【完結】用済みで殺されかけた魔女が幸せを掴んでのんびり暮らすまで〜全属性魔法を使いこなし、王様の不治の病を治したら重宝されました〜

よどら文鳥

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4話 ソフィアは空腹でも旅を楽しむ

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「おなかすいたな……」

 伯爵邸から出てからすでに三回目の朝を迎えてしまった。
 伯爵の領地は全く見えないところまで移動していて、大きな山もひとつ越えている。

 幸い、歩いている方面に並行して川が流れているのが救いだ。
 水分補給と水浴びと服の洗濯はできるが、食べ物が全くない。

 王都とは一体どこにあるのだろうか。
 ここまで歩いて来れたのだし、倒れるなら目的を達成してからにしてほしい。
 だが、こういう旅も新鮮で心地よかった。

 今日も川沿いにひたすら歩いていく。
 いつもと変わらない散歩だが、今日は初めて普段と違う状況になった。

「馬? 人!?」

 馬の上に人が乗っている。
 しかも馬も人もかなりの数だ。

 人は鎧を身につけていて剣も腰に装備している。
 おそらくはどこかの剣士たちなのだろう。
 だが、その奥には私が旅をするにあたって最も恐れていたソレがいたのだ。

「モンスター!?」

 一つの身体に対して顔が三つもある。
 本で見た記憶では特に危険生物として認定されているケルベロスと言ったっけ。
 初めて見つけたモンスターがとんでもなく強い化け物だなんて、私は本当に運がなさすぎだ。
 騎士団二十人がかりで討伐をしようとしても、倒せたとしても重傷者や死者が出てしまうと本に書いてあった。

 どうやらケルベロスは馬たちを追いかけ回しているようだ。
 幸い、ケルベロスは動きが鈍いようで、徐々に馬たちと距離が離れていく。
 だが、ケルベロスは私のほうに視線を向けてきた。

「げっ!」

 ケルベロスは私に向かって猪突猛進してきた。

 仮にも私が囮になれば馬たちも安全に逃げられるだろう。
 どうせ私の命は今度こそ助からないだろうしせめてあの人たちが助かればと思う。
 まだ目的も達成できていないから死にたくはないが。

 こうなったら、今まで使えなかった魔法を試してみるしかない。

 覚悟を決めたとき、逃げていた馬と上に乗っている鎧をかぶった人たちはこちらに向かってくるが、もう間に合わないだろう。
 これでは余計な犠牲が増えるだけだ。

「私のことはいいから逃げてくださいー!」

 馬の上にまたがっている人たちに向かって大声でそう言った。
 すでにケルベロスに体当たりされるまで十秒もかからないだろう。

 ここにきて、やっぱり怖いという感情が優った。
 任意で発動したことがない魔法では、ただの悪あがきのような行為だ。
 ケルベロスにとっては、私の魔法程度では、虫が止まったかのような感覚にしかならないだろうけれど。
 それでも少しくらいは抵抗したい。
 今までだってずっと奴隷生活に耐えてきたのだから。

 そもそも私、どの属性を使えるのだろう……。
 試しにケルベロスが苦手な炎属性を試してみようか。
 もしかしたら詠唱にビビって逃げてくれるかもしれない。

「えぇと、『炎を渦巻け。ファイアーエクスプロージョン』」

 魔法は属性があって、人によって使える属性が異なる。
 詠唱してみた結果、どうやら私は炎属性を使えるようだ。

 だが、がむしゃらに魔法を放ってしまったせいで、魔力の消費を考えていなかったため、発動と同時に私は気を失ってしまった。
 ケルベロスの餌になるか、それとも粉々にされてしまうか……。

 今度こそ、さようなら。
 私の短かった十五年間の人生。
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