聖なる飲み物だと気がつかない聖女フィレーネのカフェ経営 〜聖女を追放させた姉妹は破滅へと真っしぐらです〜

よどら文鳥

文字の大きさ
17 / 36

17話

しおりを挟む
 今週も張り切ってカフェ営業をやっていくぞー!
 と、気合いを入れて店のドアを開ける。
 今日からお客さんが来るまでの間は、少しでもカフェのことを知ってもらえるよう、外でひたすら声出しをするつもりだった。
 ところが、信じ難い光景が広がっていた。

「あいたあいたあいた!」
「お~、マスター可愛い!」
「あんなに可愛い子に淹れてもらったコーヒーはさぞかし美味いんだろうな」
「どこかで見たことあるような顔だなぁ」

 オープン時間から、店内が満席になるほどの人だかりができていた。
 先週まではこんなことはなかったのに、どうしていきなり⁉︎

 これはもっと気合いを入れないとっ!

「おはようございます! カフェチェルビーへようこそ! 順番にご案内いたします」

 あっという間に店内が満席になった。
 順番にオーダーを聞き、飲み物の用意をしていく。
 さすがに一杯づつ淹れていたら長時間待たせてしまう。
 こういった場合は、紅茶とお茶なら大きなポットに茶葉を入れお湯を注ぐ。
 茶葉の風味と味がお湯に浸透するまでに、コーヒーも丁寧に抽出していく。

 高原の三姉妹カフェでは、基本このやり方だった。
 唯一お姉様たちとやり方が違う点としては、出来上がった飲み物をカップに注ぐ際に、美味しくなるように一杯づつ祈りをこめる。
 ここだけは絶対に欠かせない。
 お母様から教わっていたことは、たとえ時間がかかっても厳守する。

 多少待たせてしまったが、全てのお客さんに提供が終わった。すでに外で待っている人までいる。

 大変嬉しいことではあるが、さすがにおかしい。
 こういうときは、聞くのが一番だ。
 一番目に待ってくれていた、二人組の男性に声をかける。

「本日一番目に待ってくださりありがとうございます」
「いやいや、待ったかいがあったってもんだ。今まで口にしたこともないくらいに美味い! それに、なんだか元気まで出てくるような感覚もある」

 美味しいと言ってくれるのは大変嬉しい。

「ところでキミ、もしかして高原の三姉妹カフェの人か?」
「へ? は、はい。そうでしたが……」

「おい、やっぱそうだったぜ!」
「だよな。この味は高原の三姉妹カフェで飲んだものと似ているし!」
「わかるのですか?」

「そりゃそうだろう。特に高原の三姉妹カフェで出されたコーヒーはなんつーか、独特の香りと深みがあった。それに、俺たちの仕事上、格安のもんと本物の味の違いくらいはわかるってもんだ」

 この男性たちは、王都の商店街でコーヒー豆や紅茶、お茶など、飲み物の素材となる物を販売しているのだと教えてくれた。

「ま、俺たちはどっちかっつーと庶民向けに店をやっている。一杯100ゴールドもかからずに自宅で手軽に味のある飲み物を楽しめるってのが売りなんだ。もちろん、味はその分大幅に劣るが。それでも需要は結構あるんだぜ。ま、それとこの店の味を比べるってのも失礼ってもんか。誰でもわかるだろうしな」
「いやあ、さすがあのお方が絶賛しているってだけのことはある。しかも、これだけのクオリティでも一杯400ゴールドだろ? こりゃあライバル店として意識しねーとだな」

 冗談まじりかのように、笑いながら言っていた。
 あのお方と言っていたが、おそらく……。

「あの方ってバーバラ様ですよね。もし今度お会いしたらお礼をしなければ……」
「はい?」

 結局周りの方々に協力してもらったのだなぁ。
 私ではこんなに宣伝できなかっただろうし、お客さんを集めてくださったのだから、売り上げの一部を渡さないとと今の心境を話す。
 同じ商売をしているわけだから、先輩方の意見も聞きたかったため、つい話してしまった。

