壺の蓋政五郎

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色『白いタオルの誠』終

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 成人と川上はこの場限りの、門外不出の年齢を超えた友情を確かめ合いながらどうにかブームの先端まで来た。目の前にはもう何も無い、ランドマークタワーがそびえている。
「ぼ、僕が、わ、ワイヤーを滑車に通して、か、川上さんにわ、渡しますから、そ、そこで、Uターンして、こ、今度はか、川上さんが先導してください」
「Uターンてここでだっか? そりゃあ無茶やおまへんか、落ちたら死にまっせ」
「じゃ、じゃあずっとここで、こ、こうしてるつもり?」
「分かりました。やってみまひょ。右回りの方がええでっしゃろか?」
「ど、どっち回りでも、い、いいけど、ひ、左回りだと、ふ、富士山が見えるよ」
「ほうでっか? ではお言葉に甘えて」
 川上は覚悟を決め幅六十センチのブームの先端で回り始めた。カメレオンが左側にいる獲物を狙っているように見える。成人も滑車にワイヤーを垂らし、手を伸ばし垂れ下がったワイヤーを手繰り寄せ、同じく左回りで身体の向きを変えた。
「山崎はーん、聞こえまっかーっ」
「そ、そんなに、お、大声でよ、呼ばなくても、き、聞こえるよ」
「前におらへんからどないしたのかと」
「こ、ここにいるよ。す、すぐ、後ろに。そ、その場で、Uターンしたんだから距離は変わらないよ」
「登ってる時はそれほど感じまへんかったけど、結構な勾配でんなあ、公園の滑り台ぐらいありますよこれ。わてとても進めまへん。お願いだす。山崎はん先に行ってもらえまへんか」
「も、もらえまへんかって。む、無茶いうたら、あ、あきまへん。だ、大体、ど、どうやって、か、身体入れ替えるんですか?」
「わてにいい作戦がおまんのや。わてがこうやって亀さんみたいに縮こまるさかい、山崎はんはウサギさんみたいにピョーンと跳ねておくれやす。ほなはいよ」
「は、はいよって、か、川上さん、お、親方に、い、言いつけますよ」
「それだけはご勘弁を。そうでっか、やっぱりプロでも無理だっか。お願いがあります。わしどないしても前へ進む事出来まへん、限界だす。ほやから山崎はん後ろからど突いておくれやす」
 のびた蛙のケツに頭を突っ込んだ。シャトルが宇宙基地にドッキングするようである。川上がピーンと張ってある親綱を強く握り締めているので成人は相当な力で押さなければ進まない。数センチ、数センチ、ブームの根元に近付いて行った。
「ま、また一段と、お、重くなったけど、ど、どうかしましたか?」
「へい、わてもおかしいと感じてまんのや。頭に何か障害物があるような」
「いくら押してもそれ以上進みませんよ。ブームの根元ですから」
 川上が当たっていたのは鳶のリーダーの足だった。
「あっ、リーダーだ、山崎はんリーダーでっせ。リーダーわてら行って来ましたよ。ええ約束通り」
「た、ただ今戻りました。よ、良かったね川上さん」
「時間がかかり過ぎですが、まあ安全にやってくれてるからいいでしょう。次は一番左の滑車に通して来て下さい。これもワイヤーは上から下へ、間違えないように」
「えええーっ、大将も冗談がきつい。なあ山崎はん?」
「あ、あと何回行くんですか、リ、リーダー?」
「ええとねえ、左四回、右三回の七回ですね。これが今日のノルマですから残業してでも終らせますのでそのつもりで」
 成人と川上は諦めて又ブームにへばり付いた。のびた蛙姿で一連の繰り返し作業を八回こなした。ランドマークタワーが真っ赤に燃えていた。富士山の右にお日様が沈んでいく途中だ。二十八階の仮設エレベーター乗り場で末吉は成人を待っていた。末吉達は、近藤の指示で今日の作業を終えていたが成人が心配でならなかった。成人はエレベーターから下りて末吉の顔が目に入ると自然に涙が溢れた。
