秘められた願い~もしも10年後にまた会えたなら~

宮里澄玲

文字の大きさ
14 / 54

14

しおりを挟む
 
 これから行く店は一駅隣の街にある、カフェレストラン。大通りから外れた路地裏のさらに細い通りを入ったところにある隠れ家的な店だ。食事やドリンクのメニューが豊富で、特にハーブティーが売りだ。もちろんコーヒーもとてもおいしい。多い時で週2、3回行くこともある。先生とメールでやり取りした際、どこか希望の店はあるかと聞いたら、特にないから任せる、と言われたので、ここに決めた。
 
 隣の駅に着き、店に向かう。先生は最初に家まで送ってくれた時もそうだったが当たり前のように車道側を歩いてくれている。たったそれだけのことで胸があったかくなる…。
 「すみません、駅から歩くし、ちょっと分かりづらい場所にありまして…」  
 「いいじゃないか、そういうの。隠れ家的で」
 あ…先生もそういう店好きなんだ…気に入ってくれるかな。
 そして、カフェレストラン『古時計』に着いた。レンガ造りの外壁にツタが綺麗に這っていて、店内には大小さまざまなアンティークの古時計が壁や棚にたくさん飾られている。全体的にレトロで落ち着いた雰囲気でテーブルや椅子などの家具類もすべてアンティークだという。
 すっかり顔見知りになった店のマスターが、私が珍しく誰かと、しかも男性と一緒に入ってくるのを見て、一瞬「おや?」という顔をしたが、すぐににっこり笑って「いらっしゃいませ」と言って、一番奥の窓際の席に案内してくれた。
 メニューを見ながら先生が言った。
 「へぇ~いろいろあって目移りしちゃうな…。どうだ、一品料理を何種類か頼んでシェアしないか?」
 「そうですね。さすがにまだ全種類食べたことはありませんが、どれもハズレはないと思います」
 「よし、じゃあ結城がまだ食べたことないやつで気になるのを頼むか」 
 「えっ、先生が食べたいものでいいですよ」
 「じゃあ、お互い気になるやつにしよう」
 そして、先生は、豚ヒレ肉の香草焼き、私は白身魚のレモンバターソース掛け、それから話し合って、エリンギとバジルのマリネ、古時計オリジナルサラダ、コーンポタージュスープ、パンに決まった。ドリンクはハーブティで、先生はカモミール、私はローズヒップ。それそれチーズケーキとセットにした。
 
 先生が店内をじっくり見渡しながら言った。
 「いい店だな、ここ…。時間がゆったりと感じられてすごく落ち着く。どうやって見つけたんだ?」
 「今年の初めにこの先の大通りにある本屋さんに行った時に、帰りに駅に戻る途中でこの路地裏に気が付いたんです。何となく気になって歩いていたら、さらに細い通りが左手にあったのでちょっと覗いてみたら、この店に目に留まったんです。店名と外観に惹かれて入ってみたら、店内もこの通り素敵で雰囲気がいいし、料理やドリンクもおいしいし、マスターもいい人なので、よく通うようになったんです」
 「そうか。でも俺を連れてきてもよかったのか? こういう店って自分だけの秘密にしておきたいものなんじゃないのか」
 「いえ…。先生と一緒に行きたかったのでとても嬉しいです…」
 言ってから、あっ、と焦った。つい本音が無意識に口から出てしまった…。
 「結城…」
 先生が何か言いかけた時、恥ずかしさのあまり「あの!」と遮ってしまった。
 「実は、お渡ししたいものがありまして…。これ、ほんの気持ちなんですが、先日送っていただいたお礼です」
 紙袋からラッピングした箱を出して先生に渡した。
 「えっ!? わざわざこんなことしなくてもよかったのに…。悪かったな、逆に気を使わせてしまって」
 「いいんです。本当に助かりましたし、私の気が済まないので」
 「ありがとう。それにしても随分立派な箱だな。開けてもいいか?」
 「はい…」 
 先生は丁寧にラッピングを剥がし、箱の蓋をそっと開けた。そして中身を見ると目を見開いた。
 「これ…ガラスペンか」
 ペンを手に取り、しげしけと眺める。
 「…すごく綺麗だな…細工も見事で…目が離せなくなる…。こんな芸術品のようなペン、初めて見た…」 
 「イタリアの職人さんの手作りで、一目見て、これだ!って思ったんです。先生のイメージにピッタリだなって…」
 先生は一旦ペンから目を離すと、じっと私を見つめた。その熱の籠った眼差しにドキッとする。
 「…感動しすぎてうまい言葉が出てこない…。でもこれ、相当高かっただろう? 無理したんじゃないのか…?」
 「いえ、意外とそうでもありません。無理なんて全然していませんから大丈夫ですよ」
 「…それならいいが。こんな素晴らしいものを、本当にありがとう」 
 嬉しくなって、にっこりして頷いた。
 こんなにも感激してくれるとは思わなかった。このガラスペンに出合えた幸運に感謝した。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

