ぼたん ~不器用な歌い手達が紡ぐ音~

雪見桜

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本編

15.タツの過去2(side.タツ)

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遠い親戚からスカウトされた時、俺はまだ高校生だった。
初めは芸能界という華やかな世界に興味があっただけだ。
たったそれだけの理由で事務所に入った。
人前に立つことも運動も得意だった俺は、タイミングの良さも手伝って高校卒業と同時にフォレストのメンバーに選抜される。
始まりはやはり運としか言いようがない。
そしてそんな感じでスタートしたから、自分は特別な存在なのだとどこかで自惚れていた。
芸能界というのはそんな特別な人間ばかりの世界だと知るまでは。

「お前いい加減にしろよ、なんでこんなことも出来ないんな。寝る時間があるならもっと練習してこい」
「本当、リュウが出来ないせいで俺達の評判が下がんだからさ……少しは本気でやってよ」
「あー、またここやんのかよ。飽きたっつの」
「まあまあ、その辺にしといたら? リュウもしっかりやれ、な?」

普通より少し得意という程度の能力では何もかも太刀打ちできなかった。
本気で芸能界を上りつめようとしている奴の情熱にも、本気で特別な奴の技術にも俺は追いつかない。
たかがアイドルだと侮っていた俺に周りは容赦なかったのだ。
得意なはずの運動も、そんな奴らばかりの中では霞む。
芸能界を職場とするということは予想以上に大変な世界だった。
結成が決まって半年は、メンバーにもスタッフにも怒られ通し。
おそらくこれが人生で初めての挫折だ。

すぐに何かを悔い改めた訳ではなかった。
しかしそんな環境に揉まれていく中で、仕事というものを理解していく。
プロの世界がどういうものなのか、甘えの許されない世界だと知る。

フォレストのメンバーは皆、自分にも他人にも厳しい奴等だった。
初めから俺が足を引っ張れば容赦なく責めるし、文句も嫌味も言う。
テレビでのあいつらしか知らない人が見れば驚くだろう。
仕事に関わるとき、4人中3人はニコリともしない。
プライドが高く、しかしそれに見合うだけの凄まじい努力を重ねその地位を獲得してきた奴らだ。
俺とは違い、強い意志でこの世界を上りつめようとしていた奴等だった。
最年少で、流されるままで、ヘラヘラしていた俺。
ずいぶんと腹の立つ存在だったんだろうと今なら分かる。
それでも叱咤されるだけの自分が情けなく惨めで、俺も必死に食らいついていった。
今思えばあの時のあの甘えた状態でよくやったと思う俺は、結局のところやっぱり自分に甘い人間なんだろう。

「んだよ、やればできんじゃねえか、ガキ」
「……出来たら出来たで評価されてるし、それも腹立つな」
「まだ一回だけだろが。こいつが甘えたには変わりねえよ」
「はは、お前達素直じゃないなあ」

しかし、優しいだけでも厳しいだけでも嫌味なだけでもない仲間に褒められた時、俺の中で何かが弾けたのは今も覚えている。
音楽がどうのとか、そんなもの以前の話。
それでも俺が音楽に価値を見いだした初めの理由は紛れもなくそれだ。

俺が頑張れば、周りは応えてくれる。
学校と違い結果が伴わなければ一切評価などしてくれなかったが、それでも努力が実れば相応に返って来るものがあった。
初めはただ怒鳴られるのが嫌だっただけだ。
嫌味ばかり言われるのも、蔑んだように見られるのも、そうして惨めな気持ちになるのも嫌だっただけ。
くだらないプライドがその時ばかりは良い方に向いたのだろう。

変化はそこから少しずつ起きていった。
それまで大した努力もしてこなかった俺の初めての努力。
努力と口に出すのも嫌なほど血の滲む日々を過ごした。
足はマメだらけ、体はいつも筋肉痛、頭は飽和状態でいつも仕事のことばかり。
正直心身ともにきつかった。投げ出したくなることも数えきれないほどだ。
それでも人生初めて真剣に取り組んで形になっていくと、そこに達成感が加わっていく。

それまでただ付いていくだけで精いっぱいだったダンスに、自分でアレンジが付けられるようになっていく。
覚えることだけに精一杯だった曲の歌詞に目が向く様になる。
ただクールに歌うんじゃなく、表情がつくようになる。
一つ一つ積み重ねだ。
重ねていくうちに、不安要素でしかなかった莫大な量の仕事が誇りに変わっていく。
与えられる仕事だけではなく、そこから自分が何かを供給する余裕が出てくる。
そうするとその分だけ反応があり、それが案外楽しい。

自分にしか出せない色。
音楽というものは俺にそんなことを教えてくれた。
やっと仕事に対する価値を見いだし始めたのは、フォレスト結成からすでに1年半近く立った頃だ。
気付けばデビューを果たし、事務所の力も借りて、俺達は一気に芸能界の階段を駆け上がっていった。
そうすればそれまで以上に音楽に関わる機会が増える。

バラエティーの仕事も楽しかったが、自分にとって一番心が躍るのはやはり本業をしているときだった。
曲が出来上がる過程を近くで見て、そこから自分がどう表現するのか想像して、体現する。
その作業がたまらなく好きだった。
リズムに乗って体を動かすのは楽しい。
大勢の人の前で歌を歌い、一緒に盛り上がるあの感じは言葉では表し切れない。

「……初めの頃が嘘みたいに熱心だなお前」

リーダーである最年長、シゲにそう言われたことを今も覚えている。
それに「まあな」なんて即答するほど、俺はアイドル業にのめりこんでいた。


「あーあ、笑顔が魅力で歌が上手いフォレストの弟……熱狂的なファンたくさん持ちやがって、つまんない」

一番人気の隼人は、裏では嫌味ばかりで性格不器用だ。
しかし誰よりも才能と情熱を持ったエースだったと思う。


「……んなことよりお前の猫かぶりどうにかなんねえのか、隼人。気味悪い」

俺と一番歳が近かったタカは、基本的には何もかも乱暴だ。
それでも周りをよく見る奴で、案外面倒見も良い。


「はは、最初はどうなるかと思ったけど良かったじゃないか。俺は何だか嬉しいよ」

唯一裏表のほとんどない大地は、八方美人ではあったが基本的に穏やかで優しい。
シゲと並んで大人だったと今なら分かる。

個性豊かな仲間は皆どこか一癖も二癖もあるような奴ばかりで、しかしそんな皆と共に音を紡ぐ時間が俺は好きだった。
曲を共に作り上げていく過程で、何度もぶつかりながら俺達の絆は深まっていく。
初めは嫌いにすら思っていた4人を、気付けば仲間だと迷いなく言えるようになったのはいつのことだったか。
フォレストという居場所は、俺にとっての全てになっていた。
芸能界にただ幻想を抱いていた昔と違い、シビアな面も汚い面も含め芸能界の仕事を心底愛するようになっていく。

俺の人生の絶頂はやっぱり今でもフォレストで過ごしたあのわずかな時間なんだろう。
5年経った今でも何度も何度も夢に見ては縋りたくなる、眩しい場所。

……その夢のような日常が終わったのは、あまりに突然だった。





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