「成さん、いいから、もういいから。よく頑張ったなあ俺でさえいっぱいいっぱいだったのによう、すげえじゃねえか、あんなとこで何回も往復するなんて、とても始めて七分ズボン穿いたふうには見えねえよ。よっ、この鳶職」
「えっ、市村はんも俄か鳶だったんだすか? そうだったんでっか、それをわての為に、リードしてくれて」
 川上が成人に礼を言った。
「と言うとあんたもど素人か? そうか成さん、このおっさんがびびらねえように自分のこと隠していたんだな、カッコつけやがって、似合わねえっつうの。ようおっさん、俺の自慢出切る真友だよ、羨ましいだろっ」
「さあ着きましたよ。ご苦労さんでした。詰所に親父が来てるから手間もらって行って下さい。実は今日はね、日曜日で職人の休みが多くて、臨時のあなた方で間に合わせたんだけど、初めてなのに良くやってくれたわみんな、根性あるわ」
 鳶のリーダーがお世辞を言った。
「リ、リーダーは、し、知ってて。あ、ありがとうございます」
「いいから、いいから、親父には内緒だよ、これで帰りビールでも飲んで」
 鳶のリーダーが四つ折りにした五千円札を成人の前に差し出した。
「おおきに、えらいすんまへん」
 川上がサッとリーダーの手から抜き去ってポケットにしまった。鳶のリーダーは事務所に行くと言って手を挙げた。三人も呼応するように手を挙げて答えた。
「山崎はんはどちらの出身だす?」
 川上が成人に尋ねた。
「ぼ、僕は京都のう、生まれだよ。か、川上さんのか、関西弁が、な、懐かしかった」
「ほんまかいな、京都のどこだす?」
「ま、舞鶴なんだ。も、もうじゅ、十五年になるなあ、か、変わったろうなあ」
「偶然続きや、神様のお引き合わせや。このまま帰れへん。山崎はん、一杯付き合ってもらえまへんか、お題は勿論『我がふるさと舞鶴』なんてどないだす?」
「行ってこいよ、成さん。ふるさとってのはいいもんだ。たまに想い出したってばちは当たらねえよ。ほら、これ持ってけ。つまみ代ぐらいにはなるだろう。俺はこれから山さんから借りた作業着を洗いにコインランドリーに行くから、成さんのもついでに洗ってやるよ、こっちに寄越しな」
 関西人同士の故郷談話に末吉が一万円をカンパした。
「あ、ありがとう。せ、洗濯は、お、お願いするけど、こ、これは、う、受け取れないよ。い、命か、か、懸けて、か、稼いだ、金じゃないか」
「いいから持ってけ、夜が明けちまうよ。なあに気にすることはねえ、そういうもんだ、真友ってのはよ」
「あ、ありがとう」
「えろうすんまへん」
 末吉は二人と関内駅北口で別れた。成人のこんな楽しそうな笑顔を見るのは久し振りであった。初対面でも同郷の人間と接すると和んでしまうものである。サウナでさっぱりして焼き鳥屋で生ビールを煽り、うな丼でもかっ喰らって、カプセルホテルにチェックインして、起こされるまで眠っていようと算段していたが見事に崩れた。『しょうがねえや。サウナは銭湯で、焼き鳥とビールはコンビニで、うな丼は牛丼で、カプセルホテルは体育館の駐車場だ。ゆっくり寝ている訳にはいかねえが、早起きは三文の徳だ。ダチの為に我慢しよう』そう段取り替えをして真金町の銭湯に向かった。
「気風のええ兄さんやなあ、江戸っ子だっか?」
「ひ、広い意味で、そうかも、し、知れないなあ、と、東京のは、外れだけどね」
「山崎はん、近くに公衆便所おまへんか? わし感動すると糞したくなるんや」
「え、駅は?、か、貸してくれるよ」
「もうちっと人気のないとこおまへんか? 駅はどうも」
「お、大通り公園がいいよ。ぼ、僕等のトイレ、み、みたいなもんだから」
「さっきの兄さんおらんやろな?」
「い、今頃は、せ、銭湯だよ。末ちゃん、な、長湯なんだ、それに熱いの苦手なんだよ。え、江戸っ子気取ってるのに、お、可笑しいね」
