つきせぬ想い~たとえこの恋が報われなくても~

宮里澄玲

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 一平に恩返しするためには、まずは自分が立ち直らなければいけないと思った。
 いつまでも会社のことを引きずって思い悩むのはやめて、今の仕事に精一杯取り組み、元気になった姿を見せられるように頑張ろう。
 幸いにも仕事の依頼は途切れていない。来たものはできる限り引き受けているが、納期に間に合わなくなったり、いいかげんな仕事をして信頼を失ってしまったら今までの努力が水の泡になるので、無理はしないようにしていた。ただ、受けた仕事は完璧にこなし必ず期限を守り早めに納品していたので、そのうち数社の企業が繭子を指名して依頼してくれるようになった。繭子は一生懸命仕事に取り組んだ。 
 
 先日、美沙絵に連絡をして、今週の日曜日に古時計でランチをすることになった。
 もちろん助けてくれたお礼にランチをご馳走するが、何かちょっとした贈り物もしたいなと思って、倉光堂という老舗の大きな文房具店に行った。
 図書館の司書をしているなら本好きだろう。実は繭子も本が好きだ。心身共にやられていた時は読書する気力も体力もなかったが、最近また読むようになった。
 色々考えてあまり高価すぎる物は向こうの負担のなると思い、栞を贈ることに決めた。
 ここには手ごろな価格のものからちょっと高級なものまで、素材やデザインもバラエティーに富んだものが色々と取り揃えてあり、どれも素敵なものばかりで繭子は目移りしていた。
 美沙絵さんは綺麗で可愛らしくて清楚で…そうだな…花に例えるとユリかな。純白のカサブランカとかテッポウユリか、ピンクのオトメユリも彼女にピッタリかも…!
 そこで、ユリの絵や模様が入った栞を探した。そして、ちょうどオトメユリをかたどった栞とカサブランカの押し花の栞があった。どっちも素敵で捨てがたい、と結局両方買うことにした。
 
 それからデパートへ行き、紳士コーナーに向かった。一平用のお礼の品を買うためだ。
 数日悩んだ末、普段使ってもらえるようにハンカチを贈ろうと決めていた。
 店員さんに相談すると、海島綿という上質なコットンで作られたハンカチを勧められた。カシミアのように本当に滑らかで肌触りがとてもよく、繭子も気に入り、これなら贈り物にちょうどいいと、5種類ある中からブルーとライトグレーを選んだ。
 
 ランチ当日、繭子は約束の時間よりもかなり前に店に行った。
 ドキドキしながらそっとドアを開けると、一平がカウンターから微笑みかけた。
 「いらっしゃいませ、繭子さん」
 この前のことなど一切なかったかのような、いつもの一平だった。
 「こんにちは。今日は美沙絵さんとランチの約束をしていまして…」
 「そうなんだ。なら、ゆっくりしていってね」
 繭子は一平に紙袋を手渡した。 
 「あの、この間は本当にありがとうございました。これ、ほんのお気持ちなのですが、よかったら使ってください」
 「えっ…。こんなことしてくれなくてもいいのに……。逆に気を遣わせてしまって申し訳ないね。でも、せっかくの繭子さんの気持ちだから遠慮なくいただきます。どうもありがとう」
 一平は頭を下げて受け取った。 
 「あと、マスター、今度――」 
 繭子が言いかけた時、カランコロンというドアベルと共に、美沙絵が入ってきた。
 「こんにちは~。あ、繭子さん、もういらしてたんですね!」
 「いらっしゃい、美沙絵ちゃん」
 「こんにちは、美沙絵さん」
 「繭子さん、今日はお誘いありがとうございます。マスター、これ、先日夕飯をドタキャンしちゃったお詫びです。マスターの好きなあのカステラです」
 「うわ、美沙絵ちゃんまで悪いね、ご丁寧にどうもありがとう」
 
 一平は、ゆっくり落ち着いて話ができるように2人を奥のテーブル席に案内した。

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