秘められた願い~もしも10年後にまた会えたなら~

宮里澄玲

文字の大きさ
51 / 54
番外編

1. 正樹編

しおりを挟む
 
 「えっ、駿兄って美沙絵さんが小6の時の担任だったの?!」
 俺が盛大に驚くと、熱々のハンバーグステーキにハフハフ言いながら剛が意外そうな顔をした。
 「ふぁ~熱いけど旨いな~! そうだよ、知らなかったの?」
 「し、知らなかった…。今、初めて聞いた…」
 っていうか、教えてもらえなかったし…。
 それから剛はさらっと言った。 
 「ちなみに駿先生は姉ちゃんの初恋相手。それに、これまで好きになったのは駿先生だけなんだって」
 「えっ…」
 「10年ぶりに再会して、初恋が実って晴れて両思いになって結婚して結ばれたってわけ」
 「…そうだったのか」
 俺が複雑な心境になっているところに剛はさらに爆弾を落とした。 
 「だから、マー君がいくら頑張っても100%脈はないからもう諦めな」
 俺は一瞬言葉に詰まってしまった。
 「……ハッ?! な、何言ってんだ! 俺は別に…」
 「誤魔化してもムダだよ。好きなんでしょ、姉ちゃんのこと。先生と姉ちゃんのマンションで初めてマー君に会った時に分かっちゃったんだ、マー君の姉ちゃんを見る目で」
 「…っ!」
 剛の鋭いツッコミに俺は固まった。
 「でも、いくら好きでも、姉ちゃんは人妻になっちゃったんだからね」
 「……お前に言われなくても分かってるよ、そんなこと…」
 俺は顔をしかめると、注文したカツカレーを乱暴に口に運んだ。
 
 こいつ、トロそうな顔して意外と鋭いな…。
 
 俺の目の前で旨そうにハンバーグを食っている美沙絵さんの弟の剛とは先日初めて会った。
 駿兄と美沙絵さんが結婚してから数日後、俺が結婚祝を持って2人が住むマンションに行くと、大学の寮から実家に帰省していた剛もたまたま遊びに来ていたのだ。初対面で最初はぎこちなかったが、年が1つしか変わらず、剛の明るく人懐っこい人柄にだんだんと話が弾み、お互いにハマっている漫画が同じだと知るとすっかり意気投合した。美沙絵さんは俺と剛が仲良くなってとても嬉しそうだった。夜は美沙絵さんが手料理を振るまってくれ、どれもとても美味しかった。そして、駿兄と美沙絵さんが一緒に仲睦まじげに食事の後片付けをしているのを羨まし気に眺めていたのだが、ふと視線を感じると剛が俺を見ていたので慌ててついていたテレビの画面に顔を向けたのだった。剛にはあの時に見抜かれていたのかもしれない…。
 
 今日はそれぞれ面白かった漫画を貸し合う約束で駅前のファミレスで落ち合った。そして、色々話しているその流れで俺は駿兄と美沙絵さんの出会いの経緯や交際への発展とかを剛から聞いたのだった。剛も最初は姉の結婚相手が当時の小学校の先生だと分かって驚いたが、今はあんな優しくてイケメンで頼りがいがある年の離れた義兄さんができて鼻が高いよ~と嬉しそうに話していた。確かに駿兄は俺にとっても自慢のいとこだし、そんな風に言ってもらえて俺も嬉しく思った。 
 
 そうか…美沙絵さんは駿兄が初恋で、ずっと駿兄だけを…。
 よかったね、本当に好きな人と幸せになれて。
 今は本心からそう思えるし祝福できる。
 
 俺が美沙絵さんを初めて見たのは、聖智大に編入して間もない頃だった。
 講義のレポート提出のために調べ物がしたくて図書館に行った時のことだった。前にいた大学よりも遥に広くて蔵書数も多く、初めて来た俺は勝手がよく分からずに戸惑っていた。そこで、館員の人に聞こうとカウンターに行った時に対応してくれたのが美沙絵さんだった。一目惚れだった。とても綺麗で笑顔が素敵な人だと思った。俺が調べたいことを尋ねるとその分野の本が揃っているコーナーに案内してくれ、質問に丁寧に答えてくれ、お勧めの本を何冊か棚から出して渡してくれた。そして「また分からないことがあったらいつでも聞いてくださいね」と笑顔で言ってくれたのだ。それ以来、俺は講義が終わると図書館に向かい彼女の姿を眺めるのが日課となった。彼女と話したくて、調べ事を作ってレファレンスを度々お願いした。
 自分で言うのも何だが、俺は女にモテる。告白されたことも数知れず、カワイイ女の子から告白されればとりあえず付き合った。適当に付き合ってそのうち女の子から離れていってフェードアウトというパターンがほとんどだった。考えてみたら本気で誰かを好きになったことはなかった。でも、美沙絵さんは今まで付き合ってきた女の子たちとは違う何かを持っていた。図書館に来る学生や教授たちへの親切な対応、的確な仕事ぶり、レファレンスの素晴らしさ…。俺にはどのスタッフよりも彼女が有能に見えた。俺よりも年上だろうけど、こんな人が自分の彼女だったら幸せだろうなと思った。
 だが、俺は今まで苦労なく女の子と付き合えていたため、まさか告白してあっさりフラれるとは思ってもみなかった。面白くなくて、俺の告白に毅然とした態度でキッパリと断った美沙絵さんを怖がらせるようなマネを…。俺がもっとソフトなやり方で、もっと時間をかけて彼女と仲良くなっていったらもしかしたら…。いや、それでも最初から俺が入り込む余地は全くなかっただろう…。剛から話を聞いた後で尚更そう思った。
 