「ところで山崎はん、お身内は? お父さんとかお母さんとかおらへんの?」
「じ、実の両親は、い、いないよ。そ、それに、ひ、一人っ子みたいな、も、もんだし、て、天涯孤独ってい、言うのかなあ、か、帰る家もないし、で、でも末ちゃんは違うよ。こ、高校も、そ、卒業してるし、い、家だってちゃ、ちゃんとあるよ」
「へーっそうだっか」
 成人は勝手知ってる公園のトイレでTシャツを脱ぎ、雑巾タオルで汗臭さい上半身を拭いていた。川上は辺りを窺い大便所に入った。
「うわーっ、なんやこれ、山崎はん、一寸来ておくれやす。何やこれ」
「ど、どうしたの」
「これや、これ見ておくれやす」
 川上は成人に便器を覗かせた。そして中に押し込みドアを閉めてバックから取り出した刺身包丁で成人の腹を刺してえぐった。
「わあああっ」
 成人は苦しくて声にならずに喘いだ。
「どうした? ああっ、ドモッってんのか唸ってんのかどっちや? ほらおまけや」
 そしてえぐりながら包丁を抜きもう一度刺し込んだ。
「あうあっ、な、なんで」
「なんでって、さっき言うたろ。天涯孤独やって、お前みたいなフーテンは生きておっても税金の無駄遣いや、早く始末つけた方が国民の為なんや、ほんまはわてかて辛いんやで。それとなあ、聞き辛いお前のドモリ、迷惑なんやみんな。無理して聞いておんのやで。真友面したあのお兄ちゃんかてわしに言うとったわ、なんとかならんかって、お前が死んだら喜ぶぜえ、あのお兄ちゃんもはっはっはっ」
「う、嘘だ、う、嘘だ」
「なんや、はっきり喋らんかい。痛いのんか? そうかあ? そりゃ悪かったのう。わしがきっちりとお前等の金で通夜やったるさかい安心して地獄へ落ちいや、それとなあ舞鶴なんてわし知らんのや、実はわしなあ、東京生まれなんだよ、このバカッタレッはっはっ。ほら止めだ」
 川上は三度目を下腹におもいきり刺し込んだ。
「まっ」
 末吉と発声したかったが息が絶えた。川上は成人の雑巾タオルで刺身包丁の血を拭い、サラシで作った鞘に収めた。成人のズボンのポケットからクシャクシャになった札を引き出し、きちんと伸ばして自分の札入れに仕舞い込んだ。辺りを窺い、ひと気の無いのを確認すると悠々と伊勢崎町に消えていった。成人は鬼のような形相で天上を睨んで死んでいる。ほの暗い公園には若者達のスケートボードのジーというローラーの転がる音だけが響いている。

 明け方三時頃、手配士の山本は大きな荷台の付いた自転車で末吉を捜していた。この辺を根城にしているホームレスから末吉のねぐらを突き止めた。
「おおいっ、起きろ。おおいっ末、末っ、」
「お、おはよっす。山さん、あっ、作業着、ランドリーの乾燥機に入れっぱなしなんですよ。今すぐ持って来ます」
「いいよそんなの。おい驚くな、ドモリが殺られた」
「や、やられたって何を?」
「ちぇっ、鈍い野郎だ、ドモリが殺されたんだよっ」
「殺されたって、誰が?」
「ドモリだよドモリの山崎だよっ、何度も言わせるんじゃねえよ」
「どうしてあいつが?」
「警察が俺んとこに探りに来た。昨日俺がお前等手配した現場の吉田組にも調べが入ってる。おめえを疑ってるよ警察は。末、おめえじゃねえのは俺がよく知ってる。だが今ガラ押さえられると取り返しのつかねえことに成るかも知れねえ。フーテンの能書きなんて信用しねえからな奴等。兎に角隠れてろ、なんだったら埠頭の倉庫に行くか? 紹介してやるから。そこなら何日いても安心だ」
「すんません山さん。でも俺当たり付いてます。成を殺った奴は川上って言う関西弁の六十ぐらいの男なんです。歳の割にがたいのいい奴で、調子のいいお喋り野郎でした、成の馬鹿野郎、すっかり騙されて。山さんお願いです、山さんのアンテナ伸ばして探ってくれませんか? お願いします」
