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3、四年前、ミミナが追放されるまで3
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荷物といっても雑巾と併用している服と、間食用にと保管していた食べのこしだけだ。
追放されたからには、もう王都で生活することなどできない。
これ以上レイバグ伯爵家に迷惑をかけるわけにはいかないのだから。
何年もお父様からの仕事を受けていたおかげで、実際に行ったことはないが王都以外の情報や場所などはある程度ならわかる。
似たような仕事をすることができれば、なんとか生きていけるくらいにはやれるだろうと自惚れてもいる。
問題はどうやって王都以外の場所へ移動するかだ。
お金は全くないし、歩いて移動しようとしたら途中で力尽きるほど遠い。
馬車が必須なのである。
王都を女一人で歩いているのも、まあまあ危険だ。
だから、ダメ元で馬車を走らせている店へと向かった。
どうやったら乗せてもらえるだろうかを考えながら。
「構わねえよ。ちょうど隣の町へ行くところだから乗りな」
「いいのですか?」
「ああいいってことよ。その格好ってことは……そういうことなんだろ?」
「ありがとうございます!」
意味深なセリフを言いながらも気前のいい二十代くらいの男性。
いい人で助かったと思いながら早速馬車に乗せてもらった。
本来はお金を支払わなければならないのに、なんて優しいのだろう。
「んじゃ、さっさと出るか」
「よろしくお願いします」
貴族が使うようなカーテンや客室があるわけではなく、積荷に人が乗るようなタイプの馬車である。
むしろ外の空気を直に感じられるしわたしはこっちの方が好きなのだ。
この男性以外は誰も乗っていないため、わたしと二人での移動である。
あっという間に王都を抜け、順調に進んでいくものの日が暮れた。
目指している村への到着予定は明日なのだ。
普段納屋の地べたで寝ているし、野宿とさほど変わりはない。
男性も操縦を終えて手綱を離し、馬に食事を与えていた。
しかも、わたしにも食べ物と飲み物を与えてくれた。
なんて優しいのだろう。
飲み物に関しては覚えのある味だった。
ツンとする香りと舌と喉が焼けてしまいそうな味。
そして身体がまたフラフラになってくる。
昨日の夜会と同じではないか。
だんだんと昨日の出来事が全てユメではなく、本当のことだったのではないかと疑問になってきた。
そんな気分になってくると、男性はニヤリと笑みを浮かべた。
「さて、んじゃ運賃をいただくとしようか」
気がつくと、男性はわたしの顔至近距離まで近づいてきた。
ほんの少し身体中に鳥肌がたつ。
身体はフラフラしながらも、しっかりと伝えなければ。
「え……その……お金を持っていないのでじゅが」
「ああ知ってるよ。だから身体で払ってもらうんだよ。そのためにそんな格好でいるんだろ?」
「へ!? ち、ちが……」
違うと言いたかったが、すでに乗せてもらっているし、そもそも男性はわたしの腕をギュッと掴んでいた。
フラフラ状態だし抵抗できるわけもない。
わたしはこの日、色々な意味で人生経験をしてしまうのだろう。
そう思っていたのだが、急に男性の手が止まる。
「ひ……お、お許しを!!!!」
「……はい?」
「き、貴族様とは知らずにとんだご無礼を!!!!」
ああそうか。左手の薬指に装着していた指輪。これは貴族の証ですよというもの。
昨日の夜会で特別に身につけたままだったが外すのを忘れていた。
それほど目立つようなものでもないため、至近距離にきたから偶然気がついたのだろう。
なお装着する箇所はどこでもよかったため、サイズの合いそうな場所を選んだだけである。
誰もいない状況だし、口封じに私を始末して続けることもできたかもしれない。
だが、貴族界隈は甘くない。
平民が貴族に対してやらかしたことはどんな手を使ってでも報復にくる。
そう思っているのが平民なんだと習った……。
今回はそれのおかげで助かったようなものだが、お金の代わりになにかをしてもらうことが、こんなにも大変なのだなと理解できた。
これからは平民として生きていくのだから、もっと気をつけなければだ。
色々と世界を知っていくことも大事かもしれない。
そして……。
「わたしは無事ですから、今回はこのまま送り届けていただく……ということで全てをなしにするというのはいかがでしょうか?」
破茶滅茶な要求だし、いくらなんでも無理があると思う。
しかし、男性はむしろそれでいいから許してほしいと何度も謝ってきた。
その後、わたしは無事になにごともなく目的地に到着できたのだ。
一時はどうなるかと思ったが、しっかりと送ってくれたし男性にお礼を言った。
すると……。
「貴族様もあなたのような心がお拾い方がいれば、俺らみたいな貧乏人も救われるのに……」
そうぼそりと呟きながら去っていった。
今は一文無しでどうすることもできないが、もしもまた会う機会があったらしっかりとお金は払おう……。
