洪鐘祭でキス

壺の蓋政五郎

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洪鐘祭でキス 5

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「そういや百姓が消えたな。山ノ内は他所から食料を調達しなければ食っていけない。かと言って産業はねえしな」
「ああ観光だけだ、その観光に俺達が力を入れなきゃ駄目だ。寺や神社に任せっ放しじゃ発展はねえだろう。これがチャンスだと俺は思うよ。今回の洪鐘祭を成功させて60年後にはマスコミが大騒ぎするようなイベントにしたい」
 説明会の裏方を務めている二人は説明会をのぞき見しながら熱い話をしている。
「それでは本日の説明会を終了いたします」
 司会進行が一礼した。パチパチと不規則な拍手が続く。
「あの二人組は見たことねえな」
「氏子会の誰かが員数合わせに連れて来たんじゃねえか」
「そういや半分は二回来てるな」
「ああ、残りの半分は歴史好きで協力者じゃない」
「あの人達をこっち側につかせるのが俺達の役目だ」
「そうだな、例大祭を盛り上げて、洪鐘祭をアピールしよう」
 二人の地元意識が沸々と燃え上がる。二人の視線が雨の鎌倉街道を帰路につく客の背中に突き刺さる。

「こんにちは」
 上町の矢島宅を訪れたのは長谷川誠二である。先日、価値観の違いから矢島にそっぽを向かれた長谷川は矢島の後を追い謝罪した。その時矢島と酒を酌み交わしていくうちに自分がこの町のことを何も知らないことに気付かされた。そして自分の配慮のなさを反省した。その時御馳走になったお返しにと焼売と酒を手土産に訪れた。
「あらいらっしゃい、待ってるわよ」
 矢島の義理の妹である矢島良子が出迎えた。長谷川は予め矢島に電話を入れていた。
「これ、ありきたりですけど焼売です」
「あら、ありがとう、次から気遣い要らないからね。繰り返しになるとお互い大変だから。うちはあるものしか出さないから気兼ねしないで来て欲しいの。いいわね、次から手ぶらよ」
 良子が笑った。確かにその通りである。手土産を空で返すわけにはいかなくなる。余計に負担を掛けてしまうと長谷川は反省した。考え過ぎが裏目に出た。
「はい、ありがとうございます」
「でも焼売は別よ、いつでも歓迎」
 下を向いた長谷川を励ました。
「こんにちは」
「先ずビールか?」
 矢島の隣に男がいる。
「うちの次男坊で亨だ」
「矢島亨です」
「長谷川誠二です」
「会社首になって戻って来た」
「違うよおやじ、会社が潰れたんだよ」
 笑う父親に反論した。
「大変だったね」
 誠二が挨拶代わりの他人事。
「親父から聞いたけど長谷川さんと俺は同じ齢だって」
 亨が誠二に言った。
「今年25?」
 亨が頷いた。良子が料理を運んだ。酒盛りが始まる。矢島が先にダウンした。
「長谷川さんは酒強いね」
 良子が矢島を寝かしつけテーブルについた。
「親父は口ほどじゃないんだ」
 亨が冷かした。
「神輿と消防で鍛えられました」
 神輿も消防も集まれば酒盛りである。
「亨君も強いじゃない。やっぱり会社で覚えた?」
 良子が煽てた。
「そんなことはないけど久々に親父に誘われて嬉しかったから」
 矢島は誠二が訪ねて来るに合わせて亨に声を掛けていたのである。仕事が不調で悩んでいる次男に誠二をぶつけたのである。親の叱りは小言になってしまう。同年代の誠二に刺激を与えて欲しかった。神輿でも消防でも一目置かれている誠二ならいいヒントを与えてくれると期待していた。
「おばさんは大船まで買い物に行くから」
 良子が出て行った。
「長谷川さんは仕事してないんでしょ?」
「誠二でいいよ。僕も亨って呼ぶから」