「見つけてどうすんだ? よう? どうすんだ末っ? くだらねえ事考えねえこったな。わかったよ、腐れ外道の所在当たってやるよ。昼間はまずいから晩の七時に船のドヤに顔出せ」
「ありがとうございます。山さん」
 末吉は日の出町の改札をさっとすり抜け下りのホームに駆け上がった。始発下り電車が入ってきた。「ふんりゃあ、ふんりゃあ、ふんりゃあ、ふんりゃあ」とじいさんが階段を登って来る。『悪いなじいさん、闇屋になった話はあの世で聞かせてくれ』末吉は電車に飛び乗りガラガラの椅子に足を伸ばした。商売帰りの可愛いナリをしたタイ人のお姉ちゃん三人が末吉の車両仲間だ。辺りはすっかり明け渡って来た。太陽は嫌いだ、全てを曝け出す。タイの御姉ちゃんはおばちゃんに、可愛いなりは仮装に。『俺はどう見られているのか? 風呂に入ってこざっぱりしていてもやっぱりフーテンに見られているのか?』タイのおばちゃん達は上大岡で降りた。車両は貸し切りだ。涙が溢れた。拭っても拭っても溢れ出てくる。考えれば横浜西口で出会ってから十五年間兄弟同様に暮らしてきた。成人を守ることが使命とカッコつけていたが自分が支えられてきたような気がする。二人共他に友達はいなかった。末吉は日野での少年時代と現在が頭の中で、かき回された卵みたいに混乱してきた。『これからどうして生きていけばいいんだ。職について真面目に働くなら寿にいる意味はない、日野に帰ればいいのだ。フーテンは気楽でいいが未練はない、しかし今更家に帰れる訳がない。親父は俺の健康保険料も年金もしっかり納めているに違いない。お袋は何時帰るか解らぬ馬鹿息子の部屋を必ず掃除しているだろう。週に一度はベッドのシーツも取り替えているに決まってる。あの日成人が学生に脅かされてる場面に出っくわさなければ俺は帰るつもりだったんだ。いや成人を連れて行けば良かったんだ。両親も妹の洋子も歓迎してくれただろう。洋子? そう言えば洋子は結婚したんだろうか?成人と仲が良くなって付き合い始めたりして。あっ俺は祝福出切るのか? 成人と洋子が付き合う事を俺は本当に許せるのか? 他所様の娘にやさしい奴だからと進めても、自分の妹に成人を紹介出切るのか? そんな事より成人の死骸はどうなるんだ? あっまずい。コインランドリーに山さんから借りた作業着が置きっ放しだ。困っているんじゃないか作業着の持ち主。しかし何でお袋が作る茄子、胡瓜、は形が悪いんだ。笊に入った変わった野菜を見て親父が『おっ、どれも美人揃いで美味そうだね』って。親父? 俺が折った鮒竿直したかなあ親父? そう言えば成人の親父は蒸発したんだよなあ、未だ生きてるかもしれないのに警察は知っているのかなあ。舞鶴って言っていたなあ、そう言えばあの川上って親父も舞鶴って、ちきしょう、なんで成人が殺されなきゃならないんだ。俺が仇を取ってやるからよ、川上っ、待ってろっ』末吉は誰もいない車両で週刊誌の中吊りを見つめながら呟いていた。
 京浜急行で往復しているうちに時間は過ぎた。水以外は口にしていない。生きる目的が定まると急に腹が減ってきた。時刻は夕方六時を回っている。末吉は南太田で電車を降り、川っ淵を石川町に向って歩いた。じゃら銭で菓子パンと牛乳を買い一気に流し込んだ。船の休憩所には手配師の山本が先に来ていた。
「おめえ目が往っちゃってるよ、どこほっつき歩いてたんだ。相変わらずおめえを捜してるぞ警察。俺も伊勢崎署で二時間しぼられたよ。担当のポリから聞いたんだがな、山崎のやつ、便器の横で目ン球ひん剥いて死んでたらしい」
「成の奴何も持ってなかったんですか? 金も?」
