1 / 61
大勢の前で婚約破棄された
「貴様との婚約破棄を申し入れる。聖女リリア」
「婚約……破棄?」
貴族や大臣たちの集まるパーティーに私は呼ばれ、会場へ入った途端の出来事だった。
目の前にいるラファエル=エウレス皇太子は、冷徹な目で私を睨みつけてくるのだ。
「そうだ。雨を呼ぶ聖獣使いなどと大それた名前を持って私の元に嫁いでこようとしたようだが、聖女という名だけで何の役にも立たないくせに権力を得ようとするようなグズなどいらん。私は実力派の魔道士マーヤと新たに婚約をする!」
ラファエルの罵倒はもはや聞き慣れていて、『婚約破棄』と『嫁いでこようとした』以外の言葉は耳に入ってそのまま抜けていった。
「私は殿下の命令で婚約を──」
それを口にする前に、ラファエルの手が飛んできた。
──パァーン
「口答えをするな。これは決まったことなのだ」
パーティー会場にもかかわらず容赦なく私の頬を叩いてきた。
ラファエルの視線が冷たく、頬は燃えるように痛い。
「あらあらラファエル様ったら……手が汚れますわよ」
声の主の方を振り向くと、笑っているようにしか見えなかった。
「すまんすまん。マーヤに触れる前に、しっかりと手は洗っておこう」
「あら……ならば私の水魔法で」
マーヤと呼ばれた女性は、ラファエルにその豊満な身体を押し付け、勝ち誇った表情をしながら私を見下してきた。
「水よ来たれ!!」
パーティー会場だというのにもかかわらず、マーヤは魔法でバケツ一杯分程度の水を具現化してラファエルの右手を洗い流した。
「見ろ、マーヤの素晴らしい魔力を! これが貴様とマーヤとの力の差なのだ!」
マーヤは疲れている様を誤魔化しているようだが、かなり息を上げている。
どうやら彼女具現化魔法はこの量で疲れてしまうらしい。
それよりも驚いたことは、皇太子ともあろう方がパーティー会場で婚約破棄をしてくることである。
他国ならば騒然となるはずだ。
だが、周りの貴族達は私を見て楽しんでいるだけだった。
この状況を見ていても、誰一人止めに来ない。
「具現化魔法は高等技術だというのにこうも簡単に出来るとは、さすが魔道士マーヤ様だ!」
「リリアは口だけで一度もこのようなことをしたことがないだろう! 婚約破棄されて当然だ」
「嫌ならマーヤ様よりも凄いところを証明すれば良いだろう!」
なるほど。
どうやら王族と貴族の全員が、私のことを邪魔者だと認識しているわけか。
今までも暴力的な発言や侮辱をされてきていたし、今回の件で間違いないことがわかった。
「私のそばにいるルビーという聖獣が証拠だと言っていますが」
「あんな気味の悪い生物はモンスターだと何度も言ってきただろう! 自分自身で何も出来ぬ愚かな女だ。こんな女と婚約をしていたと思うと手どころか心まで腐ってしまいそうだ……」
皆が無能聖女だと言ってくるが、ルビーを呼び出すために、そして水の加護を発揮させるために私の聖なる力はほぼ全て使っている。
その代わり、ルビーと私の聖なる力を混ぜてこの国に雨を降らせたりしているのだ。
たしかに残された私の力では、マーヤのように水を具現化させる力はない。
このことは何度も説明しているのだが、信用などされたことはないのだ。
もはやルビーのことを悪く言う殿下に対して、何も言い返すつもりはない。
そもそも、求婚してきたのはラファエルである。
皇太子殿下のもとで仕えれば、聖女としての力も更に発揮できると思っていた。
だからこそ政略結婚のような形で婚約したというのに。
今のラファエルはこの女を余程溺愛しているのだろう。
王宮で行われるパーティーで、あえてこれだけの騒ぎを起こしているところから見るに、皇帝陛下ももう承知の上なのかもしれない。
「貴様が今更何をしようとも婚約破棄に撤回はない。だが喜べ、貴様でも役に立つ時が来た。カサラス王国のカルム王子が貴様を迎え入れると正式に打診があった。『いずれ私は無能聖女とは婚約破棄する』と言ったらすぐに食いついてきたぞ。即答で返事を返してくれおったわ!」
