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しおりを挟む「駿さん、アルバムが届きましたよ~」
日曜日の昼下がり、宅配便のドライバーさんから箱を受け取ると、パソコンに向かっていた駿さんに声を掛けた。
駿さんは一旦作業を止めると立ち上がってリビングにやってきた。
「もう来たのか、早いな」
先日、私たちはフォトウェディングと食事会をした。
双方の家族と共にスタジオに入ると、先に駿さんが別室で衣装に着替えたのだが、正装した駿さんの姿に度肝を抜かれた。事前の衣装合わせの時にも見ていたものの、光沢のあるシルバーグレーのタキシード姿がそれはそれは見事にサマになっていて、とにかく素敵で、なが~い足も強調されていて、私はもちろんのこと、私のお母さん、スタジオ内の女性スタッフ全員、口を開けたままポ~と見惚れていた。
その後、スタジオのモデル写真として飾らせてもらえないかとスタジオの責任者の人から懇願されたが、駿さんが丁重にお断りをしたのでガックリ肩を落としていた。断ってくれてよかった…だってこんなカッコいい姿を大勢の人(女性)たちに見せたくないもの!
私のドレスは美しい繊細なレースのロングスリーブのマーメイド型で、髪にはドレスの雰囲気に合わせたクリーム色の花飾りを着けた。メイクも全て終わって完全な私のドレス姿を見るや否や、駿さんからこれでもかというくらい褒めちぎられ、そばに人がたくさんいるにもかかわらず、愛の言葉を囁きながら抱きしめられてキスをされそうになった。嬉しいやら恥ずかしいやら…。そんな駿さんのハイテンションにさすがに家族も含め周りの人たちは若干引いていた…。
スタジオで何パターンか写真を撮られている間も、私を見つめる目がひたすら優しく、ずっと表情が緩んでいた。とうとうカメラマンさんに「ご主人様~、奥様に見惚れる気持ちはよ~く分かりますが、そろそろ引き締まったお顔も何枚か取りたいので~」と言われてやっと我に返った駿さんに、スタッフさんたちも含めてみんなで笑ってしまった。
撮影終了後、レストランで食事をしている間も、駿さんは家族から冷やかされっぱなしだった。
ソファに並んで座り一緒にアルバムを開く。数パターン撮った中から厳選した、2人だけの写真が5枚、家族の集合写真が1枚。さすがプロに撮ってもらっただけあってどれも本当にいい写真だ。
あぁ…駿さん、何て素敵なんだろう…まるで王子様みたい…。
何度も見惚れていると横から肩を抱かれた。
「美沙絵のドレス姿…本当に綺麗だな…初めて俺の前に姿を現した時、あまりの美しさに男のスタッフに見られたくなくて隠したいと思ったくらいだったよ」
「駿さんだって…! 女性スタッフ全員をすっかり虜にしてましたよ」
こめかみに口づけされた。
「…美沙絵は? 俺の虜になってくれたか…?」
「もちろんです。私はいつだって駿さんの虜です…」
「…俺だっていつも美沙絵の虜だよ…愛してる…」
唇が重なり、徐々に口付けが深くなる…。
駿さんがアルバムを閉じると、私をソファにやさしく寝かし、私たちは甘いひと時に溺れた。
夕食後にペアのコーヒーカップでコーヒーを飲みながら、久しぶりにゆったりした夜を過ごす。このカップは涼子さんから結婚祝いでいただいたものだ。ドイツの老舗ブランドで、白磁にコバルトブルーで描かれた模様が美しく、カップの形も可愛くてとても気に入っている。
先月涼子さん夫妻と食事をした時のことをまた思い出して笑みが零れる。
やっと橘教授の論文の執筆が一段落し、駿さんの都合もついたところで、橘家に招かれて結婚祝いをしていただいたのだ。
初めて実物の駿さんを目の当たりにした時の涼子さんは本当に可笑しかった…。前に写真を見せていたのに、口を半開きにして呆然としていた。
「…下手な芸能人よりカッコいい…こんな人が本当に実在するなんて…小学校の先生にしておくのがもったいないわ…」
橘教授が呆れ顔で涼子さんの顔の前で手のひらをヒラヒラさせた。
「…お~い、涼子さ~ん、そろそろ戻ってこ~い」
それから私たちに済まなそうな顔をして「涼子が申し訳ないです…」と謝ると、
「お前、心の声が駄々洩れだぞ…全く。ほら、いつまでお客様を玄関に立たせているんだ」
橘教授に促されて正気に返った涼子さんは「やだ私ったらごめんなさい!」と慌ててリビングに案内してくれたのだった。それが駿さんが初めて実家に挨拶に行った時の両親のやり取りとそっくりだったので、私たちは思わず顔を見合わせて笑ってしまった。
ダイニングテーブルに着くと、橘教授セレクトのドイツワインで改めて祝福の言葉をお2人から頂き、乾杯をした。フルーティーな香りと風味がとても飲みやすく美味しかった。そして涼子さんが腕によりをかけて作ってくれたたくさんの料理に舌鼓を打ち、私が駿さんのことであーだこーだと悩んでいた頃の様子を涼子さんに暴露され思いっきり恥ずかしい思いをしたり、逆に駿さんが涼子さん夫妻の馴れ初めや教授に学生時代の涼子さんのことを尋ねると「それはもう猪突猛進でね、グイグイ迫られて参りましたよ」と笑ったので、涼子さんが「ちょっと哲哉さんヒドイ!…まあ事実だけど」とあっさり認めたのでみんなで大笑いしたり。楽しく和やかにお酒と食事が進み、駿さんと橘教授は年齢や立場を超えて意気投合し、2人とも興味深げにお互いの話を聞いていた。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、また都合が合えば一緒に食事をしよう、ということで、次回は私たちが夫妻を家にお招きすることに決まった。
私が顔を綻ばせていると、
「どうした? 嬉しそうな顔をして」
「この間橘家にお呼ばれした時のことを思い出して…。楽しかったなって」
駿さんも思い出したのか、笑顔になった。
「俺も楽しかったよ。涼子さんは明るくて面白いし、教授も親しみやすくて話しやすい人で。初対面だったのにすっかり打ち解けたな」
「本当に素敵なご夫婦ですよね。私の憧れなんです」
「俺たちも自分たちなりの形で、橘夫妻に負けないくらい、いつまでも幸せに、いい夫婦になろうな…」
そっと抱き寄せられ、髪に唇を当てられる。
「…何度でも言える、美沙絵と再会して俺の人生が変わった…。俺を好きでい続けてくれて本当にありがとう…。お前は俺の宝物だ。心から愛している…一生愛すると誓う」
駿さんの肩越しに、白いローチェストの上に並べられたブルーとピンクのガラスペンが見える。その隣にウェディング写真を飾る予定だ。あぁ…私たち夫婦の象徴がこうして増えていく…。
私だって何度でも言えます…。海堂先生…駿さん…奇跡の再会を経て、こうしてあなたと結ばれて、私は心から幸せです…。私がこれまでに好きになったのは、ただ1人…、海堂駿さん、あなただけです。10年前も、今も、そしてこれから先も、私の想いは変わりません。あなただけを心から愛しています…。
愛する人の澄んだ瞳を見つめながらそう告げると、いつだって私を蕩けさせてしまうくらいの極上の笑みを浮かべて、私を抱き上げ寝室に向かう。
翌日の仕事のことが一瞬頭を過ったが、情熱的なキスの雨を全身に降らされ唇や舌や掌や指で優しく愛されているうちに余計な事など何もかも頭から消え去り、心も体も幸福感に包まれていくのだった…。
ーFinー
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