 呼び名は自然と呼び合うようになるもんである。お互いが呼び名を決めるのは照れ臭い。亨は照れ臭かった。しかし誠二が昔馴染みのように呼び捨てるからそれに合わせるようになった。
「誠二は大学出てんでしょ、なんで仕事に就かないの?」
「実は商社に決まり掛けてた。だけど辞めた」
「何で?」
「山ノ内の神輿だよ。すげえかわいい子がいて、その子に近付きたくて睦会に入ったんだ」
「それが商社を振った理由?」
「そう」
 二人は笑い転げた。
「そしたら消防にも参加する羽目になってさ、それが楽しくてさ、この町の付き合いをずっと続けたいと思ったんだ。勿論彼女のことは今でも憧れの的だよ」
「打ち明けたの?」
「いや、そん時高校一年だったって知った。彼女が高校卒業するまで待とうと決めた」
「誰?」
「誰にも言うなよ。絶対だよ。高宮愛って言うんだ」
「高宮って十王堂橋の手前の?昔は旅館をしてたんじゃない」
 誠二が頷いた。
「気付かれていないのか?」
「多分」
「告白するなら早い方がいいんじゃない。進学するにしろ就職するにしろ都会の男に憧れるよ田舎の女は」
 自分の経験で話した。
「いいんだ、断られたら諦める。山ノ内で仕事探す」
「山ノ内に仕事なんてないって。街道沿いの商店の倅達も店仕舞いを考えているよ。古い建築の親方連中もみんな辞めちゃって職人になることすらできない。俺も高卒で鳶になろうと思ってたんだ。だけどそこの親方に『止めとけ』って言われた時はショックだった。いずれは独立を考えていたんだ」
「何でその親方は止めろって言ったの?」
「食えないからだよ。それが分かっているから鳶なんて辞めろって言ったんだ。息子が役所に入った時は飛び上がって喜んでいたのを見た。普通逆じゃないか、息子が仕事を継ぐって言ったらどんなに嬉しいと思うけど、今はそうじゃないんだ。この辺の職人は地元じゃやっていけない。それで俺は横浜の運送屋に入ったんだ」
「それで横浜で就職したんだ」
「ああ、それも新型ウィルスで潰れちゃった。何て言うかついていないって言うか」
 亨はツキのなさを嘆いた。
「ねえ亨、もしよかったら僕と組まないか?」
「組むって?」
「睦会の漆戸さんが水道屋のアルバイトなら紹介してくれるんだ。山崎の水道屋さんだけど残土を運搬したり穴掘りをしたりする作業員を募集している。亨は運送屋でプロだし、僕も体力には自信がある。そして山ノ内や山崎、いや鎌倉の地元業者へ作業員を派遣する仕事を立ち上げようよ。初めは二人だけど需要が増せば仲間を増やせばいい」
「需要がなければ?」
「いつまでも二人だっていいじゃん」
 亨がテーブルの上で手を出した。誠二がそれを握った。

 パレードは午前中で終わった。円覚寺に集まった関係者は弁天堂に集まり祭りの成功に手を合わせていた。狭い敷地に大勢が集まった。
「みなさん、ご苦労様でした。支度がしてありますから店の方に移動してください」
 実行委員が直来の案内をする。直来に招待されているのは地元の有力者だけで各町内の参加者はこれで解散となる。
「下りないのか?」
 面掛の責任者である西野が雅恵に言った。雅恵がもじもじしている。雅恵の横に相馬がいる。
「ああ、そう言うことね、後でうちに寄って下さいよ先生。餃子をたくさん用意していますから、ビールごちそうします」
「ありがとうございます。ちょっと確認したいことがあるので終わったらすぐに行きます」
「慌てる事ありませんよ先生、高宮から聞いていますよ。雅恵ちゃんいい子ですよ」
 高宮夫妻は行き会う人に雅恵の婿を相馬にすると吹聴している。そして弁天堂には相馬と雅恵以外誰もいなくなった。
「何か話が大袈裟になってしまったな」
 相馬が頭を掻いた。
「先生は嫌なの?」