ラファエルの発言を聞いていた周りの貴族たちが響めきはじめる中、マーヤが私を見下すように皮肉めいたことを言ってきた。
「あんな不毛の土地に行けるなんて、リリアさまにはお似合いの場所ですわねー!」
ラファエルはマーヤの発言を聞いて、首を縦に振りながら笑っていた。
「その通りだ。どうだ? 嬉しいだろう! あの不毛の土地、カサラス王国へ行けるのだ! 王都ですら水不足だと聞く。使者もあさましくうちの水を喜んで飲んで帰りよったわ! 更にお前を送り出せば、あの国の持つ財宝の三分の一を渡すと言ってきよった」
「……三分の一!?」
国家の持つ財宝の三分の一というのは、それが引き金となって国が傾くことも十分にあり得る量だ。
いや、傾かない方がおかしい。
カサラス王国の王子は、私のためにそれだけのリスクを負ったというのか。
「水の聖女など名前だけで大した力もないことを知らぬ馬鹿な国よ。これで弱ったところに我が軍を差し向ければ、残りの三分の二も我が国のものになるというのに。だからこそ、今回のパーティーを開催したのだ。主役はもちろん貴様だリリア! 父上も喜んで公認してくださった貴様の追放パーティーなのだよ」
ウィンド皇帝陛下の姿が見えないと思ったら、やはりそういうことだったのか。
つまり国公認で私を追放したいらしい。
どこまでもゲスな男は大笑いしながらマーヤと共に私の元から離れて、楽しそうに踊り始めた。
周りの参加者も、催物が終わったかのように踊り始め、取り残された私はパーティー会場を立ち去った。
「婚約……破棄?」
貴族や大臣たちの集まるパーティーに私は呼ばれ、会場へ入った途端の出来事だった。
目の前にいるラファエル=エウレス皇太子は、冷徹な目で私を睨みつけてくるのだ。
「そうだ。雨を呼ぶ聖獣使いなどと大それた名前を持って私の元に嫁いでこようとしたようだが、聖女という名だけで何の役にも立たないくせに権力を得ようとするようなグズなどいらん。私は実力派の魔道士マーヤと新たに婚約をする!」
ラファエルの罵倒はもはや聞き慣れていて、『婚約破棄』と『嫁いでこようとした』以外の言葉は耳に入ってそのまま抜けていった。
「私は殿下の命令で婚約を──」
それを口にする前に、ラファエルの手が飛んできた。
──パァーン
「口答えをするな。これは決まったことなのだ」
パーティー会場にもかかわらず容赦なく私の頬を叩いてきた。
ラファエルの視線が冷たく、頬は燃えるように痛い。
「あらあらラファエル様ったら……手が汚れますわよ」
声の主の方を振り向くと、笑っているようにしか見えなかった。
「すまんすまん。マーヤに触れる前に、しっかりと手は洗っておこう」
「あら……ならば私の水魔法で」
マーヤと呼ばれた女性は、ラファエルにその豊満な身体を押し付け、勝ち誇った表情をしながら私を見下してきた。
「水よ来たれ!!」
パーティー会場だというのにもかかわらず、マーヤは魔法でバケツ一杯分程度の水を具現化してラファエルの右手を洗い流した。
「見ろ、マーヤの素晴らしい魔力を! これが貴様とマーヤとの力の差なのだ!」
マーヤは疲れている様を誤魔化しているようだが、かなり息を上げている。
どうやら彼女具現化魔法はこの量で疲れてしまうらしい。
それよりも驚いたことは、皇太子ともあろう方がパーティー会場で婚約破棄をしてくることである。
他国ならば騒然となるはずだ。
だが、周りの貴族達は私を見て楽しんでいるだけだった。
この状況を見ていても、誰一人止めに来ない。
「具現化魔法は高等技術だというのにこうも簡単に出来るとは、さすが魔道士マーヤ様だ!」
「リリアは口だけで一度もこのようなことをしたことがないだろう! 婚約破棄されて当然だ」
「嫌ならマーヤ様よりも凄いところを証明すれば良いだろう!」
なるほど。
どうやら王族と貴族の全員が、私のことを邪魔者だと認識しているわけか。
今までも暴力的な発言や侮辱をされてきていたし、今回の件で間違いないことがわかった。
