ぼたん ~不器用な歌い手達が紡ぐ音~

雪見桜

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本編

37.同級生

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「ごごごごめんなさい!」
「え、いや、なぜ」
「ごめんなさいいいい」
「だからなぜ!?」

沈黙すること5分。
なんとか私から声を発することができたのは奇跡的だった。
本人たちのいない所で勝手に2人の話をしてしまったという罪悪感で、必死に頭を下げる。
直後に返ってきたのは同音量の山岸さんの声。
傍から見たらさぞかし不思議な光景だろう。
けれど当然、そんなことを考えられる余裕はなかった。

「ふは、なるほど。面白いなあ、さすが」

1人余裕で笑っているのはタツだ。
どうすればいいのか分からず思わず縋るように見てしまう。
そんな様子を見て山岸さんが憤った様子でこっちのテーブルにまで詰めてきた。
そして私の隣で座り、正面のタツをキッと睨む。

「そもそも! アンタが怪しいからここまで付けてきたんでしょうが!」
「ああ、やっぱり後付けてたんだ、やたらと視線感じると思った」
「気付いてたんかい! 尚更タチ悪いわっ」

……話のテンポが早すぎてついていけない。
明らかに不穏な空気に、ただ私はあわあわとうろたえるだけだ。

「チトセのポスターもらいに店行ったら中島さんが怪しいおっさんに連れ去られてるとか、どんな犯罪よ!」
「おっさんとは酷いな、俺一応まだ20代半ばなんだけど」
「犯罪には変わりないっつの、アホか!」

怒る山岸さんに対して、タツは相変わらずカラカラ笑っている。
ピリピリした空気なはずなのに和やかにも見えてしまうのは気のせいか。
ハラハラしながら様子を見守っていると、後ろからポンと肩を叩かれた。
振り返れば、そこには山崎さん。

「中島さん、本当に大丈夫? この人とどんな関係なの」

淡々と、あまり声に表情を乗せず聞いてくる彼女。
目の前で白熱している山岸さんとは対称的だ。

「そ、そ、その、タ、タツは私の憧れです!」
「憧れ? このおじ……男性が?」
「は、はい! 恩人で、師匠、で、憧れです!」
「……洗脳」
「おーい、そこのお嬢さん。無表情で物騒なこと言わないでくれない? してないからね、そんなこと」

それにおじさんでもないよ……とタツが付け足した。
その姿を山崎さんはジッと見つめて、その後私に再び視線を戻す。

「とりあえず、無理やり連れ出されたり、金品要求されたり、変な薬かがされたりしてないんだね?」
「へ? は、はい」
「正直こんな黒づくめの男が女子高生と2人きり……しかも中島さんみたいな真面目な子となんて、どう見ても犯罪くさくて後付けたんだけど。ただの無駄ってことで大丈夫なのね?」

その言葉に、やっと私は2人が私のことを心配してくれていたのだと知る。
タツは危険では勿論ないし、その心配はちゃんと杞憂だと分かっているけれど、それでもここまで来てくれたということが私は嬉しい。
良いものは良くて、駄目なものは駄目。
そうはっきり言えて、いつも輪の中でキラキラしている可愛い人達。
私は自分がハッキリできない性格のせいか、どうにもハッキリとした人が好きらしい。
川口さんや村谷さんも、あんな終わり方にはなってしまったけれど、ああキッパリと物を言えるところを私は尊敬していた。
おまけに山岸さんと山崎さんは、こうして私の傍にまで来て心配して言ってくれてる。
本当に良い人達。
思わず嬉しくて涙ぐんでしまう。
それにぎょっとしたのはなぜかタツだ。

「ちょ、チエ。この子たちの気持ちが嬉しいのは分かるけど、今泣くのは堪えて。本気で俺犯罪者扱いされるから」
「扱い、じゃなくて、犯罪者でしょ。中島さん大丈夫?」

真横で私の背をさすってくれる山岸さん。
感動してしまって言葉にならずコクコク頷く私。

「だいたい、屋内でもの食べてる時まで帽子なんて被ってるから怪しまれんじゃない。帽子外してよ」

私を庇うようにずいっと前に出ながら山岸さんがそう言った。
そこでタツ自身も帽子の存在をはじめて思い出したらしい。

「あー、なるほどな。ごめん、なんか癖になっててさ。5年も経ってるのにな」
「はあ? 何言ってんの、訳わかんないんだけど」
「まあ気にしないで。俺もすこーしだけワケアリってだけだよ」

私なら分かるタツの言葉。
けれどタツが何者なのかを知らない山岸さんがそうすぐ理解できないのも自然な話だ。
帽子の中身を覗こうと視線を落とす山岸さん。
タツが気付いて苦笑しながら帽子を取る。
その瞬間、山岸さんの顔が驚愕に染まった。

「あ、あ、アンタッ。ま、まさかフォレストのリュ」
「はーい、大声出さないでね。他のお客さんに迷惑だよ」

笑みのまま表情一つ変えずにタツが山岸さんの口を手で塞ぐ。
まだまだ俺も完全に忘れ去られたわけじゃないんだなあと呟きながら。

「本当やましいことないから、安心して。チエとは同志みたいなものだよ」

タツは両手をヒラヒラと上げて、無罪を主張するようなポーズをしている。
そうした後、クスクスと笑って私を見た。

「ね、チエ。大丈夫だって言っただろ? 良かったね、心配してくれる友達がいて」

優しくて温かな声。
心配してくれる人がいたのは本当に嬉しい。
……友達と言うのはまだ恐れ多いけれど。
でもやっぱり嬉しい気持ちはちゃんと伝えたくて頷いた。
すると満足げにタツの笑みが深まる。
ドキンと胸が痛いくらい鳴った。

「あ、ありがとうございます。すごく、嬉しい」

そうぽつりと、けれど喜びの色を乗せた声は何だか明るい。
山岸さんと山崎さんはそんな私を見て小さくため息をついた。

「なんだろう、確か中島さんって年上だよね? なのにこの妹感」
「……純粋すぎてどうすればいいのか迷うね、確かに」

残念ながらその評価はよく分からなかったけれど。

「ま、仲良くしてやってよ。チエって俺の知る限り、かなりの天然でうっかり友達作り乗り遅れちゃうタイプだからさ」

山岸さんと山崎さんは顔を見合わせた。
あくまで爽やかに笑うタツ。
ポケットから財布を取り出すと、お札を数枚テーブルに置く。

「いやいや、元気をもらった。気分転換するもんだな。チエ、これで2人となんか食べて帰りな」
「え……え!? だ、駄目です! こんなにもらえません!」
「気にしない気にしない。この前のお礼ってことで」
「……この、前? お礼……? あ、あの私覚えが…って、えええ!? ちょ、タ、タツ! まっ」

タツは爽やかな笑みのまま、颯爽と去ってしまった。
反論する前に笑顔で押し切られ固まる私。
ど、どうしよう。
このお金、使って良いの?
でも全部おごってもらって、その上2人の分まで。
どうやってこの場を切り抜ければ良いのか全く分からない。

「……爽やかな顔して有無言わせないって、なんか怖いんだけど」
「さすが元とは言え芸能人。……名前しか知らなかったけど。真夏よく顔まで知ってたね、あの人の事」
「お母さんが昔からフォレスト大ファンで嫌になるほど見せられてきたからね」
「なるほど。血は争えない」
「うっ……ごめんって、いっつもチトセの話ばかりして」


そんな会話すら頭に入っていなかった。







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