「ああっ何も持っちゃあいなかったらしい。鳶の手間もあの腐れ外道にぱくられたんだろう。吉田組の二代目が言ってたが、クレーンのブームにイモリみていにへばり付いてる川上をドモリが一生懸命フォローしてたって。てめえ自身も初めてなのに年寄りをを庇いながら良くやってくれたって。最近あんな根性のある若い奴はいないって、フーテンじゃあもったいないから、うちに腰据えねえか聞いてくれって俺に打診の電話があった矢先によう。命懸けで稼いだ銭は一銭も使わねえで、腹へってたんじゃあねえのか。三途の川渡る前に貧血で倒れちまうんじゃねえのか」
「警察 成人の家族の事何か言ってましたか? 舞鶴の?」
「未だ何も解ってる風じゃ無かったなあ。でも解らねえ方がいいんじゃねえか、奴フーテン始めてもう十五年だろ、死骸だけ家族に世話させるんじゃドモリも死んでも死に切れねえだろ」
「そうですね。山さんの言う通り俺も黙ってます、あいつのこと何もかも。てめえがすきっ腹でもホームレスに握り飯わけてやってたことも、電車で年寄りに席を譲ったことも、女を抱いた経験がねえってことも、福富町で火事があった時、あいつ関係ねえのに一生懸命バケツリレー手伝って、小火で終ると『良かった、良かった』って飛び跳ねて喜んで、俺に『ま、末ちゃん、お、俺達、こ、この路通って良かったね』てめえはさんざん苛められてきたくせに、仕返ししようなんてこれっぽっちも考えねえで。すいません山さん、数えるくらいしかねえけど、あいつの水晶みていに透き通ったやさしさを誰かに知ってもらいたくて」
「でもなあ末、死んじめえば終わりなんだよ。何もかもパーってこった。ハイエナみてえに腐ったもんでもぱくったもんでも食える物はなんでも腹に入れて、生きている現実を見せ付けねえと誰も信じちゃあくれねえんだ。ましてあいつなんか、言いてえことを俺達の半分も言えねえで、おまけに三十そこそこでくたばっちまえば、何も残らねえんだよ。落ち葉焚の灰みてえによ。風に吹かれりゃあどっかにすっ飛んじまうんだ」
「でもなんで、二~三万の銭欲しさに殺すなんて、俺には理解出来ねえんですよ。金が要るならそう言やあ、成の奴なら俺みてえに小細工しねえで持ち金全部くれてやったろうに」
「それなんだよ、それが刺された原因なんだよ。ドモリみてえに弱いもんに無垢なやさしさをかけられると、そんな自分に無性に腹が立って、その存在を掻き消したくなるのさ。川上の腐れ外道にゃあドモリのやさしさが棘のように刺さって、殺す以外に棘の抜き方知らねえんだ。もっと太くて鋭い棘が胸の奥深くまで突き刺さって来ることも忘れてよう」
「山さん、すいませんけど金貸してくれませんか?一万でいいんです。返す当ても担保も無いんですけど」
「おい末、てめえ死ぬ気だなこの野郎」
「あいつは俺と十五年の間寝食を共にしてきた弟みてえなもんなんです。いや実の兄弟以上に成人が可愛かった。その弟が便所の中で、ゴキブリを踏み潰すような殺され方して、それも情けをかけてやった奴に。俺覚悟決めたんです。山さんお願いします」
「今時流行らないんだよ仇討ちなんてよ。俺等極道だって、親の仇さえ取りに行く奴なんかいねえってのによう。フーテンがカッコつけんじゃねえよ馬鹿野郎」
「そうですよね。フーテンなんかに出来っこないですよね。すいませんでした。山さん色々お世話になりました」
山本は船から降りようとする末吉の前に札入れを放り投げた。
「山さん、これっ」
「知らねえよそんなもん、落ちてる物はつべこべ言わねえでとっとと拾っていきゃあいいじゃねえか」
「ありがとうございます、お世話になりました」
「馬鹿野郎早く行けよ、フーテンに礼言われる筋合いねえよ」
 末吉は船に戻った山本に深く一礼をした。始めて山本に出会った時の事が昨日のように想い出された。末吉が家出をして横浜の寿町をうろついていると、ごっつい自転車に乗り、アロハシャツを着た三十そこそこの体格のいい男に声を掛けられた。それが山本であった。
「おい、あんちゃん。家出して来たのか? 仕事探してるなら世話してやるぞ」
 末吉は子供扱いされるのが嫌いで、初対面の男にあんちゃん呼ばわりされたのが口惜しかった。
