ぼくと怪物三人組@トーキョーベイエナジーアイランド

alphapolis_20210224

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第三部 アップルパイ、閉回路ソースを添えて

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 それから、出かける前にアルゴスの前に立つのがルーティンになった。最新の配置を頭に入れてなわばりを巡回する。アップデートできないのが欠点だけど、どんな種類のネットワークを使うのも危ないだろう。

「いい手ないかね」
 その日はぼくとウォーデ、ファーリーとビクタが組だった。
「シールド付有線だな。それで、なわばりのあちこちに情報取得端末を置いとく」
 ウォーデはごく常識的な案を出した。
「やっぱり、そのくらいしないとだめか。けど途中で盗み見られるの怖いし」
「そのくらいのリスクは、な、坊っちゃん」

 たしかに神経質になりすぎてる。盗聴を気にするならアルゴスの電磁波シールドだって疑わしい。手作りだし、漏出した電磁波からのぞかれてるかもしれない。

「よし、そのくらいは妥協しよう。おまえ、まえにモグラネットはだめって言ったけど、仮想じゃなくてほんとのプライベートネットワークを作ろうか。無線で」

「ここか」
 それには答えず、ウォーデはいい香りのただよってくる建物を指さした。白い無機質の平屋建てで、倉庫みたいに見えるが窓は大きかった。その窓の防虫フィルムは手で貼ったらしくしわが寄っていた。『Ayumi's Apple Pie Workshop』の看板も手書きだった。
「そう、ここ」
「売ってないんだな」
「うん、やってない。客あしらい面倒なんだって」

 また何もいわず、さっさとそこを離れたのでついていく。おだやかな日だった。警官たちもアルゴスの推定通りの場所にいた。ざっと見た感じでは数も合っていそうだった。

「あいつら、ほんとは何も考えてねぇんじゃねえか」
 不意にそう言われたので答えるタイミングを失ってしまった。
「なあ、坊っちゃん、どう思う?」
 だまっていると重ねてそう聞かれた。
「考えてないってどういう意味?」
「アルゴスのおかげであいつらの配置とか数のパターンが見えてきたけど、何をどうしたいのかがわからん。実は何も狙ってないんじゃ?」
「でも、監視柱だけじゃなく生身の警官まで送りこんできてる。何もないって事はないよ」
 そう返しながらぼくはウォーデに同意していた。それほどまでに何も浮かんでこなかった。何か行動してると示したいだけの行動。そんなのあり得るだろうか。

「ニュース見てみな」ファーリーだった。ゴーグルのすみに映した。
「やべえ」ウォーデがつぶやく。

 ほんとに『やべえ』。

 映像は国会前で行われているデモの様子を上空からとらえていた。字幕は計画的なものではないと説明している。突発的な抗議に賛同した者たちが閃光のように集まったという事だった。

 即席に並べられた三脚の上で五人の子供がそれぞれ大声を出したり拳を振り上げていたが、解散の呼びかけと混じってうなるような音になっていた。

「なんだこりゃ」その主張は衝撃だった。
「ひでえ。育ててたのかよ」ウォーデは嫌悪を隠さなかった。

 解説が入る。本土はインフィニティ・マザーから取り上げた胚を廃棄しなかった。そのまま囚人の子宮を使って発育、出産させた。そしてうち五人が正常に六歳となった。かれらの境遇に同情し、かつ反政府的傾向を持つ保育係によって施設を脱走し、この抗議に至ったという。
 その情報が枯草をなぎ払う野火のようにネットをかけめぐり、周辺の者たちは仕事を放棄して集まったのだった。

「お母さんに会わせて!」というのが子供たちの言い分だった。いや、言わされているのか。そこに人々の「すべて公開せよ!」「責任者出てこい!」という叫びが重なる。

 不思議なほど抑制のきいたデモで暴力的な出来事はなかったが、人々が職務を放棄したため、国会周辺の都市機能はほとんど止まってしまった。警官の一部もデモ側となっているのが報じられた。

 そして、一時間ほどしたとき、子供たちを含むデモ隊は国会敷地内に侵入した。だれかが門を開放したのだった。

 ネットガンが撃たれた。何かの芝居のように網がひろがってデモ隊を包む。その映像はある種の美しさをも感じさせた。
 しかし、網はすぐに破られた。デモ隊に加わった警官が溶解剤のスプレーを撒いていた。

「だめだ」と声が出てしまった。警官隊が次に用意したのは暴動鎮圧銃だった。ゴム弾だが、当たりどころによっては無事に済むものではない。
 銃口から急激に膨張したガスが薄く白くひろがる。と同時にデモ隊の前列が崩れ、みんな逃げはじめた。

 子供たちは? もう見えなくなっていた。追うカメラにときどき映るのだが一瞬すぎて安全かどうかも分からない。

 そのとき、ふと違和感を覚えたぼくはいったんニュースを視野のすみに押し込み、まわりを見た。いつの間にか『制服』の姿がなくなっていた。

「おれらも集まったほうがいい」
 ウォーデがいい、連絡を取り合って戻った。
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