「あんま気にしないで良いと思うけどな。この味を出されちゃ、俺たちだって自慢して教えたくなるし」
「だな。別にキミが宣伝するよう頼んだわけじゃないんだろ? むしろ、心から気に入った店なら誰だって自然と話したくなるもんだ。つまり、キミの実力でこれだけの客が来たってことだと思うけどな」
「私の実力……?」

 店内はそんなに賑わっているわけではない。
 普通に会話をしていたため、他のお客さんにも会話は聞こえていたと思う。
 その人たちも話しかけてきた。

「はははっ。商店会会長が褒めてますからね。自信を持って良いと思いますよ」
「会長は良いものは良い、悪いものは悪いってハッキリと言いますからね」
「でもほんとこの紅茶、美味しくてなんだか癒されている感覚もあります。本当に400ゴールドで良いのですか?」

 店内にいる全員がニコニコと笑顔で褒めてくれる。
 高原の三姉妹カフェでは、ほとんど裏庭で収穫などをしていた。
 店内に入るのもほんのわずかな時間だったから、お客さんと関わる時間も少なかった。

「みなさま、ありがとうございます! これからもこの価格でやっていきます。今後ともカフェチェルビーをよろしくお願いいたします」

 お客さんたちに深々と頭を下げた。
 今日、チップを除いたら一番の売り上げと杯数を記録した。

 後片付けが追いつかず、途中で使用人として常駐してくれている方々にも洗い物を手伝ってもらった。
 これくらい忙しい毎日が続きそうだったら、何人か雇って手伝いが必要になってきそうだ。
 早めに動いておかなくては。

 休む暇もなく大変だったが、明日もまた頑張ろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

お前のような地味な女は不要だと婚約破棄されたので、持て余していた聖女の力で隣国のクールな皇子様を救ったら、ベタ惚れされました

夏見ナイ
恋愛
伯爵令嬢リリアーナは、強大すぎる聖女の力を隠し「地味で無能」と虐げられてきた。婚約者の第二王子からも疎まれ、ついに夜会で「お前のような地味な女は不要だ!」と衆人の前で婚約破棄を突きつけられる。 全てを失い、あてもなく国を出た彼女が森で出会ったのは、邪悪な呪いに蝕まれ死にかけていた一人の美しい男性。彼こそが隣国エルミート帝国が誇る「氷の皇子」アシュレイだった。 持て余していた聖女の力で彼を救ったリリアーナは、「お前の力がいる」と帝国へ迎えられる。クールで無愛想なはずの皇子様が、なぜか私にだけは不器用な優しさを見せてきて、次第にその愛は甘く重い執着へと変わっていき……? これは、不要とされた令嬢が、最高の愛を見つけて世界で一番幸せになる物語。

【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる

みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。 「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。 「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」 「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」 追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。

私の妹は確かに聖女ですけど、私は女神本人ですわよ?

みおな
ファンタジー
 私の妹は、聖女と呼ばれている。  妖精たちから魔法を授けられた者たちと違い、女神から魔法を授けられた者、それが聖女だ。  聖女は一世代にひとりしか現れない。  だから、私の婚約者である第二王子は声高らかに宣言する。 「ここに、ユースティティアとの婚約を破棄し、聖女フロラリアとの婚約を宣言する!」  あらあら。私はかまいませんけど、私が何者かご存知なのかしら? それに妹フロラリアはシスコンですわよ?  この国、滅びないとよろしいわね?  

聖女の妹、『灰色女』の私

ルーシャオ
恋愛
オールヴァン公爵家令嬢かつ聖女アリシアを妹に持つ『私』は、魔力を持たない『灰色女(グレイッシュ)』として蔑まれていた。醜聞を避けるため仕方なく出席した妹の就任式から早々に帰宅しようとしたところ、道に座り込む老婆を見つける。その老婆は同じ『灰色女』であり、『私』の運命を変える呪文をつぶやいた。 『私』は次第にマナの流れが見えるようになり、知らなかったことをどんどんと知っていく。そして、聖女へ、オールヴァン公爵家へ、この国へ、差別する人々へ——復讐を決意した。 一方で、なぜか縁談の来なかった『私』と結婚したいという王城騎士団副団長アイメルが現れる。拒否できない結婚だと思っていたが、妙にアイメルは親身になってくれる。一体なぜ?

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!? 元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。

処理中です...