この指輪はこの場所に住んでいる人を怖がらせてしまうかもしれない。
わたしはこっそりと指輪を外し、バッグの奥へと隠した。
追放されたからには、もう王都で生活することなどできない。
これ以上レイバグ伯爵家に迷惑をかけるわけにはいかないのだから。
何年もお父様からの仕事を受けていたおかげで、実際に行ったことはないが王都以外の情報や場所などはある程度ならわかる。
似たような仕事をすることができれば、なんとか生きていけるくらいにはやれるだろうと自惚れてもいる。
問題はどうやって王都以外の場所へ移動するかだ。
お金は全くないし、歩いて移動しようとしたら途中で力尽きるほど遠い。
馬車が必須なのである。
王都を女一人で歩いているのも、まあまあ危険だ。
だから、ダメ元で馬車を走らせている店へと向かった。
どうやったら乗せてもらえるだろうかを考えながら。
「構わねえよ。ちょうど隣の町へ行くところだから乗りな」
「いいのですか?」
「ああいいってことよ。その格好ってことは……そういうことなんだろ?」
「ありがとうございます!」
意味深なセリフを言いながらも気前のいい二十代くらいの男性。
いい人で助かったと思いながら早速馬車に乗せてもらった。
本来はお金を支払わなければならないのに、なんて優しいのだろう。
「んじゃ、さっさと出るか」
「よろしくお願いします」
貴族が使うようなカーテンや客室があるわけではなく、積荷に人が乗るようなタイプの馬車である。
むしろ外の空気を直に感じられるしわたしはこっちの方が好きなのだ。
この男性以外は誰も乗っていないため、わたしと二人での移動である。
あっという間に王都を抜け、順調に進んでいくものの日が暮れた。
目指している村への到着予定は明日なのだ。
普段納屋の地べたで寝ているし、野宿とさほど変わりはない。
男性も操縦を終えて手綱を離し、馬に食事を与えていた。
しかも、わたしにも食べ物と飲み物を与えてくれた。
なんて優しいのだろう。
飲み物に関しては覚えのある味だった。
ツンとする香りと舌と喉が焼けてしまいそうな味。
そして身体がまたフラフラになってくる。
昨日の夜会と同じではないか。
だんだんと昨日の出来事が全てユメではなく、本当のことだったのではないかと疑問になってきた。
そんな気分になってくると、男性はニヤリと笑みを浮かべた。
「さて、んじゃ運賃をいただくとしようか」
気がつくと、男性はわたしの顔至近距離まで近づいてきた。
ほんの少し身体中に鳥肌がたつ。
身体はフラフラしながらも、しっかりと伝えなければ。
「え……その……お金を持っていないのでじゅが」
「ああ知ってるよ。だから身体で払ってもらうんだよ。そのためにそんな格好でいるんだろ?」
「へ!? ち、ちが……」
違うと言いたかったが、すでに乗せてもらっているし、そもそも男性はわたしの腕をギュッと掴んでいた。
フラフラ状態だし抵抗できるわけもない。
わたしはこの日、色々な意味で人生経験をしてしまうのだろう。
そう思っていたのだが、急に男性の手が止まる。
「ひ……お、お許しを!!!!」
「……はい?」
「き、貴族様とは知らずにとんだご無礼を!!!!」
ああそうか。左手の薬指に装着していた指輪。これは貴族の証ですよというもの。
昨日の夜会で特別に身につけたままだったが外すのを忘れていた。
それほど目立つようなものでもないため、至近距離にきたから偶然気がついたのだろう。
なお装着する箇所はどこでもよかったため、サイズの合いそうな場所を選んだだけである。
誰もいない状況だし、口封じに私を始末して続けることもできたかもしれない。
だが、貴族界隈は甘くない。
平民が貴族に対してやらかしたことはどんな手を使ってでも報復にくる。
そう思っているのが平民なんだと習った……。
今回はそれのおかげで助かったようなものだが、お金の代わりになにかをしてもらうことが、こんなにも大変なのだなと理解できた。
これからは平民として生きていくのだから、もっと気をつけなければだ。
色々と世界を知っていくことも大事かもしれない。
そして……。
「わたしは無事ですから、今回はこのまま送り届けていただく……ということで全てをなしにするというのはいかがでしょうか?」
破茶滅茶な要求だし、いくらなんでも無理があると思う。
しかし、男性はむしろそれでいいから許してほしいと何度も謝ってきた。
その後、わたしは無事になにごともなく目的地に到着できたのだ。
一時はどうなるかと思ったが、しっかりと送ってくれたし男性にお礼を言った。
すると……。
「貴族様もあなたのような心がお拾い方がいれば、俺らみたいな貧乏人も救われるのに……」
そうぼそりと呟きながら去っていった。
今は一文無しでどうすることもできないが、もしもまた会う機会があったらしっかりとお金は払おう……。
この指輪はこの場所に住んでいる人を怖がらせてしまうかもしれない。
わたしはこっそりと指輪を外し、バッグの奥へと隠した。
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