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最愛の婚約者に、他に好きな人がいるわけがないでしょ
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「絶対上手くいきませんよね……」
「あぁ……そう思う」
これが、伯爵令嬢の私ミリアナ=フランフール十五歳と、レインハルト=フィッカルオ次期公爵十六歳との婚約が破綻するきっかけになった会話だった。
♢
少し時間をさかのぼって順に説明しよう。
私がいつものように公爵家に到着して、庭園でレインハルト様を待っているときのことだった。
「あらー、ミリアナさんじゃありませんか」
「シャーリャ王女様!? これはこれはご無沙汰しています」
キリッとした目つきで威厳はあるものの、その大きな瞳が可愛らしい。
頭には金色の髪飾りを付けていて、青のふわりとしたドレスが特徴的なシャーリャ王女、十四歳。
私は彼女のことが苦手だ。
「今日もレイハルとデートですか?」
「はい、そうです」
「どうして外にいるのですか?」
「今日は少々多忙のようなので、庭園で待っててほしいとのことで……」
シャーリャ王女はレインハルト様は長い付き合いがあるからか、いつも『レイハル』とあだ名で呼んでいる。
それにしても、そんなことを聞いてなにか意味でもあるのだろうか。
シャーリャ王女は周りを見渡し、私と王女の護衛意外は誰もいないことを確認しているかのように見えた。
「ミリアナさん。少しお話をしてもよろしいですか?」
「はい、わかりました」
隠しているようだけれど、私に対して物凄い敵対視しているかのような表情、手もグーの字になっていて、まるで怒っているかのようだった。
「レイハルを奪わないでください」
「はい?」
「公爵の伯父様も、どうして私とレイハルで婚約に薦めてくれなかったのか理解ができません。そもそも、私とレイハルは長いながい付き合いでずっと一緒にいるんだと思っていたくらい……」
「お……お嬢様……、さすがにそのような態度は……」
「じいやは黙っていなさい!!」
シャーリャの怒声が響き渡り、じいやと呼ばれていた王女の護衛も一歩引く。
両親たちの意図はともかくとして、婚約者の私に直談版してくるとはさすが肝がすわった王女だ。
わざわざ私に声をかけてきたのも、周りに誰もいないからチャンスだとでも思っていたに違いない。
「つまり、私とレインハルト様の婚約を解消してほしいということですか?」
「私の口からはそんなこと言えませんわ!」
「申し訳ございませんが、いくら王女様の誘導でもこればかりは従えません」
もしもこれがレインハルト様や両親から直々に婚約は取りやめとするなどと言われたら従うしかないだろう。
だが、今回の場合はシャーリャ王女の個人的な感情によってのものだと理解できる。
だから、当然却下だ。
「実はレイハルも私のことを愛してくれているのですよ」
「え? なにを言っているのですか?」
「そんなに怖い顔しなくてもいいじゃありませんか。レイハルは我慢して婚約を望んでいたのですよ。ミリアナさんはそんなことも気がつけずに共に過ごしていたのですか?」
シャーリャ王女は自信満々な表情で訴えてきた。
私はそれでもレインハルト様がそうだったとは考えにくいと思っている。
だが、シャーリャ様のこういう顔をするときだけは、確信を持っているときのものであることも知っていた。
「今度本人に確認してみればいいではありませんか」
「…………」
気がつけば、なにも言い返せなくなってしまった。
「無言ということは、少しは納得したと判断していいのですね?」
「いえ、そういうわけではありませんが……」
どうして私はこんなことを言われただけで戸惑ってしまうのだろうか。
レインハルト様のことは心から慕っているお相手だ。
彼が幸せになれる道ならば、私はとことん協力してついていくつもりでいた。
……つまり、そういうことか。
私は真実を知りたいと思ってしまったのだ。
レインハルト様がシャーリャ王女のことを本当は愛しているが、婚約者の私のことを気遣ってなにも言えずに我慢してくれている可能性はゼロではない。
「ははぁん、ミリアナさんの意図が読めました」
「え?」
「ミリアナさんはお優しいですからね。その点は重々承知ですよ。だから、レイハルが私のことを好きだということを彼の口から言わせたくないのでしょう?」
なんか少し違う気もするけれど、ニュアンスとしては合っているかもしれない。
私はどんな状況であっても、レインハルト様だけは絶対に傷つけたくないし、幸せになってほしいと思っている。
「つまり真実がわかったら、レイハルがミリアナさんのことを嫌いになれば良いのですよ」
「はい?」
「レイハルだってミリアナさんのことが嫌になれば、婚約破棄をしてもおかしくはありません。そうすれば、レイハルは傷つくこともなく本命の私と一緒になれる。一石二鳥じゃありませんか……」
どこまでも身勝手な発言ばかりの王女だ。
私に全ての泥をかぶってでも身を引けと言っているようにしか聞こえない。
ここまで言われてしまうと、レインハルト様のことを信じたくとも、気になってしまう……。
「じゃ、よろしく頼みますわよ。もちろん、しっかりやってくれないと王女として色々と考えもありますからね」
「…………」
私は黙秘を貫いた。
ここで『はい』とだけは決して言ってはならない。
シャーリャ王女は満足そうにしながら馬車に戻っていき、本邸に行くのかと思えばそのまま正門の方角へ向かってしまった。
つまり、私に用事があったということで間違いないだろう。
「はぁ……疲れた」
これからせっかくレインハルト様との時間を過ごせるのに、シャーリャ王女の言葉が脳裏から離れない。
「ま、レインハルト様に聞く必要もないか」
私はただ嫌がらせを受けていただけにすぎない。
一応、シャーリャ王女が敷地に入ってきて挨拶したことだけは報告する程度にしておこう。