 雅恵が訊いた。
「雅恵はまだ学生だ、これから社会に出て色んな人と出遭う。そしたら考えは変わってしまうもんだ。私がそうだった」
「どうして?変わらなければいいんでしょ」
「雅恵、君にここで人生を決めて欲しくない。社会に出て色んな経験をして、自分のやりたいことを見付けるんだ。そしてそれに向けて頑張るんだ。失敗はつきものだ、その時支えになってくれる人が伴侶となるんだよ。雅恵のご両親は私を買い被っているんだ。私はそんな立派な男じゃない。母親の面倒を看ることを放棄しようとしている最低の男だ」
 相馬が弁天様に手を合わせた。雅恵もそれに倣った。
「先生、三つ目のお祈り教えて?」
 相馬は笑っただけで答えない。雅恵は60年後も相馬と一緒にここに来れることを祈った。そしてキスをしたいと手を合わせた。二人の二拍一礼が重なった。風向きが逆になった。北風が強くなり雑木を揺らす。弁天堂の左の格子戸が開いた。昨日の男が出て来た。
「ああっ、あの人だ」
 雅恵が相馬の腕に掴まった。相馬も雅恵の肩を抱いた。男は縁側で丘足袋の裏を合わせてパンパンと叩いた。縁側に座り足袋を履いて浴衣の裾を端折った。腰に下げた手拭いを抜いてくるくると回して鉢巻きにした。橦木を二度引いた。三度目を大きく引いて鐘を突いた。鐘の音が空気を揺らす。次元の境が曖昧になる。男は弁天堂に消えて行った。鐘の音が止むと二人は抱き合いキスをしていた。二人はさっと離れた。二人共無意識のうちの出来事である。雅恵はこの結果を求めていたが実際そうなると恥ずかしかった。相馬は生徒に二日続けてキスをしてしまったことを恥じた。
「ごめん、雅恵、先生どうかしてる。昨日と一緒だ。鐘の音に意識を失い雅恵を抱いていた」
「いいの。あたし嬉しい。先生、あたしをお嫁さんにして」
 雅恵がもう一度抱き付いた。今度は自分の意思である。
「雅恵」
 唇を重ねた。相馬も自分の意思である。単なる偶然じゃない、男としての責任が生じた瞬間である。

「高宮、高宮」
 担任の加山が愛を呼んでいる。愛は弁天堂での不思議な体験を想い出してボーっとしていた。
「高宮」
 三度目の大声で気付いて立ち上がる。
「はい」
「何がはいなの?」
「すいません」
「お前最近おかしいぞ」
「すいません」
「後で職員室来い」
 授業が終わり職員室に行った。
「座れ」
 愛が座ると加山は膝が付くほど椅子を近付けた。
「先生、マスクから鼻が出てる」
「もういいと思うけどなマスクも」
 GW明けから5類に格下げになる新型ウィルスである。暴れ回ったがいよいよ普通の風邪に成り下がった。
「うち、おばあちゃんがいるからうつしたくないんです」
「じゃ先生が感染者みてえじゃねえか」
「先生、よく大船で飲んでるから、確率高いと思います」
「ばかやろう、酒で消毒してんから大丈夫だよ。そうじゃないよ、お前のことだよ。短大に決めたか?授業中もぼーっとしやがって。お前は行けるとしてもやっとなんだぞ。短大から近付いちゃ来ないぞ、楽勝で行けるなら俺はそんなにお前のことを構わないよ」
 愛の成績では加山が押す短大も楽ではない。
「あたし行きません。就職もしません。山ノ内のお店でアルバイトします」
「お前、山ノ内に何軒あるんだ店が、それに見て分かんだろ、家族で食うのがやっとの商店ばかりじゃねえか」
「言ってやろう、あたし全部のお店知っているから加山先生が悪口言ったの報告します」
「何となくの話だよ、話を大きくしてどうすんだ。先生居づらくなるじゃねえか。だけどアルバイトが必要な店があるか?」
「何軒も掛け持ちします。それぞれの忙しい時間帯だけでいいんです。出前でもなんでもします」
 加山は呆れて頭を掻いた。
