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17話
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今週も張り切ってカフェ営業をやっていくぞー!
と、気合いを入れて店のドアを開ける。
今日からお客さんが来るまでの間は、少しでもカフェのことを知ってもらえるよう、外でひたすら声出しをするつもりだった。
ところが、信じ難い光景が広がっていた。
「あいたあいたあいた!」
「お~、マスター可愛い!」
「あんなに可愛い子に淹れてもらったコーヒーはさぞかし美味いんだろうな」
「どこかで見たことあるような顔だなぁ」
オープン時間から、店内が満席になるほどの人だかりができていた。
先週まではこんなことはなかったのに、どうしていきなり⁉︎
これはもっと気合いを入れないとっ!
「おはようございます! カフェチェルビーへようこそ! 順番にご案内いたします」
あっという間に店内が満席になった。
順番にオーダーを聞き、飲み物の用意をしていく。
さすがに一杯づつ淹れていたら長時間待たせてしまう。
こういった場合は、紅茶とお茶なら大きなポットに茶葉を入れお湯を注ぐ。
茶葉の風味と味がお湯に浸透するまでに、コーヒーも丁寧に抽出していく。
高原の三姉妹カフェでは、基本このやり方だった。
唯一お姉様たちとやり方が違う点としては、出来上がった飲み物をカップに注ぐ際に、美味しくなるように一杯づつ祈りをこめる。
ここだけは絶対に欠かせない。
お母様から教わっていたことは、たとえ時間がかかっても厳守する。
多少待たせてしまったが、全てのお客さんに提供が終わった。すでに外で待っている人までいる。
大変嬉しいことではあるが、さすがにおかしい。
こういうときは、聞くのが一番だ。
一番目に待ってくれていた、二人組の男性に声をかける。
「本日一番目に待ってくださりありがとうございます」
「いやいや、待ったかいがあったってもんだ。今まで口にしたこともないくらいに美味い! それに、なんだか元気まで出てくるような感覚もある」
美味しいと言ってくれるのは大変嬉しい。
「ところでキミ、もしかして高原の三姉妹カフェの人か?」
「へ? は、はい。そうでしたが……」
「おい、やっぱそうだったぜ!」
「だよな。この味は高原の三姉妹カフェで飲んだものと似ているし!」
「わかるのですか?」
「そりゃそうだろう。特に高原の三姉妹カフェで出されたコーヒーはなんつーか、独特の香りと深みがあった。それに、俺たちの仕事上、格安のもんと本物の味の違いくらいはわかるってもんだ」
この男性たちは、王都の商店街でコーヒー豆や紅茶、お茶など、飲み物の素材となる物を販売しているのだと教えてくれた。
「ま、俺たちはどっちかっつーと庶民向けに店をやっている。一杯100ゴールドもかからずに自宅で手軽に味のある飲み物を楽しめるってのが売りなんだ。もちろん、味はその分大幅に劣るが。それでも需要は結構あるんだぜ。ま、それとこの店の味を比べるってのも失礼ってもんか。誰でもわかるだろうしな」
「いやあ、さすがあのお方が絶賛しているってだけのことはある。しかも、これだけのクオリティでも一杯400ゴールドだろ? こりゃあライバル店として意識しねーとだな」
冗談まじりかのように、笑いながら言っていた。
あのお方と言っていたが、おそらく……。
「あの方ってバーバラ様ですよね。もし今度お会いしたらお礼をしなければ……」
「はい?」
結局周りの方々に協力してもらったのだなぁ。
私ではこんなに宣伝できなかっただろうし、お客さんを集めてくださったのだから、売り上げの一部を渡さないとと今の心境を話す。
同じ商売をしているわけだから、先輩方の意見も聞きたかったため、つい話してしまった。
「あんま気にしないで良いと思うけどな。この味を出されちゃ、俺たちだって自慢して教えたくなるし」
「だな。別にキミが宣伝するよう頼んだわけじゃないんだろ? むしろ、心から気に入った店なら誰だって自然と話したくなるもんだ。つまり、キミの実力でこれだけの客が来たってことだと思うけどな」
「私の実力……?」
店内はそんなに賑わっているわけではない。
普通に会話をしていたため、他のお客さんにも会話は聞こえていたと思う。
その人たちも話しかけてきた。
「はははっ。商店会会長が褒めてますからね。自信を持って良いと思いますよ」
「会長は良いものは良い、悪いものは悪いってハッキリと言いますからね」
「でもほんとこの紅茶、美味しくてなんだか癒されている感覚もあります。本当に400ゴールドで良いのですか?」
店内にいる全員がニコニコと笑顔で褒めてくれる。
高原の三姉妹カフェでは、ほとんど裏庭で収穫などをしていた。
店内に入るのもほんのわずかな時間だったから、お客さんと関わる時間も少なかった。
「みなさま、ありがとうございます! これからもこの価格でやっていきます。今後ともカフェチェルビーをよろしくお願いいたします」
お客さんたちに深々と頭を下げた。
今日、チップを除いたら一番の売り上げと杯数を記録した。
後片付けが追いつかず、途中で使用人として常駐してくれている方々にも洗い物を手伝ってもらった。
これくらい忙しい毎日が続きそうだったら、何人か雇って手伝いが必要になってきそうだ。
早めに動いておかなくては。
休む暇もなく大変だったが、明日もまた頑張ろう。
と、気合いを入れて店のドアを開ける。
今日からお客さんが来るまでの間は、少しでもカフェのことを知ってもらえるよう、外でひたすら声出しをするつもりだった。
ところが、信じ難い光景が広がっていた。
「あいたあいたあいた!」
「お~、マスター可愛い!」
「あんなに可愛い子に淹れてもらったコーヒーはさぞかし美味いんだろうな」
「どこかで見たことあるような顔だなぁ」
オープン時間から、店内が満席になるほどの人だかりができていた。
先週まではこんなことはなかったのに、どうしていきなり⁉︎
これはもっと気合いを入れないとっ!
