予約したから飯行くぞ』なんて言い出したのが昨日。
しかもその店が普段は絶対素通りするだけのような高級ホテルのレストランだというからびっくりだ。
そもそもなんで鳴人が僕の誕生日を知ってるのかと思ったら、情報の出所は兄さんだったらしい。
僕たち家族は今まで誕生日は親子水入らずで過ごしてきた。
特に父さんが死んでからは毎年元気に一年を過ごせたことを父さんに感謝するためにも、できるだけ家族全員が揃うようにしている。
そのことを兄さんが鳴人に言ったらしく、じゃあ前の日に二人で祝おうと考えたみたいだ。
僕としては別にいつも二人でいるし特別なことなんてなにもしなくていのにと思ったけど、やっぱり改めて祝ってくれるのは嬉しい。
でも正直なところ・・・こうして鳴人が当然のように僕のことを考えてくれているのがなによりのプレゼントだと思う。
母さんには、今日は友達と誕生祝いも兼ねてみんなで勉強合宿をすると言ってあるから、外泊の許可も・・・・・・って、別に変なこと考えてるわけじゃないけど。
・・・それでもやっぱり自分の記念日に、す、好きな人と過ごせるのはいいなぁ・・・なんて恥ずかしいけどそんなことを思ってみたり。
ヤバい・・・最近予想以上に考え方が乙女だ。
車が動き出してからしばらくして、普段はあまり行かない街を走っていることに気づいた。
てっきり僕の家に一回戻ってから着替えてくると思っていたので慌てて隣の鳴人を見る。
「家に帰るんじゃないの?」
「いや。せっかくだから新しいの買った方がいいだろ」
「そんなお金持ってきてないし」
「俺が買うからいい」
当然のように鳴人は言うけれど、それはちょっと・・・甘えすぎだと思う。
僕は鳴人にお金を出してもらって付き合ってるわけじゃないし、いくら誕生日だからってそこまでさせるのはなんだか違う気がする。
心の中で思ったことを口に出すのは難しいけど、とにかくそう思うってことを鳴人に伝えると、鳴人はちょっと驚いた顔をしてそれからあっさり頷いた。
「じゃあお前の家に寄るか」
その顔はなんだかちょっぴり嬉しそうだった。
僕にはなぜそんな顔をするのかわからなかったけど。
たくさんの親子が過ごす和やかな公園の風景に黒いスポーツカーは面白いくらい溶け込んでいない。
「・・・怪しすぎる」
どう見ても不審者だ。
しかもとびきり上等な。
僕はお母さん方の痛いくらいの視線を浴びながらその車に近づき、窓ガラスを小さくノックした。
すると鳴人がその音に顔を上げ、かけていたサングラスを外す。
いくら眩しいのが嫌いだからってそこまであからさまに怪しい格好をしなくてもいいのに・・・。
周りからどう見られてるかなんてまったく気にしてないんだろうけど、コイツの場合。
ひっそりと溜息をついていると、車の中の不審者は身体を伸ばしてドアを内側から開けてくれた。
余計な一言を添えて。
「遅い」
「しかたないだろ。学校から歩いたらこのくらいになるって」
できるだけ視線を集めないように素早く助手席に乗り込み、シートベルトをする。
「だから迎えに行くって言ったろ」
「こんな目立つ格好で来られたら下校途中の生徒の注目の的だっての」
なにしろ黒のスポーツカーでグラサンですからね。
そりゃ嫌でも目立つでしょうよ。
しかもそれが全然似合ってるんだから本当に鳴人は嫌味な男だと思う。
「じゃあまずは服だな」
嫌味な男がエンジンを入れて車が低く呻りはじめる。
「服?制服じゃダメなの?」
「俺は別にいいけど、そっちのほうがよっぽど目立つだろ」
・・・そういうもんなのか。
今から向かう場所は僕の人生で無縁だった場所。
ここはそういうところに行き慣れている鳴人の言葉に従った方がいいのかもしれないと僕は黙った。
今日は僕の誕生日前日。
鳴人が突然『店予約したから飯行くぞ』なんて言い出したのが昨日。
しかもその店が普段は絶対素通りするだけのような高級ホテルのレストランだというからびっくりだ。
そもそもなんで鳴人が僕の誕生日を知ってるのかと思ったら、情報の出所は兄さんだったらしい。
僕たち家族は今まで誕生日は親子水入らずで過ごしてきた。
特に父さんが死んでからは毎年元気に一年を過ごせたことを父さんに感謝するためにも、できるだけ家族全員が揃うようにしている。
そのことを兄さんが鳴人に言ったらしく、じゃあ前の日に二人で祝おうと考えたみたいだ。
僕としては別にいつも二人でいるし特別なことなんてなにもしなくていのにと思ったけど、やっぱり改めて祝ってくれるのは嬉しい。
でも正直なところ・・・こうして鳴人が当然のように僕のことを考えてくれているのがなによりのプレゼントだと思う。
母さんには、今日は友達と誕生祝いも兼ねてみんなで勉強合宿をすると言ってあるから、外泊の許可も・・・・・・って、別に変なこと考えてるわけじゃないけど。
・・・それでもやっぱり自分の記念日に、す、好きな人と過ごせるのはいいなぁ・・・なんて恥ずかしいけどそんなことを思ってみたり。
ヤバい・・・最近予想以上に考え方が乙女だ。
車が動き出してからしばらくして、普段はあまり行かない街を走っていることに気づいた。
てっきり僕の家に一回戻ってから着替えてくると思っていたので慌てて隣の鳴人を見る。
「家に帰るんじゃないの?」
「いや。せっかくだから新しいの買った方がいいだろ」
「そんなお金持ってきてないし」
「俺が買うからいい」
当然のように鳴人は言うけれど、それはちょっと・・・甘えすぎだと思う。
僕は鳴人にお金を出してもらって付き合ってるわけじゃないし、いくら誕生日だからってそこまでさせるのはなんだか違う気がする。
心の中で思ったことを口に出すのは難しいけど、とにかくそう思うってことを鳴人に伝えると、鳴人はちょっと驚いた顔をしてそれからあっさり頷いた。
「じゃあお前の家に寄るか」
その顔はなんだかちょっぴり嬉しそうだった。
僕にはなぜそんな顔をするのかわからなかったけど。
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