おっと、このタイミングでレインハルト様が護衛と共にやってきた。
私の曇ってしまった顔を消去するために、一度顔をポンポンっと叩いて気を引き締め直した。
「あぁ……そう思う」
これが、伯爵令嬢の私ミリアナ=フランフール十五歳と、レインハルト=フィッカルオ次期公爵十六歳との婚約が破綻するきっかけになった会話だった。
♢
少し時間をさかのぼって順に説明しよう。
私がいつものように公爵家に到着して、庭園でレインハルト様を待っているときのことだった。
「あらー、ミリアナさんじゃありませんか」
「シャーリャ王女様!? これはこれはご無沙汰しています」
キリッとした目つきで威厳はあるものの、その大きな瞳が可愛らしい。
頭には金色の髪飾りを付けていて、青のふわりとしたドレスが特徴的なシャーリャ王女、十四歳。
私は彼女のことが苦手だ。
「今日もレイハルとデートですか?」
「はい、そうです」
「どうして外にいるのですか?」
「今日は少々多忙のようなので、庭園で待っててほしいとのことで……」
シャーリャ王女はレインハルト様は長い付き合いがあるからか、いつも『レイハル』とあだ名で呼んでいる。
それにしても、そんなことを聞いてなにか意味でもあるのだろうか。
シャーリャ王女は周りを見渡し、私と王女の護衛意外は誰もいないことを確認しているかのように見えた。
「ミリアナさん。少しお話をしてもよろしいですか?」
「はい、わかりました」
隠しているようだけれど、私に対して物凄い敵対視しているかのような表情、手もグーの字になっていて、まるで怒っているかのようだった。
「レイハルを奪わないでください」
「はい?」
「公爵の伯父様も、どうして私とレイハルで婚約に薦めてくれなかったのか理解ができません。そもそも、私とレイハルは長いながい付き合いでずっと一緒にいるんだと思っていたくらい……」
「お……お嬢様……、さすがにそのような態度は……」
「じいやは黙っていなさい!!」
シャーリャの怒声が響き渡り、じいやと呼ばれていた王女の護衛も一歩引く。
両親たちの意図はともかくとして、婚約者の私に直談版してくるとはさすが肝がすわった王女だ。
わざわざ私に声をかけてきたのも、周りに誰もいないからチャンスだとでも思っていたに違いない。
「つまり、私とレインハルト様の婚約を解消してほしいということですか?」
「私の口からはそんなこと言えませんわ!」
「申し訳ございませんが、いくら王女様の誘導でもこればかりは従えません」
もしもこれがレインハルト様や両親から直々に婚約は取りやめとするなどと言われたら従うしかないだろう。
だが、今回の場合はシャーリャ王女の個人的な感情によってのものだと理解できる。
だから、当然却下だ。
「実はレイハルも私のことを愛してくれているのですよ」
「え? なにを言っているのですか?」
「そんなに怖い顔しなくてもいいじゃありませんか。レイハルは我慢して婚約を望んでいたのですよ。ミリアナさんはそんなことも気がつけずに共に過ごしていたのですか?」
シャーリャ王女は自信満々な表情で訴えてきた。
私はそれでもレインハルト様がそうだったとは考えにくいと思っている。
だが、シャーリャ様のこういう顔をするときだけは、確信を持っているときのものであることも知っていた。
「今度本人に確認してみればいいではありませんか」
「…………」
気がつけば、なにも言い返せなくなってしまった。
「無言ということは、少しは納得したと判断していいのですね?」
「いえ、そういうわけではありませんが……」
どうして私はこんなことを言われただけで戸惑ってしまうのだろうか。
レインハルト様のことは心から慕っているお相手だ。
彼が幸せになれる道ならば、私はとことん協力してついていくつもりでいた。
……つまり、そういうことか。
私は真実を知りたいと思ってしまったのだ。
レインハルト様がシャーリャ王女のことを本当は愛しているが、婚約者の私のことを気遣ってなにも言えずに我慢してくれている可能性はゼロではない。
「ははぁん、ミリアナさんの意図が読めました」
「え?」
「ミリアナさんはお優しいですからね。その点は重々承知ですよ。だから、レイハルが私のことを好きだということを彼の口から言わせたくないのでしょう?」
なんか少し違う気もするけれど、ニュアンスとしては合っているかもしれない。
私はどんな状況であっても、レインハルト様だけは絶対に傷つけたくないし、幸せになってほしいと思っている。
「つまり真実がわかったら、レイハルがミリアナさんのことを嫌いになれば良いのですよ」
「はい?」
「レイハルだってミリアナさんのことが嫌になれば、婚約破棄をしてもおかしくはありません。そうすれば、レイハルは傷つくこともなく本命の私と一緒になれる。一石二鳥じゃありませんか……」
どこまでも身勝手な発言ばかりの王女だ。
私に全ての泥をかぶってでも身を引けと言っているようにしか聞こえない。
ここまで言われてしまうと、レインハルト様のことを信じたくとも、気になってしまう……。
「じゃ、よろしく頼みますわよ。もちろん、しっかりやってくれないと王女として色々と考えもありますからね」
「…………」
私は黙秘を貫いた。
ここで『はい』とだけは決して言ってはならない。
シャーリャ王女は満足そうにしながら馬車に戻っていき、本邸に行くのかと思えばそのまま正門の方角へ向かってしまった。
つまり、私に用事があったということで間違いないだろう。
「はぁ……疲れた」
これからせっかくレインハルト様との時間を過ごせるのに、シャーリャ王女の言葉が脳裏から離れない。
「ま、レインハルト様に聞く必要もないか」
私はただ嫌がらせを受けていただけにすぎない。
一応、シャーリャ王女が敷地に入ってきて挨拶したことだけは報告する程度にしておこう。
おっと、このタイミングでレインハルト様が護衛と共にやってきた。
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