「私のそばにいるルビーという聖獣が証拠だと言っていますが」
「あんな気味の悪い生物はモンスターだと何度も言ってきただろう! 自分自身で何も出来ぬ愚かな女だ。こんな女と婚約をしていたと思うと手どころか心まで腐ってしまいそうだ……」
皆が無能聖女だと言ってくるが、ルビーを呼び出すために、そして水の加護を発揮させるために私の聖なる力はほぼ全て使っている。
その代わり、ルビーと私の聖なる力を混ぜてこの国に雨を降らせたりしているのだ。
たしかに残された私の力では、マーヤのように水を具現化させる力はない。
このことは何度も説明しているのだが、信用などされたことはないのだ。
もはやルビーのことを悪く言う殿下に対して、何も言い返すつもりはない。
そもそも、求婚してきたのはラファエルである。
皇太子殿下のもとで仕えれば、聖女としての力も更に発揮できると思っていた。
だからこそ政略結婚のような形で婚約したというのに。
今のラファエルはこの女を余程溺愛しているのだろう。
王宮で行われるパーティーで、あえてこれだけの騒ぎを起こしているところから見るに、皇帝陛下ももう承知の上なのかもしれない。
「貴様が今更何をしようとも婚約破棄に撤回はない。だが喜べ、貴様でも役に立つ時が来た。カサラス王国のカルム王子が貴様を迎え入れると正式に打診があった。『いずれ私は無能聖女とは婚約破棄する』と言ったらすぐに食いついてきたぞ。即答で返事を返してくれおったわ!」
ラファエルの発言を聞いていた周りの貴族たちが響めきはじめる中、マーヤが私を見下すように皮肉めいたことを言ってきた。
「あんな不毛の土地に行けるなんて、リリアさまにはお似合いの場所ですわねー!」
ラファエルはマーヤの発言を聞いて、首を縦に振りながら笑っていた。
「その通りだ。どうだ? 嬉しいだろう! あの不毛の土地、カサラス王国へ行けるのだ! 王都ですら水不足だと聞く。使者もあさましくうちの水を喜んで飲んで帰りよったわ! 更にお前を送り出せば、あの国の持つ財宝の三分の一を渡すと言ってきよった」
「……三分の一!?」
国家の持つ財宝の三分の一というのは、それが引き金となって国が傾くことも十分にあり得る量だ。
いや、傾かない方がおかしい。
カサラス王国の王子は、私のためにそれだけのリスクを負ったというのか。
「水の聖女など名前だけで大した力もないことを知らぬ馬鹿な国よ。これで弱ったところに我が軍を差し向ければ、残りの三分の二も我が国のものになるというのに。だからこそ、今回のパーティーを開催したのだ。主役はもちろん貴様だリリア! 父上も喜んで公認してくださった貴様の追放パーティーなのだよ」
ウィンド皇帝陛下の姿が見えないと思ったら、やはりそういうことだったのか。
つまり国公認で私を追放したいらしい。
どこまでもゲスな男は大笑いしながらマーヤと共に私の元から離れて、楽しそうに踊り始めた。
周りの参加者も、催物が終わったかのように踊り始め、取り残された私はパーティー会場を立ち去った。
あなたにおすすめの小説
ゴースト聖女は今日までです〜お父様お義母さま、そして偽聖女の妹様、さようなら。私は魔神の妻になります〜
嘉神かろ
恋愛
魔神を封じる一族の娘として幸せに暮していたアリシアの生活は、母が死に、継母が妹を産んだことで一変する。
妹は聖女と呼ばれ、もてはやされる一方で、アリシアは周囲に気付かれないよう、妹の影となって魔神の眷属を屠りつづける。
これから先も続くと思われたこの、妹に功績を譲る生活は、魔神の封印を補強する封魔の神儀をきっかけに思いもよらなかった方へ動き出す。
婚約破棄の上に家を追放された直後に聖女としての力に目覚めました。
三葉 空
恋愛
