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5話 そうだ、シーツを洗っちゃおう
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「いけませんよ、ふとんはそのままにしておいてください」
「せめてシーツを」
「そのままですわよ~?」
「は、はい」
エネの顔は微笑んでいるが、確実に怒っている雰囲気だ。
料理をしてからというもの、ほんの少しだが、エネ含めみんなが仲良く接してくれるようになった気がする。
主従関係はあるにしても、喜怒哀楽の表情が自然とむけてくれるようになってきた。
「奥様は私たちに対して、威厳をもっと出して良いのですよ」
「とんでもない! むしろもっと仲良くなりたいわ」
「……なぜそこまで配慮してくださるのです? 私は使用人ですよ?」
まだ堅いなぁ。一生懸命で頑張っていることだけはものすごく伝わってくる。
でも、それだけだとエネが疲れてしまいそう。
「エネのことも家族だと思いたいの!」
「は、はい!?」
「エネだけじゃないわよ。ここで働いてくれている使用人さんや執事長だってみんなそう」
お父様は領地に住んでいる領民のことをとても大事にしている。
『領民ひとりひとりが私の家族なんだよ。領主としてそのつもりで向き合うことが大事なんだよ』
お父様は、そう私に教えてくれた。
私もそのように考えていきたいがため、雰囲気が暗い公爵家がどうしても気になってしまうのだ。
「もちろん主従関係は大事だと思うけれど、その上でも私は仲良くなりたいなって思っているよ。せっかく出逢えたんだし」
「奥様は知らないのですよ。私たち使用人や執事長も、全員貧民街の人間なんです。餓死してしまうところを公爵様が拾ってくださってここで働かせてくれたのです」
「うん。そのことは公爵様から聞かされているよ」
公爵様からは『貧民の人間が公爵家で働くのか、などと彼女たちが差別されぬよう笑われぬよう、仕事に関し徹底して厳しくしてしまった。食っていけるようにはできたものの果たしてこれで良かったのかと時々悩む』と聞かされていた。
公爵様がすぐに隠居したり、ハイド様がすぐに家を留守にした理由がなんとなくわかってきた気がする。
「みんな立派な使用人だと思うよ。公爵様も安心して任せられるからこそ、隠居できたんだと思う」
「しかし……奥様のようなお方が貧民の私などと仲良くなってしまったら、顔に泥を塗ってしまいます」
あぁ……公爵様が唯一ミスしたと言っていたツテがここにあった……。
彼女たちが笑われたり舐められたりしないように、公爵様はあえて厳しくしすぎて距離もあけすぎてしまっていたことが。
「私の家族を嘲笑ってくるような人たちとは仲良くなれないから心配いらないよ」
「家族……? 本当に私たちのことをそう受け止めてくださるのですか」
執事長や使用人は領民とは違うけれど、それ以上に一緒に過ごす時間は長いし濃いと思う。
ならば家族だと思って良いんじゃないかと。
好きにして良いと許可ももらえているし。
エネの両肩に手を乗せ、顔を近づけそう言った。強い意思を主張するために。
「あたりまえだよ。住み込みだし毎日一緒だしこれからもきっとずっと」
「主人様とはまた別の路線で、奥様もお優しいのですね……」
「仕事は十分できているよ。これからは一緒に頑張っていこうね」
もちろん、一緒に掃除洗濯していこうね、私も混ぜて~という意味である。
期待が膨らみ、私は笑っていたに違いない。
「ところで、ハイド様はなんと言っているの?」
「現主人様に近づいてはいけないとの指示がありまして、基本的に会話をすることがありません」
「え?」
「主人様、過去に縁談や政略婚の話が多く、しかも外見も良いためそれが理由で辛い経験が多く……」
まるで私がハイド様を助けてあげてと言っているような雰囲気が伝わってくる。
「あまりにもしつこい縁談もあったようで、誰とも交流したくないと。ゆえに私たちもそっと見守ることになりました」
ガルムのように結婚しろ結婚しろとしつこい案件が複数あったらと思うと……、私だったら家に篭って外へ出ることすら嫌になりそうだ。むしろどこか遠くへ逃げたいと思ってしまうだろうな。
ハイド様が少しでも楽になれるよう、お飾り婚の私も距離をしっかりととっていこうと思う。
「これからも、しっかりとお飾り妻を徹底していくからね」
「奥様相手ならもしかしたら……」
「ん?」
「いえ、なんでもございませんわ」
私がハイド様の妻になったことによって、面倒な縁談の阻止。私も徐々にではあるがのびのび公爵ライフをエンジョイ。
お互いに恋愛感情がないから楽ではある。
しかし、なんなのだろう。
ハイド様が見えないところでものすごく助けてくれているような気がしていて、なんか気になる。
変にもやもやとする。
いや、私のやりたいことがまだできていないからかもしれない。
「ところで……」
エネとも仲良くなれるかもだし、この流れならいけるかもしれない。
「シーツ洗うの私もやっちゃダメかな?」
「それは絶対にいけませんっ!」