「まあいい、近いうちにお前んち行く。お父さんと話す。それよりお前この一週間ずっと外ばかり見てるな。何かあったのか?進学指導だけが俺の仕事じゃないぞ、苦しいことがあったらドーンとぶつかって来い」
 加山が胸を叩いた。
「青春映画の見過ぎです」
 愛が笑った。
「先生、先生は異次元を信じますか?」
「ワレワレハウチュウジンダ」
 加山が喉を手刀で震わせた。
「先生、あたし真面目なの。あたしその境目に入ったの」
 加山は愛の額に掌を当てた。
「まさかうつったんじゃねえだろうなあ」
「違います。先生はそう言う体験ありませんか?」
 加山は考えた。
「中学生の時にな、科学の先生に質問したことがあるんだ。『先生、宇宙は無限と言うけど本当に無限なんですか?』」
「その先生は何て答えたんですか?」
「うん。その先生はな『もし壁があるとする、その壁はどこまであるでしょうか。無限の壁になる』こう答えた。俺は目からうろこだったな。だから宇宙は無限大だと信じている。そして無限大の数を宇宙と準えて数学を目指した」
 異次元と直接関係のない話だが宇宙が無限である話は愛を力付けた。
「私も信じます」
「数字は縦の列だと思う。もし横の列があればその交差する所に何かが発生するかもしれないな。無限と無限がぶつかり合うところに異次元があるかもしれない」
「そうですよ、先生凄い、もし横の線があるとすれば先生は何だと思います」
 愛は加山の答えを期待した。
「それは・・・・」
「それは?」
「愛だな、愛は永遠だ、数の無限と愛の永遠が交差する。当然力の駆け引きが生じる。そこに異次元が発生する」
「先生、ありがとうございます」
 愛は立ち上がり職員室を出た。
「おい、高宮、あっと言う間の愛もあるぞ」
 廊下で振り返り笑って手を振った。

「あなた、最近愛の様子がおかしんですよ。帰宅するとすぐに円覚寺に行くんです。それでおばあちゃんと一緒に帰って来るんです」
 愛の母親、高宮栄子が仕事帰りの夫高宮俊司に報告した。夫婦共働きである。栄子はパン工場でパート、夫はガードマンをしている。先先代が家業の旅館を畳んでアパートにした。12戸あり全て入居している。節約すれば家賃収入だけでも生活は成り立つが自分達の小遣いが不足する。二人の収入を合わせ、それを二分して小遣いとしている。どうして二分かと言うと栄子には家事がありフルのパートは困難だからである。家事も仕事の一部として計算している。栄子は雅恵の一人娘で俊司は高宮家に養子として入った。優柔不断な性格が養子には適していた。
「そりゃいいことだ、おばあちゃんの運動不足解消にもなるし、愛が仏教に芽生えてくれれば優しい子になる」
 リュックサックからヘルメットと反射ベストを取り出しながら答えた。
「愛は短大へ進学させるんですよ。担任の加山先生が言うには自宅から一番近い戸塚の短大は愛の学習能力じゃぎりぎりらしいのよ。少し力を入れないと危ないって言うのにあの子はまるでやる気なし」
 栄子は絶対に愛を進学させたい。出来る事なら4年生の大学に進学して欲しい、だが愛が頑なに拒んでいるため、二人の間をとって短大にしたのである。
「愛は短大も行きたくないって聞いたぞ。俺達の子だよ、短大に二年通ったからと言って天才になるわけないしな。だったら好きなことさせてやりゃあいいじゃねえか。これ暑いんだぞ」
 反射ベストを広げて栄子に見せた。
「なんか油臭い」
「アスファルトが付いたんだ。洗ってこよう」
「洗濯機使わないでくださいよ。下着まで臭いがうつっちゃうから」
 俊司は外の流しで洗い物を始めた。
「ただいま、あら洗濯ですか、そこへ置いといてくださいよ、あたしがやりますよ」
 雅恵が草刈りから帰宅した。
「お義母さんお帰りなさい。大丈夫、洗濯も婿の仕事ですよ」