「大きなお世話だよ。人のことよりてめえの心配でもしたらどうだい、あんちゃん」
 一度口から出た言葉はもう戻らない。言ってしまってから後悔した。山本はニカッと引き攣ったような笑いを浮かべて自転車を降りた。自転車を電柱に寄り掛け末吉の前に立った。その瞬間目の前が真っ暗になり、無数の星が蠢めいた。山本の強烈なチョウパン(頭突き)が末吉の眉間に炸裂した。その一撃で勝負はついた。悪戯猫のように首根っこをつかまれて寿一丁目の交差点で放り投げられた。
「いいかあんちゃん、この道路を境に世界が違うんだ。こっちに足を踏み入れるんだったらそれ相当の覚悟を決めてきな。それとなあ、明らかに目上と分かる奴にあんちゃん呼ばわりはやめとけっ。今度は鼻血じゃすまねえぞ、顔が背中に付いてどぶに浮く事になるぞ。いいなあんちゃん」
 その晩末吉は家に帰ろうかと悩んだ。しかし高校を卒業してから二年の間定職に付かずに親の脛を齧ってきて、家出してたったの二日で戻ったのではカッコつかないと思った。やっぱりこいつは何一つ自力じゃ出来ないボンクラなんだとレッテルを張られるのが口惜しかった。翌日放り出された道路を越えて別世界へ入った。身体中に刺すような視線を感じる。空気は独特の澱んだ臭いがする。あても無く徘徊してるだぼしゃつ、ステテコ姿の赤い顔。ノミ屋で外れ券を地面に叩き付けてる黒いスーツのバーテン風。道路に座り込み、通る人に片っ端から酒を勧めている酔っ払い。麻雀屋から昨日一発喰らったアロハシャツの男が出て来た。
「仕事世話してください」
「あんちゃん、俺を頼りにして来たんだな? 分かった。俺は山本だ。明日の朝五時にセンター前に来い、おめえ飯食ってんのか?これで作業着買って腹に何か詰め込んでおけ。なあに気にするこたあねえ、手間から差っ引く」
 それから十五年末吉のフーテン生活と山本との関係が続いた。

 末吉はサウナ室で胡座をかき目を瞑り川上以外の全ての記憶を取り去ろうと集中していた。
「あんた土方さんだね? 伝言だよ。権兵衛さんて人から、黄金町、パン屋(女郎屋)、駅から入って四件目、連絡済、以上だよ。いいね、ちゃんと伝えたよ、ったく忙しいのによう」
 サウナの雑係が面倒臭そうに末吉に伝えた。権兵衛が山本であることはすぐに分かった。
 現場まで歩いて十分、休憩ならば五十分で川上は出て行ってしまう。余裕は無いが慌てる程でもない。落ち着け、末吉は深呼吸をした。末吉はフロントからマジックを借りて、新しい真っ白のタオルに「誠」と書いて瞼が吊り上がるほど強く額に結わきつけた。そして着替えが終るとトイレの大便所に入り、紙袋から出刃包丁を取り出し、イージーパンツを擦り下げ、太ももに出刃包丁をあてがい、ガムテープで止め、二.三度ジャンプして落ちない事を確認した。トイレのゴミ箱に紙袋を捨てて通りに出た。夜風が心地良くTシャツの袖を振るわせている。

「おにーさーん きむちいいよー」
「ねえーおにいさん、あがるいいよ、サービスあるよ」
「しゃちょ、おもしろいよ あそんでいくいいよ」
 それぞれの店の前でやっと覚えた日本語で冷やかしの客を誘う。外国人の女が、生きる為に、家族を養う為に春を売っている。小銭を持った小心者達が一瞬の快楽を求めて女を買う。女達は小心をやさしさと勘違いしている。逆に男達はそれをひけらかす。犯罪が成立しなければ彼女達の家族は生活出来ない。金縁眼鏡のでぶが店に入り、醜い笑みを浮かべて何か喋った。『豚野郎っ』末吉は吐き捨て辺りを窺い、人の掃けた一瞬を突いて目的の店に入った。
「ビール」
 化粧の濃い目の吊り上がった中国人女は身の回りの小物を忙しなくバッグに仕舞い込んでいる。山本から連絡が入っている。蛇の道は蛇である。
「三万円」