神楽坂gimmick

涼寺みすゞ
恋愛
明治26年、欧州視察を終え帰国した司法官僚 近衛惟前の耳に飛び込んできたのは、学友でもあり親戚にあたる久我侯爵家の跡取り 久我光雅負傷の連絡。 侯爵家のスキャンダルを収めるべく、奔走する羽目になり…… 若者が広げた夢の大風呂敷と、初恋の行方は?

貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈

玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳 大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。 でも、これはただのお見合いではないらしい。 初出はエブリスタ様にて。 また番外編を追加する予定です。 シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。 表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

フリーランスエンジニアの優しすぎる無償の愛

春咲さゆ
恋愛
26歳OLの木崎茉莉は人生のどん底にいた。上手くいかないことに慣れ、心を凍らせることで自分を守る毎日に絶望した茉莉は、雨の夜に思わず人生の終わりを願ってしまう。そんな茉莉に手を差し伸べたかっこいい彼。茉莉は、なぜか無償の愛のような優しさをくれる不思議な男性に少しずつ救われ、前を向いていく。けれど、疑ってしまうほど親切な彼には、親切であり続ける理由があって……。雨の夜の出会いがもたらした、優しくも切ない物語。

有名俳優の妻

うちこ
恋愛
誰もが羨む結婚と遺伝子が欲しかった そこに愛はいらない

たとえ夜が姿を変えても ―過保護な兄の親友は、私を逃がさない―

佐竹りふれ
恋愛
重なる吐息、耳元を掠める熱、そして——兄の親友の、隠しきれない独占欲。 19歳のジャスミンにとって、過保護な兄の親友・セバスチャンは、自分を子供扱いする「第二の兄」のような存在だった。 しかし、初めてのパーティーの夜、その関係は一変する。 突然降ってきた、深く、すべてを奪うような口づけ。 「焦らず、お前のペースで進もう」 そう余裕たっぷりに微笑んだセバスチャン。 けれど、彼の言う「ゆっくり」は、翌朝には早くも崩れ始めていた。 学内の視線、兄の沈黙、そして二人きりのアパート――。 外堀が埋まっていくスピードに戸惑いながらも、ジャスミンは彼が隠し持つ「男」の顔に、抗えない好奇心を抱き始める。 「……どうする? 俺と一緒に、いけないことするか?」 余裕の仮面を被るセバスチャンに、あどけない顔で、けれど大胆に踏み込んでいくジャスミン。 理性を繋ぎ止めようとする彼を、翻弄し、追い詰めていくのは彼女の方で……。 「ゆっくり」なんて、ただの建前。 一度火がついた熱は、誰にも止められない。 兄の親友という境界線を軽々と飛び越え、加速しすぎる二人の溺愛ラブストーリー。

ソツのない彼氏とスキのない彼女

吉野 那生
恋愛
特別目立つ訳ではない。 どちらかといえば地味だし、バリキャリという風でもない。 だけど…何故か気になってしまう。 気がつくと、彼女の姿を目で追っている。 *** 社内でも知らない者はいないという程、有名な彼。 爽やかな見た目、人懐っこく相手の懐にスルリと入り込む手腕。 そして、華やかな噂。 あまり得意なタイプではない。 どちらかといえば敬遠するタイプなのに…。

ひとつ屋根の下

瑞原唯子
恋愛
橘財閥の御曹司である遥は、両親のせいで孤児となった少女を引き取った。 純粋に責任を感じてのことだったが、いつしか彼女に惹かれていき――。

処理中です...