「おはようございます! カフェチェルビーへようこそ! 順番にご案内いたします」
あっという間に店内が満席になった。
順番にオーダーを聞き、飲み物の用意をしていく。
さすがに一杯づつ淹れていたら長時間待たせてしまう。
こういった場合は、紅茶とお茶なら大きなポットに茶葉を入れお湯を注ぐ。
茶葉の風味と味がお湯に浸透するまでに、コーヒーも丁寧に抽出していく。
高原の三姉妹カフェでは、基本このやり方だった。
唯一お姉様たちとやり方が違う点としては、出来上がった飲み物をカップに注ぐ際に、美味しくなるように一杯づつ祈りをこめる。
ここだけは絶対に欠かせない。
お母様から教わっていたことは、たとえ時間がかかっても厳守する。
多少待たせてしまったが、全てのお客さんに提供が終わった。すでに外で待っている人までいる。
大変嬉しいことではあるが、さすがにおかしい。
こういうときは、聞くのが一番だ。
一番目に待ってくれていた、二人組の男性に声をかける。
「本日一番目に待ってくださりありがとうございます」
「いやいや、待ったかいがあったってもんだ。今まで口にしたこともないくらいに美味い! それに、なんだか元気まで出てくるような感覚もある」
美味しいと言ってくれるのは大変嬉しい。
「ところでキミ、もしかして高原の三姉妹カフェの人か?」
「へ? は、はい。そうでしたが……」
「おい、やっぱそうだったぜ!」
「だよな。この味は高原の三姉妹カフェで飲んだものと似ているし!」
「わかるのですか?」
「そりゃそうだろう。特に高原の三姉妹カフェで出されたコーヒーはなんつーか、独特の香りと深みがあった。それに、俺たちの仕事上、格安のもんと本物の味の違いくらいはわかるってもんだ」
この男性たちは、王都の商店街でコーヒー豆や紅茶、お茶など、飲み物の素材となる物を販売しているのだと教えてくれた。
「ま、俺たちはどっちかっつーと庶民向けに店をやっている。一杯100ゴールドもかからずに自宅で手軽に味のある飲み物を楽しめるってのが売りなんだ。もちろん、味はその分大幅に劣るが。それでも需要は結構あるんだぜ。ま、それとこの店の味を比べるってのも失礼ってもんか。誰でもわかるだろうしな」
「いやあ、さすがあのお方が絶賛しているってだけのことはある。しかも、これだけのクオリティでも一杯400ゴールドだろ? こりゃあライバル店として意識しねーとだな」
冗談まじりかのように、笑いながら言っていた。
あのお方と言っていたが、おそらく……。
「あの方ってバーバラ様ですよね。もし今度お会いしたらお礼をしなければ……」
「はい?」
結局周りの方々に協力してもらったのだなぁ。
私ではこんなに宣伝できなかっただろうし、お客さんを集めてくださったのだから、売り上げの一部を渡さないとと今の心境を話す。
同じ商売をしているわけだから、先輩方の意見も聞きたかったため、つい話してしまった。
「あんま気にしないで良いと思うけどな。この味を出されちゃ、俺たちだって自慢して教えたくなるし」
「だな。別にキミが宣伝するよう頼んだわけじゃないんだろ? むしろ、心から気に入った店なら誰だって自然と話したくなるもんだ。つまり、キミの実力でこれだけの客が来たってことだと思うけどな」
「私の実力……?」
店内はそんなに賑わっているわけではない。
普通に会話をしていたため、他のお客さんにも会話は聞こえていたと思う。
その人たちも話しかけてきた。
「はははっ。商店会会長が褒めてますからね。自信を持って良いと思いますよ」
「会長は良いものは良い、悪いものは悪いってハッキリと言いますからね」
「でもほんとこの紅茶、美味しくてなんだか癒されている感覚もあります。本当に400ゴールドで良いのですか?」
店内にいる全員がニコニコと笑顔で褒めてくれる。
高原の三姉妹カフェでは、ほとんど裏庭で収穫などをしていた。
店内に入るのもほんのわずかな時間だったから、お客さんと関わる時間も少なかった。
「みなさま、ありがとうございます! これからもこの価格でやっていきます。今後ともカフェチェルビーをよろしくお願いいたします」
お客さんたちに深々と頭を下げた。
今日、チップを除いたら一番の売り上げと杯数を記録した。
後片付けが追いつかず、途中で使用人として常駐してくれている方々にも洗い物を手伝ってもらった。
これくらい忙しい毎日が続きそうだったら、何人か雇って手伝いが必要になってきそうだ。
早めに動いておかなくては。
休む暇もなく大変だったが、明日もまた頑張ろう。
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