 彼女を見ると正直まだ少し胸が痛むけど…。
 
 ちょっと感傷的になっていると、剛が話しかけてきた。
 「ねえ、今度合コンのセッティングしてくれない? ウチの大学、男の方が多いから出会いがなくてさ~。聖智大ならカワイイ子いっぱいいそうだし、マー君なら女の子集めるの楽勝でしょ~?」
 そのあまりにも能天気な口調に俺はハッと我に返った。
 「えっ? 何だって?」
 「だから、今度聖智大の子と合コンしたいからセッティングしてって! ね、お願い! マー君の力でカワイイ子、集めて!」
 パンッと手を合わせて必死にお願いをする剛を見て、俺は気が抜けたと同時に笑いが込み上げてきた。
 「お前、必死すぎ! そんなに女に飢えてるの?」
 「だからウチの大学、女子が少ないんだって! 出会いも中々ないし、必死になるしかないじゃん!」
 「セッティングするのは構わないけど、女の子はみんな俺に釘付けになると思うからお前にチャンスはないよ」
 俺の言葉に剛が頬を思いっきり膨らませた後、あきれたような顔に変わった。
 「何その自信満々な態度…そんなんだから姉ちゃんにフラれるんだよ!」
 剛が俺が一番言われたくない言葉を言い放った。
 「お、おま…! 俺の心の傷にさらに塩を塗り込むようなことを…」
 「フンッ! ホントのことだろう。言われたくなければ自分が世界で一番モテると思い込んでいるその勘違いを改心しろ! 駿先生を見習え! マー君よりも遥にイケメンでモテるだろうに全然そんな素振り見せないし、どんなにモテても姉ちゃんしか見てないんだから」
 「うっ……」 
 チクショウ…。言いたい放題言いやがって…。
 だが、悔しいが認めるしかなさそうだ…。
 
 そうだな、来年は卒業して社会人になることだし、遊びの恋愛もそろそろ卒業するか…。
 美沙絵さん以上に綺麗で素敵な子はいるのかな…。もしいつかそんな子が俺の前に現れて本気で好きになれたら…焦らずに誠心誠意想いを伝えよう。もう美沙絵さんの時のような失敗はしたくない。
 そしてもし両思いになれたら…あの夫妻や剛が羨むくらいラブラブなカップルになってやろう。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】結婚式の隣の席

山田森湖
恋愛
親友の結婚式、隣の席に座ったのは——かつて同じ人を想っていた男性だった。 ふとした共感から始まった、ふたりの一夜とその先の関係。 「幸せになってやろう」 過去の想いを超えて、新たな恋に踏み出すラブストーリー。

元カノと復縁する方法

なとみ
恋愛
「別れよっか」 同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。 会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。 自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。 表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!

幸せのありか

神室さち
恋愛
 兄の解雇に伴って、本社に呼び戻された氷川哉(ひかわさい)は兄の仕事の後始末とも言える関係企業の整理合理化を進めていた。  決定を下した日、彼のもとに行野樹理(ゆきのじゅり)と名乗る高校生の少女がやってくる。父親の会社との取引を継続してくれるようにと。  哉は、人生というゲームの余興に、一年以内に哉の提示する再建計画をやり遂げれば、以降も取引を続行することを決める。  担保として、樹理を差し出すのならと。止める両親を振りきり、樹理は彼のもとへ行くことを決意した。  とかなんとか書きつつ、幸せのありかを探すお話。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 自サイトに掲載していた作品を、閉鎖により移行。 視点がちょいちょい変わるので、タイトルに記載。 キリのいいところで切るので各話の文字数は一定ではありません。 ものすごく短いページもあります。サクサク更新する予定。 本日何話目、とかの注意は特に入りません。しおりで対応していただけるとありがたいです。 別小説「やさしいキスの見つけ方」のスピンオフとして生まれた作品ですが、メインは単独でも読めます。 直接的な表現はないので全年齢で公開します。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜

葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在 一緒にいるのに 言えない言葉 すれ違い、通り過ぎる二人の想いは いつか重なるのだろうか… 心に秘めた想いを いつか伝えてもいいのだろうか… 遠回りする幼馴染二人の恋の行方は? 幼い頃からいつも一緒にいた 幼馴染の朱里と瑛。 瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、 朱里を遠ざけようとする。 そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて… ・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・ 栗田 朱里(21歳)… 大学生 桐生 瑛(21歳)… 大学生 桐生ホールディングス 御曹司

【完結】夕凪のピボット

那月 結音
恋愛
 季節は三度目の梅雨。  大学入学を機に日本で暮らし始めた佐伯瑛茉(さえきえま)は、住んでいたマンションの改築工事のため、三ヶ月間の仮住まいを余儀なくされる。  退去先が決まらず、苦慮していた折。  バイト先の店長から、彼の親友である九条光学副社長、九条崇弥(くじょうたかや)の自宅を退去先として提案される。  戸惑いつつも、瑛茉は提案を受け入れることに。    期間限定同居から始まる、女子大生と御曹司の、とある夏のおはなし。 ✴︎ ゚・*:.。..。.:*・゜✴︎ ゚・*:.。..。.:*・゜✴︎ ゚・*:.。..。.:*・゜✴︎ 【登場人物】  ・佐伯 瑛茉(さえき えま)    文学部3年生。日本史専攻。日米ハーフ。    22歳。160cm。  ・九条 崇弥(くじょう たかや)    株式会社九条光学副社長。    32歳。182cm。  ・月尾 悠(つきお はるか)    和モダンカフェ『月見茶房』店主。崇弥の親友。    32歳。180cm。 ✴︎ ゚・*:.。..。.:*・゜✴︎ ゚・*:.。..。.:*・゜✴︎ ゚・*:.。..。.:*・゜✴︎ ※2024年初出

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

処理中です...