 俊司が笑った。雅恵は申し訳なさそうに頷いた。
「お前、俊司さんの洗濯物ぐらい洗ってあげなさいよ」
 部屋に入るなり栄子に言った。
「夫婦間の約束ですから」
「そんなこと言ったってお前の方がパートの時間短いじゃないか」
「その分家事があります。あの人は家事もしないしあたしの下着を洗ってくれるわけでもありません。仕事専用の衣服は自分で洗うってうちの人が決めたんです」
 雅恵は今時の夫婦に呆れた。
「それよりおばあちゃん、愛に行き会いませんでしたか?」
「あたしは八雲神社に草刈りに行っていたけど今日は来ないよ」
「そう、最近愛がおかしいと思いませんか、おばあちゃん、何か知ってるでしょ?」
 栄子は上目遣いで雅恵を見つめた。雅恵はそっぽを向いた。
「あたしは何も知らないよ。年頃だから色々悩みもあるんだよ。そうやって大人になるんだ。お前もそうだったじゃないか、高校生の時家出したろ、そん時あたし達がどれだけ心配したか、愛は家出はしないよ、この家を継ごうっていい子だよ」
 形勢が不利になった時、必ず家出の話を出す。自分の過去に触れられるぐらい恥ずかしいことはない。娘を叱る時に『あ母さんだってそうだったじゃない』と反論されるのが一番苦しい。
「おばあちゃん、お願い、愛を短大に行くよう説得して、おばあちゃんの意見はちゃんと聞く子だから」
「まあ、言ってはみるけどね」
 雅恵もこれ以上詮索されたくない。60年前に高校教師と洪鐘の前でキスしたことが娘の栄子にばれたら恥ずかしくて合わせる顔がない。
「来週早々に担任の加山先生が来るらしいの。愛の進路のことで、その時おばあちゃんも立ち会って短大行きを勧めてくださいね」
 栄子には見栄があった。近所の子等はほとんどが進学している。自分ちの子だけが家督のために進学を諦めたと勘違いされるのが嫌だった。逆に雅恵は愛がこの家を継いでアルバイトしながらボランティア活動や地元の子等に囃子を教えて生きる道に賛成である。婿になる物好きがいればこれ幸いだし、仮に生涯独身でもそれはそれでいいと思っていた。代が途切れればこの土地を売って赤十字にでも寄付すればそれですっきりすると思っている。
「おばあちゃん、買い物に行って来ます」
 栄子が自分の愛車に乗り込んだ。
「たまには近所で買ってあげなよ」
 地元住人は買い物と言えばほとんどが大船や藤沢の大型スーパーに行ってしまう。平成の初めまで営業していた鎌倉街道沿いの魚屋も八百屋も消えてしまった。栄子も地元付き合いの大切さはよく分かっている。だがそれほど余裕がある家計ではない。品数が豊富な上に安価な大型スーパーを利用するのは致し方のない現状である。栄子は頷いて発車した。
「お義母さん」
 庭で婿の俊司が呼んでいる。
「どうかしましたか?」
 俊司は縁側に座っていた。
「お義母さんに相談があるんですけど」
「なんだろうねえ、少し恐いわ。お茶を入れましょう」
 雅恵は茶の支度をした。
「いただきます」
 優柔不断だが律儀である。婿の代名詞のような男である。
「あそこの角にソメイヨシノを植えようかと思っているんですけどお義母さんの許しを請いたくて」
「桜ねえ、いいじゃない」
「そうですか、ありがとうございます。次の洪鐘祭の時には老木になりますけど満開になれば素晴らしい花を咲かせてくれます。次の祭りには私もうちの奴も生きていませんからね。ああ栄子は分からないなあ、110まで生きても不思議はない。そうだ生きていて欲しい。愛と栄子が縁側で花見をしてくれたらいいですね」
 この家に婿に入り20年が経った。雅恵は俊司で良かったと改めて感じた。  
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