 迷惑料なら安い。末吉は山本から貰った有り金全てをポケットから掴んで女に渡した。「謝謝」。女は二階で川上の相手をしている女に上海訛りの北京語で何か怒鳴った。末吉は生温いビールを煽り、階段を静かに登り始めた。腰からイージーパンツに手を突っ込み出刃の柄を握り、刃を上下に擦り、ガムテープを切った。出刃が太ももから離れる瞬間、刃先が膝頭を刺し、緩んだ気持ちを刺激した。成人の無念と川上への憎悪が脳天へ突き抜けた。女が裸で真っ赤なシャツとシャネルのバッグを抱えて階段を駆け下りてくる。バラック建ての階段はひと一人通るのがやっとで、擦れ違う時二人は身体を横向きに壁にへばり付いてお互いを交わした。きつい香水が末吉に纏わりついた。女の背中は浅黒く、ナイロンの下着が妙な形に捩れていた。末吉は踊り場から廊下に足音を消して進み、部屋の前で立ち止まった。
「おおい、はようビール持ってこんかい」 
 川上は女が状況を知って逃げ出したことに気付いていない。ビールを取りに階下へ降りたと思い込んでいる。末吉は出刃をしっかりと握り直し、自分が中から見えないように襖をゆっくりと開けた。川上は向こう向きで、布団の上にパンツ一枚の恰好でうつ伏せに、枕を首の下にあてがい煙草を吸っている。
「遅いやんか、何しとったん。もう一回やらにゃあ、な、なんやおまんは?」
「川上、市村の仇はこの土方が取らなきゃカッコつかねえんだよ、あの世で歳三叔父さんに叱られる」
「何を訳の分からんことをこの小僧が」
 川上はさっと布団から飛び出してバッグを目指した。末吉は思い切り出刃を振り下ろしたが狙った背中には刺さらず這って逃げようとする川上の太ももに刺さった。
「ううっ痛いよう、か、堪忍してくれっ」
 川上は命乞いをしながらもバックの方に這いずっている。力任せに振り下ろした出刃は柄まで刺さりなかなか抜けない。末吉は慌てた。川上が末吉の頭をブリキの灰皿でめちゃくちゃに殴っている。頭は切れ、額の「誠」が真っ赤に染まった。ももの肉を削ぎ取るように出刃を捩じり抜いたがその勢いで末吉は後ろに引っくり返った。川上は立ち上がりバッグに飛びつき、中の刺身包丁を握り、サラシの鞘に手をかけたが一瞬早く末吉の二撃が川上の臍をぶち刺した。下から出刃をドリルのようにぐりぐりと突き上げた。例えようの無い奇声を発しながら川上は仰向けに崩れ落ちた。「ひーっ」と隙間風が抜けるような息をしている。末吉は恐くなった。出刃を握り直し鉈で薪をわるように川上の首に振り下ろした。そして出刃を離して後ろに引っくり返り、口笛のような呼吸をして、鬼のような形相で死んだ川上を見つめていた。
 末吉は壁伝いに部屋を這い出た。『やった、やっちまった』不思議と笑いが込み上げて来る。悩に浮かぶ笑いの対象は二十年前にヒットした万歳の『ホーホケキョ』である。『な、なんでホーホケキョなんだよ』末吉は可笑しくて可笑しくて腹を抱えながら笑いこんだが、廊下に出て突き当たりの姿見に映る自分を見ると潮が引くように笑いは消えた。
『成人待ってろ、俺がいなきゃあ三途の川も渡れねえんじゃねえのか?この世にいたって食うのがやっとでちっともいいことなんかなかったよなあ。鬼に舌抜かれたり、火で炙られたり、針の山登らせられたって、俺がついてりゃあどうって事ねえよ。得意のジョークで痛みなんか忘れちまうよ。成人、なんで死んじまったんだよ』独り言が泣き言になった。