ユリナはバラノン伯爵家の長女であり、公爵子息のブリックス・オメルダと婚約していた。しかし、ブリックスは身勝手な理由で彼女に婚約破棄を言い渡す。さらに、元から妹ばかり可愛がっていた両親にも愛想を尽かされ、家から追放されてしまう。ユリナは全てを失いショックを受けるが、直後に聖女としての力に目覚める。そして、神殿の神職たちだけでなく、王家からも丁重に扱われる。さらに、お祈りをするだけでたんまりと給料をもらえるチート職業、それが聖女。さらに、イケメン王子のレオルドに見初められて求愛を受ける。どん底から一転、一気に幸せを掴み取った。その事実を知った元婚約者と元家族は……
〖完結〗聖女の力を隠して生きて来たのに、妹に利用されました。このまま利用されたくないので、家を出て楽しく暮らします。
藍川みいな
恋愛
公爵令嬢のサンドラは、生まれた時から王太子であるエヴァンの婚約者だった。
サンドラの母は、魔力が強いとされる小国の王族で、サンドラを生んですぐに亡くなった。
サンドラの父はその後再婚し、妹のアンナが生まれた。
魔力が強い事を前提に、エヴァンの婚約者になったサンドラだったが、6歳までほとんど魔力がなかった。
父親からは役立たずと言われ、婚約者には見た目が気味悪いと言われ続けていたある日、聖女の力が覚醒する。だが、婚約者を好きになれず、国の道具になりたくなかったサンドラは、力を隠して生きていた。
力を隠して8年が経ったある日、妹のアンナが聖女だという噂が流れた。 そして、エヴァンから婚約を破棄すると言われ……
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
ストックを全部出してしまったので、次からは1日1話投稿になります。
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
聖女の座を奪われてしまったけど、私が真の聖女だと思うので、第二の人生を始めたい! P.S.逆ハーがついてきました。
三月べに
恋愛
聖女の座を奪われてしまったけど、私が真の聖女だと思う。だって、高校時代まで若返っているのだもの。
帰れないだって? じゃあ、このまま第二の人生スタートしよう!
衣食住を確保してもらっている城で、魔法の勉強をしていたら、あらら?
何故、逆ハーが出来上がったの?
偽りの家族を辞めます!私は本当に愛する人と生きて行く!
ユウ
恋愛
伯爵令嬢のオリヴィアは平凡な令嬢だった。
社交界の華及ばれる姉と、国内でも随一の魔力を持つ妹を持つ。
対するオリヴィアは魔力は低く、容姿も平々凡々だった。
それでも家族を心から愛する優しい少女だったが、家族は常に姉を最優先にして、蔑ろにされ続けていた。
けれど、長女であり、第一王子殿下の婚約者である姉が特別視されるのは当然だと思っていた。
…ある大事件が起きるまで。
姉がある日突然婚約者に婚約破棄を告げられてしまったことにより、姉のマリアナを守るようになり、婚約者までもマリアナを優先するようになる。
両親や婚約者は傷心の姉の為ならば当然だと言う様に、蔑ろにするも耐え続けるが最中。
姉の婚約者を奪った噂の悪女と出会ってしまう。
しかしその少女は噂のような悪女ではなく…
***
タイトルを変更しました。
指摘を下さった皆さん、ありがとうございます。
私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!
近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。
「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」
声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。
※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です!
※「カクヨム」にも掲載しています。
婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない
nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?