うう……打ち解けてきて仲良くなってきていても、やはりエネは厳しかった。
私もみんなと一緒に掃除したり洗濯したりしたいのに……。
「せめてシーツを」
「そのままですわよ~?」
「は、はい」
エネの顔は微笑んでいるが、確実に怒っている雰囲気だ。
料理をしてからというもの、ほんの少しだが、エネ含めみんなが仲良く接してくれるようになった気がする。
主従関係はあるにしても、喜怒哀楽の表情が自然とむけてくれるようになってきた。
「奥様は私たちに対して、威厳をもっと出して良いのですよ」
「とんでもない! むしろもっと仲良くなりたいわ」
「……なぜそこまで配慮してくださるのです? 私は使用人ですよ?」
まだ堅いなぁ。一生懸命で頑張っていることだけはものすごく伝わってくる。
でも、それだけだとエネが疲れてしまいそう。
「エネのことも家族だと思いたいの!」
「は、はい!?」
「エネだけじゃないわよ。ここで働いてくれている使用人さんや執事長だってみんなそう」
お父様は領地に住んでいる領民のことをとても大事にしている。
『領民ひとりひとりが私の家族なんだよ。領主としてそのつもりで向き合うことが大事なんだよ』
お父様は、そう私に教えてくれた。
私もそのように考えていきたいがため、雰囲気が暗い公爵家がどうしても気になってしまうのだ。
「もちろん主従関係は大事だと思うけれど、その上でも私は仲良くなりたいなって思っているよ。せっかく出逢えたんだし」
「奥様は知らないのですよ。私たち使用人や執事長も、全員貧民街の人間なんです。餓死してしまうところを公爵様が拾ってくださってここで働かせてくれたのです」
「うん。そのことは公爵様から聞かされているよ」
公爵様からは『貧民の人間が公爵家で働くのか、などと彼女たちが差別されぬよう笑われぬよう、仕事に関し徹底して厳しくしてしまった。食っていけるようにはできたものの果たしてこれで良かったのかと時々悩む』と聞かされていた。
公爵様がすぐに隠居したり、ハイド様がすぐに家を留守にした理由がなんとなくわかってきた気がする。
「みんな立派な使用人だと思うよ。公爵様も安心して任せられるからこそ、隠居できたんだと思う」
「しかし……奥様のようなお方が貧民の私などと仲良くなってしまったら、顔に泥を塗ってしまいます」
あぁ……公爵様が唯一ミスしたと言っていたツテがここにあった……。
彼女たちが笑われたり舐められたりしないように、公爵様はあえて厳しくしすぎて距離もあけすぎてしまっていたことが。
「私の家族を嘲笑ってくるような人たちとは仲良くなれないから心配いらないよ」
「家族……? 本当に私たちのことをそう受け止めてくださるのですか」
執事長や使用人は領民とは違うけれど、それ以上に一緒に過ごす時間は長いし濃いと思う。
ならば家族だと思って良いんじゃないかと。
好きにして良いと許可ももらえているし。
エネの両肩に手を乗せ、顔を近づけそう言った。強い意思を主張するために。
「あたりまえだよ。住み込みだし毎日一緒だしこれからもきっとずっと」
「主人様とはまた別の路線で、奥様もお優しいのですね……」
「仕事は十分できているよ。これからは一緒に頑張っていこうね」
もちろん、一緒に掃除洗濯していこうね、私も混ぜて~という意味である。
期待が膨らみ、私は笑っていたに違いない。
「ところで、ハイド様はなんと言っているの?」
「現主人様に近づいてはいけないとの指示がありまして、基本的に会話をすることがありません」
「え?」
「主人様、過去に縁談や政略婚の話が多く、しかも外見も良いためそれが理由で辛い経験が多く……」
まるで私がハイド様を助けてあげてと言っているような雰囲気が伝わってくる。
「あまりにもしつこい縁談もあったようで、誰とも交流したくないと。ゆえに私たちもそっと見守ることになりました」
ガルムのように結婚しろ結婚しろとしつこい案件が複数あったらと思うと……、私だったら家に篭って外へ出ることすら嫌になりそうだ。むしろどこか遠くへ逃げたいと思ってしまうだろうな。
ハイド様が少しでも楽になれるよう、お飾り婚の私も距離をしっかりととっていこうと思う。
「これからも、しっかりとお飾り妻を徹底していくからね」
「奥様相手ならもしかしたら……」
「ん?」
「いえ、なんでもございませんわ」
私がハイド様の妻になったことによって、面倒な縁談の阻止。私も徐々にではあるがのびのび公爵ライフをエンジョイ。
お互いに恋愛感情がないから楽ではある。
しかし、なんなのだろう。
ハイド様が見えないところでものすごく助けてくれているような気がしていて、なんか気になる。
変にもやもやとする。
いや、私のやりたいことがまだできていないからかもしれない。
「ところで……」
エネとも仲良くなれるかもだし、この流れならいけるかもしれない。
「シーツ洗うの私もやっちゃダメかな?」
「それは絶対にいけませんっ!」
うう……打ち解けてきて仲良くなってきていても、やはりエネは厳しかった。
私もみんなと一緒に掃除したり洗濯したりしたいのに……。
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