 末吉は階段を降り、シャワーを浴びた。Tシャツもイージーパンツも脱ぎ捨て、シャンプーの蓋をもぎ取り頭からドロドロの液体をかぶった。全身にこびり付いた血生臭さを擦り取ると服を調達する為に二階に上がった。今にも蛆が湧きそうな川上から視線を外した。川上のバッグにブリーフとランニングが入っていた。逃げた女の寝巻きだろう、真っ青な長襦袢が壁に掛けてあった。末吉はそれを羽織ってひと気を窺い表に飛び出した。走った。ひたすら川っ淵を走り続けた。赤煉瓦の倉庫を抜け昨日の現場の仮囲いを飛び越えて中に入った。深夜のビルは独特の威圧感と恐怖感を漂わせている。末吉は主電源のボックスを探しあて、全てをONに切り替えた。事務所の脇に置いてあるウオータークーラーのペダルを踏んで吹き出る冷水を飲み続けた。末吉は仮設エレベーターに乗り三十のボタンを押す。工事用エレベーターも技術が進み、本設のそれに劣らぬスピードで一気に最上階まで浮き上がった。末吉はエレベーターを降り、成人と川上が命懸けで何回も上り下りしたクレーンのブームに登り始めた。先端がワイヤーで吊られていて、まるで吊橋のようだ。しかし橋の先に道はない、天に召される人と地に落ちる奴。『どうせ死ぬなら昨日ここから落ちて死んじまえば良かったのに。そうすりゃあ殺したり殺されたりしなくて済んだんだ、僅かな金の為によう。それに労災保険がおりて、見た事も無い大金がそれぞれの家族に恵まれたんだ。歪んじゃいるがこれも親孝行、子孝行じゃねえか。ところで親父は俺に保険掛けてるのかなあ、人殺しでも保険はおりるのかなあ、ごめんよ親父、達者でなおふくろ、やさしくな洋子、末吉は真友と地獄で罪を償います。そっちで暮らしたかったよ』末吉はブームの先端まで進み、立ち上がり両手を広げた。真っ青な長襦袢がマントのように風になびいている。赤い点滅ライトがスポットライトのように末吉を主役に祭り上げる。片足を上げパチンと手を叩き顔を斜に振った。末吉最後の大見得を切り、幕は下りた。

 一月が過ぎ、警察も事件の全容を明らかにした。あるマスコミは『ホームレス、非常のサバイバル』と派手な見出しを出した。その要因として長く景気が低迷していて、労務者に仕事が回らないからだと政府を批判するちんぷんかんぷんな記事だった。成人も川上も遺骨の引き取り手が判明出来ずに無縁仏となった。末吉は親元に引き取られ、日野の菩提寺に納骨された。ここには土方歳三も眠っている。やっと勘違いに気付くであろう。
「お父さん? 末吉は天国には行けないでしょうねえ?」
「そりゃあ間違ってもそんなことはありえないよ母さん。あれは変に正義感が強くて、としよりや弱い者にはやさしくする子だが、その加減を最後まで理解出来なかったようだ。ま、所謂馬鹿者ですな」
「お父さんたらっ」
「そうだっ母さん。いくら馬鹿者でもうちの長男には違いない。罪滅ぼしに、明日から毎日土手を掃除しませんか? 空き缶やビニール袋を拾ったり、花火のカスも相当あるだろうし、釣り針や仕掛けも葦に絡み付いてる筈だ。それを毎日拾って歩きませんか?生きてる内に海まで行けたら嬉しいですねえ。それに、もしかしたら、もしかしたらですよ、神様が見ていて小さな御褒美をくれるかもしれませんよ。その神様の御褒美は二人が逝くまで使わずにとっておいて、末吉を引っ掛けて地獄から天国へ一緒に連れて行ってしまいましょう。どうですか? はははっ、あまいですか?」
「お父さんの幼稚な作戦に神様が引っ掛かる訳がありません」
「そうですか?あまいですか?」 
「そうです。あまいです。『あっもしもし洋子? 荷物になって悪いけど駅ビルの靴屋知ってるでしょ?そこで長靴買って来てちょうだい。そう、父さんのと母さんの。明日から土手を掃除するってお父さんが言うからお母さんもお付き合い』洋子も買うって言ってましたよ父さん」
 二人は末吉の遺影に手を合わせた。仏壇には母親が栽培した曲がった胡瓜と半分青いトマトが供えられている。
 
     
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一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

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